メタン利用の壁を超える、優秀な触媒を探せ
メタンの変換反応は難しい
メタンは、炭素原子一つに水素原子が4つ結合しただけの単純な分子で、四面体の中心に炭素が、4つの頂点に水素が配された構造をしているとされています。
また天然ガスの主成分であり、みなさんにとっても実は身近な存在です。さらにニュースなどでも取り上げられるメタンハイドレートという形で、天然資源に恵まれない日本周辺の海底にも豊富に存在します。
しかし、この単純な分子を別な化学物質に効率よく変換しようとすると、途端に大きな壁が立ちはだかります。なぜならメタン中の炭素と水素の結合は非常に強く、これを切るために激しい反応条件を用いると、二酸化炭素などの役に立たない化合物だけを生成してしまうからです。
メタンだけを囲い込む触媒
この難題を解決して、メタンを原料にメタノールやエタンなどの有用な化学物質を効率よく選択的に生成できれば、現代が直面している資源枯渇問題の解決に大きく貢献できます。
このような化学物質の変換、つまり反応を行う上では、優秀な触媒の開発が鍵になります。私は、この触媒に“超分子”という概念を用いることにしました。
超分子というのは、分子と分子を弱い相互作用で結合させる概念で、私の目指す触媒では、触媒の周りにカゴのような空間を作り、メタンなどの反応させたいものだけを触媒の反応点の近くに取り込み、メタノールなどの生成物は積極的に排出することを計画しました。
まだ道半ばですが、近い将来、目的に叶う触媒を開発したいと思っています。
→先生のフィールド[革新的触媒] ではこんな研究テーマも動いている!メタンを高効率かつ室温程度の穏和な条件で、メタノールなどの運搬しやすい化合物に変換することで、これまで利用が難しかった天然に産出するメタンの有効利用が、可能になります。
◆テーマとこう出会った
2009年に筑波大学に着任以来、それまでも有機基質を酸化する触媒の研究を進めていましたが、JSTのさきがけという目的志向型のプロジェクトに参加する際に、メタンという難しい対象にどうアプローチしたらいいか、あれこれと思い悩みました。
その際に、なぜメタンの変換反応が難しいのかを4つの要素に分けて考え、解決する方法を積み上げていき、それを可能にする触媒の設計を基に、現在の研究テーマの形にしました。特に参考になったのは、実際に天然で、メタンをメタノールに酸化している細菌が保有しているメタンモノオキシゲナーゼという酵素が取っている戦略でした。
◆中学時代から
本や新聞は、よく読んでいました。自分の考えを文章で論理的に表現する力は、研究を進める上でも重要なので、そういう点で役に立っていると思います。
◆出身高校は?
北海道立室蘭栄高校
Harry Laurence Anderson
Oxford University(オックスフォード大学)
【ポルフィリンを用いた超分子化学】非常に美しい巨大分子を合成していることに感銘を受けました。
Jonathan R. Nitschke
University of Cambridge(ケンブリッジ大学)
【カゴ状分子を用いた超分子化学】今、カゴ状分子に自分が興味を持っていることもあり、注目しています。
筑波大学数理物質系化学域は、研究室数が10強の小さい学科ですが、つくば市にあるという特徴を生かして、産総研(産業技術総合研究所)や物材機構(国立研究開発法人物質・材料研究機構)に所属する研究者にも、連携教授として大学院生の教育を担ってもらっています。これは他の大学にはあまりない特徴だと思います。
世界でもっとも美しい10の科学実験
ロバート・P・クリース、訳:青木薫(日経BP)
伝記などでよく知られている有名な科学者が、どのような実験を行って、有名な原理・法則を明らかにしたのか、興味深く読むことができます。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 数学。数学の面白さや重要性を感じるのですが、やはり若い時に積み上げておかないと、難しいなとも感じています。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? カナダ。涼しくて景色の綺麗な国が好きです。 |
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Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』 |
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Q4.熱中したゲームは? 麻雀。テレビゲームに全く興味がなく、学生時代によく遊んだゲームは、これくらいです。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 休日に子どもと遊ぶこと。 |