シミュレーションが難しい高分子=プラスチックをうまく扱う手法開発
スーパーコンピュータでも難しい
プラスチックは、私たちの日常生活の様々な場面で使われている、とても身近な材料です。プラスチック材料は、原子が数千個や数万個もつながった高分子でできています。プラスチックを目的の形に成形したり、強さを分析したりするには、コンピュータで仮想的に高分子を作ってその動きを調べるシミュレーションが有用です。
しかし、多数の原子がつながった高分子を真面目に扱うのは、スーパーコンピュータを使ってもなお非常に難しいことです。原子の数が恐ろしく多いのに加え、高分子は動きが非常に遅いので、それが扱いを難しくしているのです。
「粗視化」で数万個がたった数十個に
そこで、高分子を形成するすべての原子の動きを真面目に見るかわりに、高分子をもう少し大雑把に捉えることで、効率的にシミュレーションを行う方法が登場しました。このような方法は、対象を粗く見ることから「粗視化」と呼ばれています。
私は高分子をうまく粗視化するための方法を研究しています。高分子を原子で表現すると数万個もの連なりになってしまいますが、粗視化を行えば、たった数十個くらいの球で表現できます。
ただし、うまく粗視化を行うのは難しく、下手な扱いをすると高分子の特徴である遅い動きが見えなくなってしまいます。私は実験データと物理の最先端の理論を組み合わせることで、安価なパソコンでも扱えて、高分子らしさをうまく表現できる粗視化の方法を編み出しているところです。プラスチックは多くの場合使い捨てられてしまい、使用後のプラスチックごみは持続性の観点から大きな問題となっています。高分子の動きを理解することで、強靭で繰り返し使えるプラスチック材料や、廃棄後に速やかに分解するプラスチック材料といった、ごみ問題を克服できる新しいプラスチック材料の開発に貢献できると思います。
◆先生が心がけていることは?
なるべく徒歩と公共交通機関で移動するようにしています。
◆テーマとこう出会った
高分子の粗視化自体は古くから多くの研究者によって研究が行われていたテーマです。大学3年生のときに講義で高分子について学び、4年生で高分子を研究している研究室に行き、高分子の粗視化の研究を開始しました。
過去の研究を調べていく中で、高分子の特徴的な動きを再現するためのいろいろな試みがあるものの、あまりうまくいっていない部分も多く残っていることに気づきました。高分子とは異なる分野の研究者との交流から、高分子に対してまだ使われていない物理の手法を知りました。最先端の物理の手法や考え方を高分子に適用することで新しい粗視化の方法を開拓できるのではないかと考えたことが現在の研究の発端です。
◆中学時代は
パソコンに興味を持ち、プログラムを自作していたことが今日の研究手法につながっています。当時はパソコンはまだ高価で、しかも計算能力は現在と比べると貧弱でした。しかし、計算能力が限定された環境でプログラムを作ることが、限られた能力を効率的に使うための手法を考えるよい練習になりました。
◆出身高校は?
愛知県立安城東高校
「生物物理・化学物理・ソフトマターの物理」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「17.化学・化学工学」の「67.物理化学、分子デバイス化学(液晶、光触媒等)」
物理工学科では、基礎的な物理学にもとづいた新しい工学の研究を行っています。研究の対象は多岐にわたり、超伝導や半導体から生物、高分子まで様々な対象を物理の手法で研究し、新しい材料の開発や新規物性の探索といった工学的な応用につなげています。力学や電磁気学、量子力学に代表される物理学の基礎と、それらに関連した数学や実験の能力をしっかりと身につけることができます。
物理学はいかに創られたか
アインシュタイン、インフェルト 訳:石原順(岩波書店)
超一流の物理学者が、物理学がどのように成立してきたかを解説。物理学というものがどのようなもので、また、研究者がどのように考えてきたのかを知ることができます。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 時間をかけて数学を学んでみたいです。 |
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Q2.熱中したゲームは? RPGを長時間やりこみました。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 美味しいお茶を色々と探しています。 |