生命・健康・医療情報学

神経回路

脳神経の配線を基板上に再現、脳の機能をモデル化


山本英明先生

東北大学 工学部 電気情報物理工学科(工学研究科 電子工学専攻/電気通信研究所)

先生のフィールドはこの本から

カオスから見た時間の矢 時間を逆にたどる自然現象はなぜ見られないか

田崎秀一(講談社ブルーバックス)

「どれだけ勉強しても、あとから振り返ると『あの時もっと勉強しておけば良かった』と絶対に思うから、いまの時間を大切に使いなさい」と、ある先生が大学1年生の時の講義でおっしゃいました。ブルーバックスなどを読んでいろいろな分野を知るのも良いことだ、とも。「あの時もっと……」という気持ちはそれでもありますが、いいアドバイスを早いタイミングでもらえて良かったと思っています。

世界を変える研究はこれ!

脳神経の配線を基板上に再現、脳の機能をモデル化

「脳」を応用した情報通信技術

「細胞」という不安定な化学マシンの集合体である脳は、どのようにして記憶や情報処理を担っているのでしょうか。脳は21世紀の自然科学に残された最大のフロンティアの1つです。また、次世代社会を支える情報通信技術のモデルとしても重要で、例えば、脳に倣って設計された画像認識チップが最新のスマートフォンにも組み込まれています。

「作ることで理解を深める」 

物理学者のリチャード・P・ファインマン博士が残した黒板には「What I cannot create, I do not understand.」と書かれていました。私は、このような「作ることで理解を深める」という少し変わったアプローチで脳を理解し、工学的な応用研究に結びつけたいと考えています。

1000億個の神経細胞が相互接続して構成する脳全体を作り上げるのは現実的ではありませんが、数100細胞の機能ユニットであれば、細胞を操作して人工的に再構成し、その機能をモデル化できます。

基板上で脳のような活動が生成される

最近の研究では、生物の脳神経系がモジュール性と呼ばれる配線構造を持つことの機能的な意義を調べました。モジュール構造というのは、互いに影響を及ぼし合う機能ユニットが集まってシステム全体を成している構造です。

電子工学の分野で培われてきた微細加工技術を使って作製した特殊なガラス基板を用いることで、モジュール構造を持つ神経細胞回路を人工的に再構成しました。そして、適度にモジュール化した回路では、脳で見られるような複雑な活動パターンが生成されることを実証しました。

神経細胞を刺激するために自作した多点電極デバイス

先生のフィールド[革新的コンピューティング]ではこんな研究テーマも動いている!
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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脳損傷や神経変性疾患などに対する治療法を確立することは、現代医療が抱える重要な課題です。培養細胞を使った「脳モデル」を作ることで、新薬の候補化合物を効率的にスクリーニングする技術が開発できる可能性があります。

ヒトの脳はたかだか20W程度(豆電球4つ分)の代謝エネルギーで動作します。今後、毎年1兆個の小型デバイスが社会を支えるようになるとも言われており、「省エネ」型デバイスの開発は重要性を増しています。生物の脳を工学的な視点で理解することは、新しい低消費電力デバイスの設計につながります。

きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

大学4年生の時に配属された研究室では、自己組織化単分子膜と呼ばれる有機薄膜の基礎研究に取り組みました。これはこれで楽しかったのですが、博士課程に進学する際に、「いま一番面白い研究対象はなんだろう」と考えて、脳を選びました。

とにかく何でも良いから脳の研究がしたい、というのが当時の率直な気持ちでした。今のテーマにつながるアイディアは持っていましたが、何をどうやって研究するかという具体的なことは、五里霧中。実際に手を動かして実験をし、いろいろな研究者と知り合っていく中で固まってきたと思います。

◆子ども時代に

父の転勤でヒューストン(アメリカ)に住みました。毎週土曜日は日本語補習校に通ったのですが、そこで出会ったのが中学1年生の時の担任、三品裕司先生でした。三品先生は分子生物学者で、平日に大学の研究所で研究をする傍ら、土曜日に補習校で中学の数学と理科を教えていたのです。

「4次元とは何か」「牛乳から毒を作れる(結局、作り方は教えてもらえなかった)」といった授業の合間の雑談にわくわくしたことを覚えています。三品先生は現在、ミシガン大学の教授を務められていて、今でも交流があります。

◆出身高校は?

早稲田大学高等学院

先生の分野を学ぶには
山本英明先生 の研究・研究室を見てみよう
海外から来訪した共同研究者と研究室メンバーとのディスカッションの様子(山本先生撮影)
先生の学部・学科で学ぼう

「超スマート社会」「IoT(モノのインターネット)」「Society 5.0」など、いろいろな言葉で未来の社会は語られます。電気情報物理工学科では、それらを支える基盤技術を学び、開発します。

卒業研修や大学院進学の際には、約90の研究室から自分が探求したい専門分野を選ぶことができます。学部2年生から研究室に出入りして最先端の研究に触れることができる「Step-QIスクール」というユニークな早期研修プログラムもあります。

中高生におススメ

脳を鍛える 東大講義「人間の現在」

立花隆(新潮文庫)

ジャーナリストの立花隆さんが東大の教養学部で行った講義をもとにまとめられた本です。哲学や文学から脳科学や物理学まで、多岐にわたるテーマが扱われます。高校生の時に国語の先生に勧められて読んで、刺激的でした。


Ted Talks(ウェブサイト)

TED Talksという講演会シリーズがインターネット上で無料配信されています。私の専門に関わるものでは、Jeff Hawkins、Kwabena Boahen、Henry Markram, Ed Boyden、Sebastian Seungなどが特に印象的でした。英語や日本語の字幕を表示しながら観ることもできるので、語学の勉強にもなります。

[Webサイトへ]


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

音楽の才能を持って生まれ変われるのであれば、音大に入ってみたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

アメリカのヒューストンに4年、ドイツのミュンヘンに1年弱住みました。それぞれ楽しかったですが、外国にいると日本がもっと好きになります。

Q3. 一番お気に入りの音楽アーティストと楽曲は?

ワーグナーのオペラ

Q4.大学時代の部活・サークルは?

学生オーケストラ。クラリネットを演奏していました。

Q5.研究以外で楽しいことは?

仙台近郊の温泉に行くこと。遠刈田温泉が家族のお気に入りです。


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