生体医工学・生体材料学

医療材料

世界中の実験データを活用し、動物実験をせずに医療材料を作りたい


林智広先生

東京工業大学 物質理工学院 材料系(ライフエンジニアリングコース、材料コース)

先生のフィールドはこの本から

生き物たちの情報戦略 生存をかけた静かなる戦い

針山孝彦(化学同人)

生体分子(分子生物学、化学、物理)、細胞(生物)、動物個体の行動パターン(動物行動学)、さらには地球環境との関わり(地球物理学)までもカバーし、著者の経験、研究・観察現場の状況などを旅行記・エッセイのような柔らかい語り口で伝えてくれます。

これを読んだ高校生は、想像力を働かせると、このような研究をするのに今勉強していることが、いかに大切かがわかるでしょう。高校・大学での教養科目が研究の入口であると感じることができ、勉強のモチベーションも上がる本だと思います。

世界を変える研究はこれ!

世界中の実験データを活用し、動物実験をせずに医療材料を作りたい

ドイツ大学院時代、医療材料に出会う

小学生の時から無線、プログラミングが大好きで、大学でも材料を分析する実験装置の開発を行っていました。

ドイツの大学院博士課程では、本当は電子デバイスを作る研究を希望していたのですが、指導教員から「健康な人のための材料研究と、健康に困っている人のための材料研究とでは、どちらの研究がしたい?」と問われ、医療材料に関する研究をスタートしました。

これまでは物理の研究室にいましたので、タンパク質、細胞を使った実験はとても新鮮でした。

実験で使うマウスに感情移入

さらに研究が進むと、実験用マウスを使った実験に加わることになりました。マウスを傷付け、そこに私たちが開発した材料を埋め込み、マウスの組織の応答をみるというものです。

日々動物実験を行っている共同研究者は、使い捨ての試薬のようにマウスを扱っていました。でも、私は何度やっても動物に感情移入してしまったのです。結局、それ以降今まで、動物実験を行わない研究テーマを選んできました。

すでにある動物実験データで材料を自動設計

転機となったのは、情報科学との出会いでした。今までに世界中で行われてきた動物実験のデータを集めてコンピュータに学習させ、材料を自動的に設計してもらうことはできないかというアイデアが浮かび、すぐに研究をスタートしました。SNSの画像認識や自動車の自動運転に使われる技術が、医療材料の開発の役に立つと考えると、とても興奮しませんか?

「動物実験をせずに医療材料を作りたい」という挑戦は始まったばかりです。まだまだ暗中模索の日々ですが、日々の研究の興奮を楽しみながら達成したいと思っています。

研究室の引っ越し風景です。実験装置の部品を作るための、大型の工作機械(金属、木材などを欲しい形に加工します)をメンバー力を合わせて組み立てています。研究はチームワーク。研究室では物理、化学、生物、情報科学という様々な分野のメンバーが日々力を合わせ研究を進め、いつの間にか色々な分野の知識を身につけています。

先生のフィールド[マテリアルズインフォ]ではこんな研究テーマも動いている!
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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材料科学は、人類に様々な形で貢献できると思います。特に、私が関わっているバイオマテリアル研究は、水中という環境下で物体の間に働く相互作用を、材料を工夫することによって自在に制御できるという可能性を秘めています。安価に水の浄化をする装置、今までにない抗菌性を持つ材料などの開発に直接的につながります。 

◆先生が心がけていることは?

研究室においては積極的に留学生の受入れ、あるいは日本人学生の海外への派遣を推進し、多様性が保てるようにしています。学生、そして私が多様性をフェアに受け入れることで、少しでも「10. 人や国の不平等をなくそう」に貢献できればと思っています。 

きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

今でもメインの研究テーマですが、研究の発端は材料近傍の水に関する研究でした。私たちの体の60~70%を占めている水が生体活動に関わっていることは明らかで、生体材料近傍の水も大事な役割を担っていることは容易に推測できます。

ただし、他の研究者と同じアプローチでこの課題に取り組んでも新しい結果は得られません。私は得意だった装置開発、プログラミング技術を組み合わせ、新しい研究テーマを立ち上げました。

もちろん、学費・生活費などの関係での転学や留学などを通じて、出会った学友、仕事仲間、指導者が多大な影響を与えてくれたことは、疑いようがありません。

◆学生時代

まだダイアルアップ回線によるインターネット接続が主流だった頃、プログラミング、WEBサイト作成、技術記事の執筆などのアルバイトをしていました。これらを通じて社会人の世界を学ぶことができたのと同時に、プログラミング技術や文書作成能力が、現在の測定装置の制御、データ解析、さらには論文、研究提案書、その他の文書の作成に役に立っています。若い頃に必死に身につけたスキル(あるいは新しいスキルを身につけるスキル)は、一生役に立つと思います。

◆出身高校は?

聖光学院高校

先生の分野を学ぶには
注目の研究者や研究の大学へ行こう!


林智広先生 の研究・研究室を見てみよう
大学院の避難訓練のワンシーンです。全員が参加しなくてはいけない訓練も自分達の実験にして楽しんでいます。いくつかのチームに分かれて、その避難経路が一番良いかを自分達で検証します。研究室生活は実験、ゼミ、勉強だけではなく、いろいろな仕事が要求されます。ただし、少しの工夫でそれらがゲームのように楽しくなります。
先生の学部・学科で学ぼう

東京工業大学ライフエンジニアリングコースは、医療に貢献するための科学・工学をキーワードに、物理、化学、生物、機械、電子工学、情報分野の教員・研究者が集い、学生の修士論文・博士論文研究を指導します。合同で開催される研究発表会では、様々な分野、様々な視点から質疑応答、議論が展開されます。学生だけでなく、教員も一緒に学ぶ機会となっています。

中高生におススメ

ブラック・ジャック

手塚治虫(少年チャンピオン・コミックス)

小学生の時に初めて読んで以来、人生の節目節目に、そして今でも時々読み直しています。何が起きても自分の信条を曲げずに仕事を完遂するところに憧れています。


キュリー夫人伝

エーヴ・キュリー、訳: 河野万里子(白水社)

中学・高校の時に読みました。この本では単純に、努力の大切さ、科学者としての態度を教えられました。また、マリー・キュリーが経済的に困窮しながらも、必死に勉学を続けたことも学生時代の励みになりました。


自助論 スマイルズの世界的名著

サミュエル・スマイルズ、訳:竹内均(知的生きかた文庫)

この本を読んで、「叱咤激励の千本ノック」を受けました。高校時代に出会っていなかったら、今の自分はなかったと思います。


先生に一問一答
Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

最近は、Mateus Asatoというギタリストをよく聴いています。お気に入りは『Kyoto Jam』。数個の和音で書かれた単純な曲ですが、演奏は素晴らしく、私も四苦八苦しながら研究の合間に挑戦しています。

演奏が格段にうまいのはもちろんですが、彼のInstagramでの演奏映像がSNSを通じて広まり、世界的なギタリストになっていく様をリアルタイムで見ていました。まさに、良い研究をした若手研究者が注目を集め、大きい国際会議に招待されるかのようでした。

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『キューブ』という映画は、面白い映画は総制作費ではなくアイデアであるということを、教えてくれました。YouTubeでも予告編は見られるので、その独自の世界観とアイデアに感心すると思います。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

企業にインターネット回線を敷設するベンチャー企業を友達と一緒に起業し、学費・生活費を稼いでいました。夜は病院の警備をしました。今思うと、とても体力があったと思います。

Q4.研究以外で楽しいことは?

ギターを弾くこと。好きな曲を採譜して、分析すること。よく考えられた音楽のアレンジには、本当に感心します。まるで計算し尽くして設計された実験装置のようです。

Q5.会ってみたい有名人は?

台湾・デジタル担当政務委員(大臣)の唐鳳(オードリー・タン)です。彼は、技術が社会を変えていくことに、そして人間の多様性を確保する社会の構築に大きく貢献していると思います。このような人材が、日本で増えてほしいと思っています。


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