足の裏からの振動と錯覚させる靴で「歩く」を手に入れる
足の裏の感覚がないと歩くのは困難
歩行という日常的な運動のためには、実は足の裏から伝わる振動や踏み心地といった触覚情報が大切な役割を担っています。足の裏の触覚情報がなくなると、地面に対する姿勢の取り方を脳が判断できず、立つことさえ難しいのです。
例えば、氷水で足の裏をしばらく冷やした後、歩いてみてください。きっと歩くことが難しくなると思います。これは、冷やすことで触覚を感じにくくなることが原因です。
足の裏の触覚センサは感度が高い
この重要な足の裏の触覚情報を、人工的に付加して歩行を助けるというのがこの研究です。しかし、直接足の裏に振動子を置いてしまうと歩きにくく、体重や衝撃が直接加わるので壊れやすくなります。
そこで考えたのが、足の甲に振動を与え、それを足の裏からの振動だと錯覚させる手法です。
足の裏の触覚センサは、足の甲の触覚センサと比べて感度が大幅に高いことがわかっています。そのため、足の甲からの振動であるにもかかわらず、足の裏の触覚センサの方が強く反応し、足の裏を刺激されたと思い込んでしまうのです。
靴やソックスに組み込める小さな装置を開発
この手法では装置が全て足の甲側に置かれるため、壊れにくく、歩行を邪魔しません。また、システム構成がシンプルで装置を小さくできることから、靴やソックスに組み込んで、日常生活を常に触覚でサポートできるようになりました。
この研究によって、安全で疲れにくく、ちょっぴり刺激的な「歩く」を手に入れ、健康的な生活を長く続けられる社会に貢献したいと考えています。足底(足の裏)の触覚は、人間の最も基礎的な運動である歩行に欠かせません。本研究で取り組んでいる足底触覚の拡張技術は、歩行を助け、足をより健康に保つことに貢献できる可能性があります。人の感覚は刺激がないと衰え、刺激があると活発になります。疾病や高齢化で運動機能が低下することが危惧される中、足底感覚という新たな側面から健康保持をサポートしていきたいと考えています。
◆テーマとこう出会った
手指の爪の上からの振動刺激によって指腹に凹凸を錯覚させる研究は、私の学生時代に既にありました。大学卒業後の研究員だった頃にこの研究に関わり、筑波大学で自身の研究室を持つ身となってからも、研究を続けていました。
そんなある時、学生とのディスカッションの際に、足でも同様の錯覚が生じるのではないかという話になり、実際に試したところ確かに足でも錯覚が生じたというのが、研究を始めたきっかけです。その時の学生には大変感謝すると共に、学生と気軽に議論ができる環境作りの大切さを実感しました。
◆大学時代は
国際学生対抗バーチャルリアリティコンテストに自身が考えた作品(様々な食品の吸い心地をバーチャルに体験するというもの)を応募し、総合優勝しました。現在もこの作品で提案した「吸い心地提示手法」を研究しており、これまでに数多くのイベントや学会で発表しています。この作品がなかったら、研究者になっていなかったかもしれません。
◆出身高校は?
福島県立会津高校
「ヒューマンインタフェース・インタラクション」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「13.IT・AI」の「48.人工知能・機械学習、画像(CG等)、インターフェース系」
稲見昌彦
東京大学 工学部 計数工学科/情報理工学系研究科 システム情報学専攻
【人間拡張工学、自在化技術】光学迷彩の研究などが有名です。学部から修士までの恩師で、バーチャルリアリティという研究分野を教えていただきました。様々な分野に対するすさまじい知識とずば抜けた発想力を持ち、しかもその発想をすぐ形にしてしまう点は、研究者としていつも尊敬しています。「やったもん勝ち」精神をだいぶ叩き込まれました。もちろん現在も第一線で活躍しています。
梶本博之
電気通信大学 情報理工学域 I類(情報系)/情報理工学研究科 総合情報学専攻
【触覚ディスプレイ、ヒューマンインタフェース】
ハンガー反射を利用した身体誘導、電気触覚ディスプレイの研究が有名です。博士課程での恩師で、触覚分野における世界的権威の一人です。研究内容はもちろん、研究室運営が特に素晴らしく、常に学生の意見を尊重し研究を後押ししてくれるため、学生が生き生きと活動している点は非常に見習いたいと思っています。私の研究室運営でも実際に取り入れたことがたくさんあります。
情報、ロボット、土木、エネルギー、環境、宇宙、リスクなど非常に広範囲な工学分野を専門とする教員がいるので、必ず学びたい分野が見つかることが強みです。私の専門である触覚分野だけでも第一線で活躍している教員が5~6人いるなど、個々の分野の層も厚いため、専門を極めたい方も満足できます。また、複数分野を融合した学際的な研究も行いやすいので、複数の分野に興味がある方も十分に学ぶことができる環境です。
電脳コイル
磯光雄監督(テレビアニメ)
舞台が身近で絵柄も可愛らしく、誰でも見やすいSFアニメ。出てくる技術は、頑張れば近い将来実現できそうなものもあり、現実感があるのが魅力です。VR・ARを知らない人が興味を持つ良いきっかけになると思います。(画像は書籍版)
MIND HACKS
Tom Stafford、Matt Webb(オライリージャパン)
脳科学、認知心理学に関する解説が、実験付きで書かれています。多くの錯覚の例が挙げられており、楽しく、驚きをもって読めると思います。解説の内容は少し難しいので、興味があるトピックから読み始めてみるのがお勧めです。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 脳科学。最近ワクワクする学会発表は脳科学関係のものが多いので。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 東南アジア。ダイビングスポットがたくさんあるので。 |
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Q3.熱中したゲームは? 「ゼルダの伝説 時のオカリナ」。3Dの世界を自由に探検できるのが新鮮でした。 |
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Q4.大学時代の部活・サークルは? ロボコンサークルとアーチェリー部。ロボットに興味がありましたが、新しくスポーツも始めたかったので、2つかけもちでやってました。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 育児。2児の父です。育児は非常に骨が折れますが、子どもが成長していく姿を見るのは楽しいです。 |