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偽ニュースの温床「エコーチェンバー」を分析、新たなSNSの形を提案


笹原和俊先生

東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程、イノベーション科学系

先生のフィールドはこの本から

ソーシャル物理学 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

アレックス・ペンドランド、訳:小林啓倫(草思社文庫)

著者のアレックス・ペントランドはマサチューセッツ工科大学の教授で、ビッグデータを活用して人間や社会を定量的に理解し、制御する方法を研究している研究者です。

この本では、新しいアイデアはどのようにして生まれ、どのようにして人々の間を伝わり、人々の行動や社会を変えていくのかに関する最先端の研究成果が紹介されています。

これからの社会を担う高校生の皆さんにとって、優れた意思決定や組織や社会作りに、ビッグデータやデジタルツールがどのように役立てられるかを学ぶことができる貴重な本です。

世界を変える研究はこれ!

偽ニュースの温床「エコーチェンバー」を分析、新たなSNSの形を提案

ソーシャルメディアが社会の分断を助長

人々をつなぐ役割を果たすソーシャルメディアが、むしろ社会の分断を助長しているという「エコーチェンバー」の問題が近年に深刻化しています。

エコーチェンバーとは、同じ価値観を持つ人々が過度につながり、偏った情報が流通する閉じた情報環境のことです。そのような環境はフェイク(偽)ニュースの温床となる危険性をはらんでいます。

トランプ政権誕生時、偽ニュースが氾濫

私がこの問題に関心を持ったのは、2016年にインディアナ大学で在外研究をしていた時です。米国が政治的に分断され、偽ニュースがネット上に氾濫する状況の中で、トランプ大統領が誕生する場面に立ち会いました。そのことに衝撃を受けて、エコーチェンバーの仕組みを科学的に解明し、偽ニュースの拡散を緩和する技術が作れないかと考えたのがきっかけでした。

私はエコーチェンバーを再現する計算モデルを作り、シミュレーションを行い、社会的影響と社会的つなぎ替え(フォローとアンフォロー)の大きさが鍵を握ることを突き止めました。

「意外なつながり」を促進するSNSを開発、一般公開

そしてその知見をもとにして、ユーザーが受ける社会的影響を緩和しつつ、ユーザーにとって「意外なつながり」が促進されるSNS(Polyphony)を開発しました。現在、このSNSを一般公開し、効果を検証しているところです。

多様なつながりを促進する情報技術は、デジタル社会においてますます重要になると考えています。「社会問題を転じてイノベーションの機会とする」という研究姿勢は世界を変える第一歩となると信じています。

第2回NTTデータ - Twitter Innovation Contestで優勝しました

先生のフィールド[社会情報基盤]ではこんな研究テーマも動いている!
きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

フェイク(偽)ニュースの問題に取り組むきっかけになったのは、2016年のインディアナ大学での在外研究です。米国が政治的に分断し、偽ニュースの嵐が吹き荒れる中から、トランプ大統領が誕生する現場に居合わせました。

社会的分断が起きる仕組みを科学的に解明し、偽ニュースの拡散を緩和する技術が作れないか、そう考えたのがきっかけでした。

◆学生時代は

本を読むことが好きだったので、毎週のように図書館に通って、分野を問わず面白そうな本を片端から借りて読みました。

当時、『ホーキング、宇宙を語る』という本が科学書でありながらベストセラーになっていて、車椅子に乗った天才物理学者ホーキングが宇宙の起源を明解に説明する姿に強く惹かれました。それが科学者になろうと思った原点だったと思います。

◆出身高校は?

福島県立磐城高校

先生の分野を学ぶには
注目の研究者や研究の大学へ行こう!

笹原和俊先生 の研究・研究室を見てみよう
2019年度の合宿にて、研究室メンバーと共に
先生の学部・学科で学ぼう

東京工業大学 環境・社会理工学院の特徴は異分野融合です。現実世界で生じている複雑な社会問題を理解し解決したり、新しい価値を創造したりするためには、様々な分野を横断する能力が求められます。本学院は、私が所属するイノベーション科学系を含む5つの系と技術経営専門職学位課程で構成されており、文理を超えて知識とスキルを幅広く学び、グローバルな実践力を身につけたい人にはお勧めです。

中高生におススメ

生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

生命とは何か?この「開かれた」問題に対して、詩的で美しい表現と的確なメタファーが、分子機械的な静的生命観から動的平衡状態としての生命という動的生命観に読者をガイドしてくれます。科学と文学が融合した名著。文理を超えて学びたい人にお勧めです。


ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで

スティーヴン・W. ホーキング、訳:林一(ハヤカワ文庫NF)

「宇宙の来し方、行く末」は、誰もが知りたいと思う難問中の難問。車椅子の天才物理学者が、数式を使わずに、その本質だけを明解に説明してくれます。内容もさることながら、難しい事柄をわかりやすく、本質だけを平易な言葉で伝えるためにはどうすればよいかの良いお手本です。文系の学生にも読んで欲しいです。


偶然の科学

ダンカン・ワッツ、訳:青木創(ハヤカワ文庫NF400<数理を愉しむ>シリーズ)

著者のダンカン・ワッツは、スモールワールド・ネットワークの理論でその名を知られる科学者です。この本では、これまでの社会科学の問題点やインターネットが可能にする新しい社会科学の可能性が、具体例とともに紹介されています。内容は少し難解ですが、理系のセンスで社会科学を学びたい人にはお勧めです。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

情報学。私が高校生の頃は、「情報学」を体系的に学べる大学はありませんでした。18才に戻れるなら、AIやビッグデータを勉強したいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

米国。私はカリフォルニア大学ロサンゼルス校とインディアナ大学で研究をした経験があります。世界中から優秀な研究者が集まり切磋琢磨している研究環境は、とても羨ましいと思いました。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

B’z。私の青春時代のロックバンドといえばB’zで、今でもヘビーローテーションで聴いています。特に『兵、走る』が好きで、元気がない時やこれから頑張るぞという時によく聴きます。「ゴールはここじゃない まだ終わりじゃない」という歌詞が好きです。

Q4.研究以外で楽しいことは?

子どもたちと公園で思いっきり遊ぶ。