イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密
天才数学者アラン・チューリングが、自身の社会適合性の低さに悩みながらも、第二次世界大戦時のドイツ軍の暗号「エニグマ」を解読するために、世界初のコンピュータとも言える電子計算機を開発する内容です。
暗号もその解読法も高度な数論に基づいて設計されており、一般に「役に立っていないと誤解されている数学」が実社会に直接的に寄与している例を見ることができます。戦争を発端としていますが、社会のニーズに基づいて産まれた暗号やコンピュータという技術は、現代の情報社会になくてはならないものになっています。
特に、チューリングの研究は、戦争の早期終結に貢献しており、こうした社会をよくする研究の重要性を知ってほしいと思います。主演:ベネディクト・カンバーバッチ。
体の中で「粉末コンピュータ」が健康チェック
まるでアニメ!0.1ミリコンピュータを目指して
子どものころに見たアニメで、自分の体を小さくして友達の体に入り、病気を治す話がありました。私は、病気が人一倍怖く、そんな能力が欲しいと思ったのを覚えています。
今、私が研究しているのは、一辺が0.1ミリほどの、目に見えないぐらいに小さく、粉薬のように飲める「粉末」のコンピュータです。
回路素子の極小化が進化の秘訣
皆さんが生まれてからのこの十数年間で、コンピュータは飛躍的に進化し、チェスや囲碁などでAIがヒトの能力を上回るまでになりました。なぜでしょうか。それは「ダウンサイジング」といって、コンピュータを構成する回路素子を小さくする技術の開発が年々進んでいったからです。
今では一個の素子が百万分の一ミリまで小さくなりました。原子でいうとほんの数十個分です。AIのような超高性能コンピュータには、この素子が100億個以上集積され、複雑な計算機能を、一辺たった数センチの集積回路に集約しています。
新発想で粉末化
しかし、このような「機能の集約」を追求する従来のコンピュータでは、ヒトの体に入れるほどの小型化には辿り着けないと気づきました。
そして、集約していた計算機能を「いったん分解して再構成」することで、個々の機能を極限まで小型化した高性能コンピュータの新しいカタチを思いつきました。これが「粉末コンピュータ」です。
体に負担をかけることなく、体内で体調や心の状態を計測・解析し、病気の予防や症状の改善に貢献します。将来的には、あのアニメのように、直接病気を治す技術の開発につながると信じ、毎日研究に励んでいます。
→先生のフィールド[革新的コンピューティング] 平成30年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている!健康寿命を延長するためには、日々の体調管理が重要ですが、毎日医師の診断を受けるのは不可能です。そこで、粉末コンピュータで負荷の少ない毎日の生体計測・心理計測装置を実現することで、この課題が解決できると思っています。
また、計測対象に察知されないほどに小さいという物理的な特徴も重要だと思っています。例えば、高齢者や乳幼児のように、計測装置を身に付けることが難しい人々への看護や見守りにも生かせる技術だと考えています。
◆テーマとこう出会った
集積回路IC技術の進化により、コンピュータ性能は爆発的に向上ましたが、実際は集積化にも物理的・経済的な限界が見えていました。これは、かつて世界一だった日本半導体の衰退にも如実に表れています。
私は学生時代から、この限界を突破するために複数のICを積み上げる三次元ICを長年研究してきましたが、物理世界と情報世界の融合を目指す今後の社会Society5.0に必要なコンピュータのカタチは何かと自問していて、物理環境に物理的に融合する小型コンピュータに興味を抱き、三次元ICのような集約型から分解・再構成型へと転換する粉末コンピュータの着想に至りました。日本が負けた集約型ICにはない新たな特徴で、もう一度世界と戦いたいと考えています。
◆大学時代
「これなら将来食いっぱぐれることはないだろう」という消極的理由で、大学では電子工学科を志望し、4年生で集積回路の研究室を希望しました。ここで初めて研究に触れ、それまで私の中で記号と数式だけの存在だった回路が、実際のモノを自分で設計できるとわかり、なにかが繋がって考えが変わりました。
それからは回路設計に没頭し、世界最高峰の国際会議で多数の論文を発表しました。私は、野球やサッカーで世界の有名選手とは戦えないけれど、この分野であれば世界と戦えると思い、今日も研究を続けています。
◆出身高校は
大分東明高校
「計算機システム」が学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「13.IT・AI」の「53.ハード・ソフト(OS、アプリ)、プログラム系」
本間尚文
東北大学 工学部 電気情報物理工学科/工学研究科 通信工学専攻/電気通信研究所
情報セキュリティ、特に高機能暗号や物理的な攻撃対策の研究を行っています。 研究だけでなく学会や部外委員等の社会的な活動が忙しい中で、確実に優れた成果を出す学生を多く輩出しています。
最近の専門分野の研究は、AI一辺倒という印象で、データサイエンスを推進するカリキュラムが優先されているように思います。その中で、神戸大学の工学部・情報知能工学科の特色は、カバーする学習領域の広さにあると思います。基本的には、数学やプログラミングの講義が中心ですが、神戸大学では、ロボット制御や超音波通信の実験も必修科目にあり、情報技術の実社会での応用範囲の広がりを理解する、よい実践だと思っています。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 純粋な理学(数学、宇宙物理学、天文学)には憧れるけれど、結局、電子工学や情報工学を選ぶと思う。社会に直接役立つ技術を自分で作ることができて、他の学問分野と関わる幅も広いので。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? 小田和正:父が小田和正が好きでいつも車でかかっていたので。耳に慣れている気がする。特に、『たしかなこと』は、論文や提案書を書く時に、社会平和を思う気持ちが強くなって良い文章が書ける気がする。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 子供と遊ぶこと。結局、自分が生きる理由になっている。 |