ソフトコンピューティング

情報処理

まだ世界にない、新しい計算方法の開拓に挑む


大久保 潤先生

埼玉大学 工学部 情報工学科(理工学研究科 数理電子情報専攻)

先生のフィールドはこの本から

われはロボット

アイザック・アシモフ(ハヤカワ文庫 SF)

確率を使った情報処理やソフトコンピューティングと呼ばれる分野にはあまり馴染みがないかもしれませんが、人間のような柔らかい情報処理を目指す、人工知能にも関わってきます。

本書は有名なSFミステリの古典で、知能を持ったロボットの開発中に引き起こされる事件を通して、知能を作る試みの過程について思いを馳せることができるでしょう。

建築物を意味する「アーキテクチャ」という言葉はソフトウェアやハードウェアの研究・開発分野でも使われますが、作品に出てくるロボット三原則という決まりごとは、まさに設計の基礎を決めるアーキテクチャを形作っています。そういった「作る側」の視点を若いうちに持って欲しいと願っています。(小尾芙佐:訳)

世界を変える研究はこれ!

まだ世界にない、新しい計算方法の開拓に挑む

効率的な計算は環境にも優しい

「何かを入力して答えが出力される」というのが計算、つまりコンピューティングです。

この問題はこのように解きましょう、ということを学校では習うかもしれませんね。

でも実際は計算をする方法は一通りではなく、同じような計算をより効率よく実行する方法が今も研究され続けています。

こういった研究が進み、計算を効率的に行うことができるようになれば、電力資源を有効に使えて地球環境にも良いですし、あるいはスマホで高度な計算ができるようになるかもしれません。

株価の数学、化学反応の数学に、ひらめいた!

私が取り組んでいるのは、数学の力を使って、新しい計算方法を作ることです。

ニュースなどで見る株価や為替の、あのギザギザしたグラフを表現する数学を作ったのは、伊藤清先生という日本人の数学者です。

私はもともと物理学の研究でそのギザギザのための数学に触れたのですが、ある日、その数学が、分子同士がぶつかって合わさったり、分解されたりという化学反応を表現する数学とつながっていることを知りました。

一見するとまったく異なる現象が数学を通じてつながるということにとても驚き、さらにこの性質を使うと新しい計算の枠組みを作れそうだと「ピン!」と来て、現在に至ります。研究が完成すると、そのギザギザの現象を素早く予測するなどの計算が可能になるはずです。

数式との格闘は楽しい

そもそもそんな計算方法が存在するという保証もないのですが、きっと正解がある、そこに何かが埋まっていると信じて、ひたすら数式をにらみ、プログラムを書いて検証する日々を送っています。でも、それが楽しいのです。

まったく異なるものを数学の言葉でつなぎ、工学的なことに利用する方法を考える。いろいろな分野を越境しながら、誰も見たことのない地平に挑戦しています。

研究室にて研究室の学生たちと

→先生のフィールド[革新的コンピューティング] 平成30年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている! 
きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

別の研究課題を知り合いの研究者と議論をしている中で、たまたまギザギザの数学と化学反応系の数学とのつながりを知りました。私は物理や数学も好きで、でも実験をしたくて化学科に進んだ後、情報科学や物理学を学んだという遠回りの学問人生を送ってきたのですが、このつながりを知って、これらの道筋が全て関係しているなあ、と不思議な気持ちになったのを覚えています。計算の話を、化学反応の数学を使って研究しているのですから。

そんな計算方法はないのかもしれないと、諦めそうになる時もありますが、でも諦めきれない。研究開始から3年後に最初の突破口ができて、それからさらに数年間あがいて、ようやく形が見えてきました。

◆大学時代

小説、哲学や社会学、経済学の専門書など、とにかく分野を問わずに本を読んでいました。数学についても、自分の所属していた学科では学ばないものを、専門書を買って自分で勉強したり……。幅広く読んでいたことが頭の片隅に残っていて、特定の分野にこだわらない研究を志向するようになっていると思います。

◆出身高校は?

埼玉県立浦和高校

先生の分野を学ぶには
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先生の学部・学科で学ぼう

情報工学科は、小規模ではありますが、レーザーを使った情報処理などの基礎的かつ革新的な研究をする教員も在籍しており、理学的な姿勢も強いと感じます。また、すべての学部が一つのキャンパスに収まっているという点を活かし、社会学の先生と共同研究をしている教員もいます。学生にとっては、多様な研究に触れられる利点があると思います。

中高生におススメ

学問の発見 数学者が語る「考えること・学ぶこと」

広中平祐(ブルーバックス)

数学界の栄誉であるフィールズ賞受賞者による本。学問の修行時代のこと、失敗談、若い人に向けてのメッセージなど、若いうちに読むと、とても刺激されます。


すべてがFになる

森博嗣(講談社文庫)

大学の先生と学生を主人公とした理系ミステリーシリーズの第1作目。大学の雰囲気、学問や研究への取りくみ方についても触れられており、示唆に富んだ小説。


空飛ぶ馬

北村薫(創元推理文庫)

主人公の大学生が、日常の謎を通して人生について考えるきっかけを得るミステリ。優しくも厳しい眼差しで人生を考えるきっかけに。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

数学を学びます

Q2.大学時代の部活・サークルは?

文芸サークル

Q3.研究以外で楽しいことは?

いろいろな分野の本を読むこと


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