発生生物学

臓器の形態形成

細胞もひっぱれば反応する!そこに臓器形成の鍵が


平島剛志先生

京都大学 白眉センター/生命科学研究科(現在は、シンガポール国立大学)

先生のフィールドはこの本から

形の生物学

本多久夫(NHKブックス)

細胞たちが自発的に作り出す生物体のかたち作りに関する本です。「私たちのからだは細胞のシートからなる『袋』なのです」と著者は言います。あるいは、「胃の中は体の中でしょうか、外でしょうか」と問いかけます。生物体の形やそれができる仕組みに関する新たな捉え方をいくつも見出せるでしょう。

一般向けに書かれた本なのですが、私は、かたち作り研究の基本コンセプトの多くを学びました。

実は、1946年生まれの本多先生は、現役で学会発表も論文発表も(筆頭著者で)なされるスゴイ研究者です。私の手元には本多先生のサイン入りの本書がありますが、今読み返しても現場の研究者に伝わる「生物のかたち作り」の考えは色あせることはありません。

世界を変える研究はこれ!

細胞もひっぱれば反応する!そこに臓器形成の鍵が

細胞が協働して体組織を作る「形態形成」

生き物の複雑な形は、たった一つの受精卵が分裂や移動を繰り返すことで作られます。たくさんの細胞が協働して臓器などの特徴的な組織の形を作ることを形態形成と呼びますが、私は発生生物学という分野で臓器の形態形成の研究をしています。

生化学だけでは細胞の形態形成を説明できない

細胞は、外部から受ける刺激に対する応答を繰り返すことで、集団で協調しながら目的の形を作り上げます。

では、細胞はどんな刺激に対し、どのように応答するのでしょうか。20世紀後半には、細胞への刺激・応答の主体を分子に落とし込む、いわば生化学を中心とする研究成果が数多く発表されました。しかし、それだけでは生物の形を作り上げる仕組みの解明には至りませんでした。

細胞が力に反応し伸びることを発見

21世紀に入り、細胞には「機械的な力を感知して応答する仕掛け」があることがだんだんとわかってきました。例えば、細胞を引っ張ると自ら縮もうとする、もしくは伸びようとするような「細胞らしい性質」を備えているのです。私も10年ほど前から、「力」を視野に入れた新しい生命科学研究を続けています。

最近私は、マウス胎仔期の肺の細胞が伸ばされると、あるタンパク質の活性化を介して細胞自ら伸展することを見つけました。少しの刺激を感知し、増幅して大きな細胞応答に変換するフィードバック機構を細胞が備えているのです。

このような仕組みを持つ細胞が集団で発揮する性質を考えることで肺の形態形成を説明できるのでは、と考えています。

数学や機械工学のキャリアが役立っている

実は、私は由緒正しき発生生物学者ではありません。大学院生時代は、生物現象に対する数学モデルを考え解析する数理生物学を専門としていました。また、現所属の前には機械工学を専門とする研究室にいました。分野横断的に培った思想や知識がこの研究を進めるのに役立っています。

学会での招待講演

先生のフィールド[多細胞] 令和元年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている! 
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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ES細胞やiPS細胞などから、オルガノイドと呼ばれる「臓器の芽」を作る研究が盛んに行われています。

オルガノイドの問題点は一般に、サンプルごとに形が大きくばらつくことです。形態形成の理解を通してばらつきを抑える技術を開発することができれば、将来、品質の高いオルガノイドの提供につながり、すべての人々の健康的な生活や福祉の促進に役立つものと考えられます。

プレイバック学生時代

◆高校時代に

奇妙な形を持つ古生物に興味を持ちました。ある古生物学者に電話したところ、「カナダのアルバータ州に行って古生物の採掘から始めなさい」と言われました。いきなり海外進出など考えられなかった私は、変化球を使って古生物の研究をしたいと思いました。

そこで「変な生物学」を探したところ、九州大学の数理生物学教室を見つけ、数学モデルを使って生物学を研究する道を歩もうと考えました。今の研究対象は古生物ではないけれど、奇妙な形を持つものには依然として惹かれています。

◆出身高校は?

宮崎県立宮崎西高校

先生の分野を学ぶには
平島剛志先生 の研究・研究室を見てみよう
先生の学部・学科で学ぼう

京都大学生命科学研究科は、古典的な実験生物学のみならず、情報学や応用数学などを取り入れて、多角的に教育・研究指導を進めています。学生さんの幅広い興味に応えられると思います。

中高生におススメ

青春漂流

立花隆(講談社文庫)

先の見えない将来に漠然とした不安や悩みを抱えている人には、一度読んでほしい本です。様々な職業に就く若者が「人間臭く」その生き方を語ります。特に鷹匠の話がお気に入りです。研究者人生の節目に、「自分が真に求めるものは何か」を何度も考えさせられた本です。


旅人 ある物理学者の回想

湯川秀樹(角川ソフィア文庫)

天才と呼ばれた人がみなさんと同じ年頃に、何を考え、どんな生き方をしていたか、気になりませんか。美しい文体や生活描写を通して、一人の科学者をぐっと身近に感じることのできる本です。読み終える頃には、きっと、学問に対する情熱やあこがれが増すこと間違いなしです。


フェルマーの最終定理

サイモン・シン(新潮文庫)

数学の定理というよりは、数学者たちにまつわる物語として捉えると、より興味を抱く読者層は広がるでしょう。BBCが制作した同タイトルのドキュメンタリービデオも超絶面白いのですが、ぜひ文庫本で読んでほしいと思います。1つの問題を解決するために、たくさんの数学者たちが苦悩しながらも立ち向かう様が、ありありと描き出されています。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

数学。変人に囲まれて大学時代を過ごすのも良いかなと思いまして。

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ビューティフル・マインド』。劇中、プリンストン大学の学生寮が出てくるのですが、そこに3ヶ月間住んでいたことがあるので。

Q3.熱中したゲームは?

最近、ルービックキューブにはまっています。途中までは考えればできるのですが、完成に至る後半では自分の脳の限界を感じます。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

バスケットボール。小学生の頃からやっていたので、大学でも真面目にサークル活動に取り組んでいました。研究にはまるのと同時にやめてしまいましたが。

Q5.研究以外で楽しいことは?

子育て。日に日に成長していくのが楽しいですね。 


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