形態・構造

植物ホルモン

植物ホルモン「オーキシン」の挙動から、植物の進化の謎を解く


楢本悟史先生

北海道大学 理学部 生物科学科(理学研究院 生物科学部門)

出会いの一冊

変わる植物学広がる植物学 モデル植物の誕生

塚谷裕一(東京大学出版会)

現在までに様々な生物のゲノム解読がすすみ、生命現象の理解が進んできています。この書籍では、分子生物学の台頭により植物科学がどのように発展してきたかを解説しています。

現在、モデル植物として広く普及しているシロイヌナズナがどのようにして、幅広く研究者に使われるようになったのか? モデル植物の台頭により生じる良い点・悪い点などが解説されており、今後、研究を行う上で心に留めておかないといけないことなどが触れられています。

以上のことから、将来、植物科学の研究者を志す高校生や大学の学部生にはぜひ読んでもらいたい書籍です。

こんな研究で世界を変えよう!

植物ホルモン「オーキシン」の挙動から、植物の進化の謎を解く

植物の発生・形態形成に重要なオーキシン

オーキシンは、植物の発生・形態形成を制御する重要なホルモンです。植物の多様な形態形成を支える分子基盤として働くホルモンであり、農業・園芸分野でも広く利用されています。

これまでにオーキシンは、組織中を一方向に極性輸送されることが知られています。また、その方向は、オーキシン排出トランスポーターPINが、細胞の特定領域に偏在することで規定されることが示されています。

PINタンパク質偏在のメカニズムとは

オーキシン極性輸送はダーウィン親子によって報告された現象です。この現象の発見自体は古いものですが、極性輸送を制御する分子実態であるPINタンパク質が、実際にどのようにして偏在するかについては未だ明らかにされていません。

そこで私は現在、PINの偏在を規定する仕組みについて研究を行っています。これまでの他研究チームの研究から、PINは細胞膜から細胞内に恒常的にエンドサイトースされており、その後、細胞の特定部位にリサイクルされ続けることで、PINの偏在が維持されるとの仮説が提示されています。PINは発生過程や光・重力応答に際し、局在を変化させますが、本仮説は、このようなPINの動的な局在変化を説明可能なため、広く受け入れられてきました。

一方で私は、PINは、通常状態ではエンドサイトーシスされず、むしろ細胞膜中で安定に、静的に偏在することを発見しました。また、光・重力の刺激が来ると、この静的な局在は解除され、エンドサイトーシスが盛んに起こることを発見しました。現在、私はこれらの局在様式がどのようにして切り替えられるのかについて研究を行っています。

多様な植物種のオーキシン輸送システムを比較

また、近年、ゲノム解読が進み、様々な生物種の間で遺伝子の配列や機能を比較解析可能になっています。これにより現代の生物学は、生物の進化を分子レベルの現象として理解可能になっています。

そこで現在私は、藻類、コケ植物、シダ植物、被子植物など様々な植物種におけるオーキシンの輸送システムについても研究を行っています。多様な植物の解析から得られた知見を比較解析することで、オーキシン極性輸送システムがどのような過程を経て、進化してきたのかを明らかにしたいと思っています。そして、その知見をもとに、地球上の多様な形態の植物がどのようにして進化してきたのかを明らかにしたいと思い、研究を行っています。

当研究室で扱っている植物の一例です。上段は植物の全体像で、左からシロイヌナズナ、ゼニゴケ、ヒメツリガネゴケです。下段は、左から胚発生、無性芽の発生、茎葉体の発生初期の共焦点レーザー顕微鏡画像です。オーキシンの輸送に関わるPINなどの、発生において必要なタンパク質の発生過程における局在部位を示しています。日々、植物の発生メカニズムについて共焦点レーザー顕微鏡を用いたりして研究を行っています。
当研究室で扱っている植物の一例です。上段は植物の全体像で、左からシロイヌナズナ、ゼニゴケ、ヒメツリガネゴケです。下段は、左から胚発生、無性芽の発生、茎葉体の発生初期の共焦点レーザー顕微鏡画像です。オーキシンの輸送に関わるPINなどの、発生において必要なタンパク質の発生過程における局在部位を示しています。日々、植物の発生メカニズムについて共焦点レーザー顕微鏡を用いたりして研究を行っています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「オーキシン極性輸送をモデルとした体軸の形成・維持機構の解明」

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共焦点レーザー顕微鏡で、植物細胞内の微小管を観察しているところです。微小管は細胞内で伸長や収縮を繰り返すことが知られています。また、伸長を行う際の先端には特異的なタンパク質が局在することが知られています。パソコンの画面上では、微小管を緑色で、伸長を行う際の微小管の先端に局在するタンパク質を赤色で標識しています。この写真は、静止画のためわかりませんが、日々このようなタンパク質の細胞内の挙動を動画撮影しています。動画を撮影することで、植物細胞内で、微小管がこの赤色の輝点を先頭として、ダイナミックに伸長・収縮する様子などがわかります。
共焦点レーザー顕微鏡で、植物細胞内の微小管を観察しているところです。微小管は細胞内で伸長や収縮を繰り返すことが知られています。また、伸長を行う際の先端には特異的なタンパク質が局在することが知られています。パソコンの画面上では、微小管を緑色で、伸長を行う際の微小管の先端に局在するタンパク質を赤色で標識しています。この写真は、静止画のためわかりませんが、日々このようなタンパク質の細胞内の挙動を動画撮影しています。動画を撮影することで、植物細胞内で、微小管がこの赤色の輝点を先頭として、ダイナミックに伸長・収縮する様子などがわかります。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 薬剤・医薬品

(2) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(3) 農業、林業、水産業

◆主な職種

(1) 大学等研究機関所属の教員・研究者

(2) 基礎・応用研究、先行開発

◆学んだことはどう生きる?

大学教員だけでなく、製薬会社、食品会社、農薬会社で研究職をしていたりします。また、種苗会社で働く方や、国家公務員になる方、SEなど、様々な業界にわたります。

研究活動においては、実験技術だけでなく、論理的思考能力、批判的思考、文章作成能力、プレゼン能力など、様々な能力を育むことができます。そのため、アカデミアに限らず、社会に出たあと、どのような職種で働く際にも活かすことができます。

先生の学部・学科は?

北海道大学理学部生物学科は、多様な研究分野の教員を構成員としていることが特色です。他の旧帝国大学などでは特定の研究分野に偏っていたりしますが、北海道大学は、系統分類学・博物学から、最先端の分子生物学の研究、さらには生態学といった幅広い研究が行われていることが特色です。

また、北海道大学は、大学入学時点では学部を決める必要はなく、入学後、幅広い教養を学んだのちに、学部を選択できることも特色です。焦らずにじっくり将来の方向性を考えることができます。

当研究室で扱っているシロイヌナズナの形態について、学生に説明している様子です。シロイヌナズナにピントがあっておらず、少々わかりにくいですが、オーキシン極性輸送が異常になるpin1突然変異体(右側)と野生型(左側)の写真になります。pin1変異体では、花芽が形成されず、先端がPIN状になった棒状の花茎を形成することが知られています。
当研究室で扱っているシロイヌナズナの形態について、学生に説明している様子です。シロイヌナズナにピントがあっておらず、少々わかりにくいですが、オーキシン極性輸送が異常になるpin1突然変異体(右側)と野生型(左側)の写真になります。pin1変異体では、花芽が形成されず、先端がPIN状になった棒状の花茎を形成することが知られています。
先生の研究に挑戦しよう!

ゼニゴケの葉状体には杯状体と呼ばれる組織が分化し、その内部には無性生殖によって生じる無性芽が形成されます。この無性芽は土の上に置かれると、明確な表裏(専門用語的にはそれぞれ背側、腹側)の組織を分化させます。裏側(腹側)には、仮根とよばれる根毛様の組織を分化させ、土に接着するのに対し、表側(背側)は緑色の光合成を行う組織を分化させます。

ゼニゴケ無性芽は、土の上に置かれた後、何らかの情報をもとに表裏の組織を分化させると考えられますが、どのようなしくみでこの制御がなされているか調べましょう。なお、この際には、植物ホルモンや、光、重力のシグナルに注目しましょう。

中高生におすすめ

植物の生の哲学 混合の形而上学

エマヌエーレ・コッチャ、訳:島崎正樹、解説:山内志朗(勁草書房)

植物の生き方・在り方が動物と比較して書いてあります。哲学エッセイであり、教科書とは異なり、文章自体は少々わかりにくい点がありますが、植物がどのような生物なのか?どのような存在なのか?を考えるのに良い書籍だと思います。


植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち

グニエル・チャモヴィッツ、訳:矢野真千子(河出文庫)

動物の感覚と植物の感覚の類似性に注目した書籍です。植物は動けないため、温度・乾燥などの環境変化に適応するために様々なシステムを進化の過程で獲得してきました。

この書籍では植物の環境応答・感覚について、専門的な内容に触れずに、動物と比較しながらやさしく解説されています。生物学、特に植物科学に興味のある方におすすめです。


愛なき世界

三浦しをん(中公文庫)

植物科学を学ぶ理系大学院生を登場人物とした小説です。小説なため実際のものとは異なりますが、研究室における日々の生活や、植物科学者を身近に感じることができると思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

動物の行動学や脳の活動について学びたいです。植物とは異なる振る舞いをする動物に関する研究も行いたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

ベルギーです。3年ほど留学していたのですが、研究レベルが高いだけでなく、町中でも英語が通じるため、問題なく生活ができます。また、食事もおいしいいです。日本と比べ、比較的余裕のある生活が期待できることも理由の一つです。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

テニス

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子育て


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