生命の閃光 体は電気で動いている
フランシス・アシュクロフト、訳:広瀬静(東京書籍)
本書は「電気現象」が生命の根源的現象の一つであることを、膨大な例を示しながら教えてくれます。多くの生命電気現象は「イオンチャネル」とよばれる分子群によって引き起こされ、これまでに数多くのイオンチャネル遺伝子が発見され、研究対象となってきました。
味覚を含むすべての五感の受容から心臓の拍動、著者が発見した糖尿病治療法まで、これらの理解にはイオンチャネルという共通言語が必要とされます。物理現象と生命現象をつなぐイオンチャネルは、自然科学と生命科学のインターフェースとも言えます。
生命電気現象研究の歴史から最新知見までをここまで網羅した書物は他にありません。文体はカジュアルで、楽しく読めます。
塩味を感じるしくみがわかった!次は「好き嫌い」に挑む
体に良いものをおいしく、悪いものをまずく
「食べることは生きること」と言われます。これは精神的滋養の観点に加えて、栄養を摂って体を作るという事実に基づく言葉です。
一方、食べないこともまた生きることです。例えば、腐敗物や毒物を食べると死んでしまうかもしれません。
そこで私たちは体に良いものをおいしく、体に悪いものをまずく感じることで、生きるために食べたり食べなかったりします。これが「味覚」の中心的役割です。
好き嫌いを判断するしくみはブラックボックス
舌で甘味・苦味・うま味・酸味を感じるしくみはわかっていましたが、最近私たちは舌での塩味のしくみを明らかにしました。さらに舌から脳へ味覚情報を伝えるカラクリも見つけました。
さあ、これで味覚は随分わかった気がしますね。でも、まだまだです。野菜などまずくて食べられなかったものを好きになったり、お腹を壊して好物を嫌いになったりしたことはありませんか。
こうした現象、つまり脳に届いた味覚情報を好きや嫌いという判断に変換するしくみはブラックボックスであり、次なる味覚研究のフロンティアなのです。
味覚を作る脳内神経回路の解読にも挑戦
近年、光遺伝学技術の登場により科学者は神経細胞を「光」で自在に操作できるようになりました。
現在、私たちは脳内を光で照らすことで舌に触らず脳内に擬似的な味を作ったり、神経の配線を光で一つ一つON/OFFしていくことで、味覚を作る脳内神経回路の解読にチャレンジしています。
また、研究医の一人として常に、研究によっておいしさに起因する生活習慣病の克服に貢献したいと願っています。
→先生のフィールド[光操作]平成30年度採択問題ではこんな研究テーマも動いている!◆テーマとこう出会った
医師を目指す医学部生だった私が、研究に興味を持ったきっかけは「教科書」でした。医学書で人体のカラクリを知るたびに、なんと繊細なバランスの上に生命が成り立っているのかと、いつも感動と畏れを覚えていました。それと同時に、簡潔に記された教科書の一行の背景にある研究者のことを常に思っていました(大学の教科書は高校までのそれよりも研究を匂わせます)。
こんな複雑な生命のカラクリを発見するなんてどれほど「クールな体験」だろうか、自分も体験してみたい。最初はこんな不純で純粋な興味から研究の世界に飛び込んだと思います。将来、自分の発見した味覚のカラクリが教科書を書き換えたら、大学生の自分に思いっきり自慢したいですね。
医学部医学科では、人体の構造・機能をくまなく学び、その破綻としての疾患、さらに疾患の治療法までを学びます。上記の事項は臨床医師として必須の知識であるのみならず、ヒトの疾患や健康といった医学的見地から、生命科学を俯瞰する能力を培うことができます。したがって、生命科学研究者志望者にとっても、他学部では得られない知識・考え方を学ぶことができます。
生命とは何か 物理的にみた生細胞
シュレーディンガー、訳:岡小天、鎮目恭夫(岩波文庫)
量子力学を創った物理学者が様々な生命を物理的的視点から考察し、その意義を究明する歴史的名著。謎めいた人体や生命というものが厳格な自然科学の研究対象であることを痛感させられた一冊。生命科学を志すすべての人に。
夜と霧
ヴィクトール・E・フランクル、訳:池田香代子(みすず書房)
第2次世界大戦中、ユダヤ人としてアウシュヴィッツ収容所に囚われた精神科医が、極限的状況における精神の分析的観察から、人間の「生きる意味」を考察する。人間を生かすため、感情などの「精神」が適応的に変化する事実に感心するとともに、自分が研究対象にしている「脳」の奥深さを改めて知らされた。神経科学を志す人に。