リサイクル、環境分解も見据え、「分解する高分子」を合成
100年前には無かったプラスチック
タイムマシンで100年前に戻ったら、どんな生活が待っているでしょう?文房具や生活用品は燃えやすいセルロイド製で、皆さんが見慣れたプラスチック製品はありません。メガネのレンズもガラス製で、接着剤はデンプンのり、ポリエステルなどの合成繊維もありません。
プラスチック、繊維、ゴム、接着剤などの高分子材料は、現代の生活や産業には欠かせません。人類はこの100年で、これらの材料を分子レベルで理解し、人工的に生み出して来ました。いま話題の3Dプリンタや自己修復材料も、高分子化学の成果物です。私が研究する高分子化学は、自ら分子を設計し、常識破りの新素材を合成する学問です。
数百~数十万個の原子で「分子設計」
高分子は、数百~数十万個の原子が結合した、巨大分子です。私の研究は、この巨大分子を構成する原子の種類や数、並べ方を考えて、新しい性質や機能を引き出す「分子設計」から始まります。感覚としては、サッカーや将棋で選手・駒の配置を考えて、戦術を練る作業に似ています。そして、化学反応を駆使して「設計図」通りの高分子を合成し、その性能を検証する実験を繰り返す毎日を送っています。
世の中に貢献する材料を生み出す
現在の主なターゲットは、「分解する高分子」です。一概に分解と言っても、その目的は「製品解体を容易にする分解性接着剤」から、「リサイクル」「環境分解」できるプラスチックまで、幅広く扱っています(詳細は研究室HP http://fiber.shinshu-u.ac.jp/kohsaka/index.html を参照下さい)。その中でも、流行や他人の真似ではなく、常にオリジナルの仕組みや原理を提案して、世の中に貢献する材料を生み出すことを心掛けています。
中学校時代:化学研究部のプラスチック研究チームが受賞し、高分子化学に憧れました。なお、私はジャンケンに負けてガラス研究班でした(が、後にガラスは無機高分子だと知って愕然!)。
高校時代:白川英樹先生がノーベル学賞を受賞され、プラスチックに電気を流せることに感動しました。また、高分子工業が化粧品から医療機器、F1タイヤまで網羅する分野と知り、高分子化学者になると決意しました。
大学~大学院時代:素材メーカーを目指していたはずが、恩師から基礎研究の面白さを教わり、アカデミアになることを決意しました。
◆主な業種
(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 設計・開発
(3) 品質管理・評価
◆学んだことはどう生きる?
化学メーカー・素材メーカーや化粧品会社に就職し、新製品の研究開発に従事しています。私の研究室では、分子を自在に設計・合成する有機化学と、それらを巨大分子に成長させる重合化学を扱うとともに、合成した高分子の構造解析や物性評価も行っています。
有機化学と高分子科学の二刀流なので、横断的な視点や考え方が身につきます。このため、専門知識や実験技術に加えて、各分野の専門家を橋渡しする役割も担っているようです。
日本で唯一の繊維学部で、繊維産業から派生した化学・材料学科、応用生物学科、先進繊維・感性工学科、機械・ロボット学科の4つの学科が同じキャンパスに所属しています。
「繊維」という共通のモチーフがあるので、学部の一体感が強く、研究室や学科を横断した複合領域での共同研究も盛んです。例えば、私は新物質・新反応の開発が仕事ですが、先進繊維工学コースの先生が進める、ウェアラブルデバイスの研究をお手伝いさせて頂きました。
レジ袋とポリ袋は、どちらもポリエチレンでできています。しかしながら、透明度や用途が全く違います。同じ厚さのレジ袋とポリ袋を用意して、ハサミで同じ大きさに切り出して下さい。
(1) それぞれの断片を引っ張ってみましょう。変形・切断に必要な力の強さや、変形時の形状変化を観察して下さい。
(2) なぜ両者に違いが生まれるのか、それぞれの分子構造を書籍やインターネットで調べてみましょう。
(3) 不織布マスクのノーズフィッターにも、ポリエチレンが使われています。マスクを解体してノーズフィッターを取り出し、引っ張って変形・切断を試みて下さい。レジ袋やポリ袋のポリエチレンと分子構造がどう違うか、調べてみましょう。
Q1.学生時代に/最近、熱中したゲームは? 『ロマンシング サガ』シリーズ。RPGですが、自由行動のフリーシナリオ形式で、重厚なストーリーなのに縛られない楽しさを満喫。 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? サイエンス・コミュニケーション・サークル。科学イベントの企画・運営をしていました。 |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 科学館の解説員。チケットのもぎり役で採用されたはずが、休憩時にした展示解説が上手いと評判になり、いつの間にか配置転換。 |