植物分子・生理科学

分化全能性

共通するカギは体内時計!植物研究が動物の細胞分化解明の道を拓く


遠藤求先生

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域

先生のフィールドはこの本から

花を咲かせるものは何か 花成ホルモンを求めて

瀧本敦(中公新書)

なぜ植物は春になると花を咲かせるのか。どうやって季節を感じているのか。そんな単純な問いから生まれた学問分野は、多くの人を巻き込む大論争に発展しました。1930年代に提唱されたものの、その実体が長い間わからないままであったフロリゲン(花成ホルモン)が見つかるまでの歴史が、わかりやすく書いてある読み物です。

これが書かれた時点では、まだフロリゲンが見つかっておらず、翌年にフロリゲン発見の端緒となる研究が報告されたことを念頭に読むと面白いです。フロリゲンがどんなものか気になる人は、調べてみるとさらに面白いかもしれません。

世界を変える研究はこれ!

共通するカギは体内時計!植物研究が動物の細胞分化解明の道を拓く

様々な細胞に分化する能力、「分化全能性」

「分化全能性(ぶんかぜんのうせい)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ひとつの細胞が様々な機能を持った細胞へと分化できる能力のことです。

例えば、受精卵から多種多様な細胞が生みだされることで、私たちの体を構成する細胞は複雑な機能を持つことができます。

この仕組みがわかれば、事故などで失った手足などを再生できるかもしれませんし、心臓などの臓器移植をせずとも自分の体細胞から正常なものを作り出せるかもしれません。

こうしたことから、動物細胞を用いて分化全能性の研究が数多くなされていますが、まだ完全にはわかっていません。

植物と動物で分化全能性の研究は別々に行われていた

歴史的に見てみると、かつては分化全能性の研究は植物で盛んに行われてきました。植物細胞は、挿し木やカルスからの再生などに見られるように、分化全能性を簡単に示します。

しかし、植物における分化全能性の研究は、動物とは別の研究領域として長い間、交わることなく別々に研究が行われてきました。動物分野では体内時計の形成が分化に重要らしいという研究も生まれてきましたが、そうした仕組みが植物にもあるのかどうかは調べられてきませんでした。

この背景には、植物と動物はまったく違う生き物であるという前提がありました。

動物同様、植物細胞の分化には体内時計が重要と発見

しかし、これは本当でしょうか。私たちはこの点を疑問に思い研究をすすめたところ、植物細胞の分化において体内時計が重要であることを見つけました。

どうやら、体内時計を切り口に分化を見てみると、実は動物と植物は似ているらしいのです。「植物細胞の研究から、動物細胞の分化全能性を理解することができるかも?」と夢見ながら日々、研究しています。

実験に用いている植物と測定装置。この装置を用いて、生物リズムを自動計測します。

先生のフィールド[1細胞解析]ではこんな研究テーマも動いている!
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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花が咲くタイミングを制御する概日時計(体内時計)は、農業生産と密接な関係があります。花咲かじいさんのように、自由自在に花を咲かせるタイミングをコントロールできれば、増収増産や食料廃棄の低減などに貢献できると考えています。

先生の分野を学ぶには
遠藤求先生 の研究・研究室を見てみよう

遠藤研究室HP(Plant physiology)

すっかりご無沙汰していますが、登山が趣味でした。子供たちが自分で歩けるようになったら、また一緒に行きたいですね。植物を研究している人は、自然観察やガーデニングを含め、アウトドアが好きな人がやはり多いですね。剱岳です。
研究室メンバー
中高生におススメ

ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?

ダニエル・カーネマン、訳:村井章子(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ノーベル経済学賞受賞者によるヒトの行動バイアスに関する入門的な本です。どんなに素晴らしい理屈であっても、どんなに完璧なシステムであっても、(ある場合においては)欠陥だらけの人間が取り扱っている以上、必ずしも合理的にはいかないことを再認識させてくれます。理想と現実のギャップに敏感な高校生にオススメします。


イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」

安宅和人(英治出版)

いわゆる自己啓発本ですが、問題解決本の中ではかなり本質的、かつわかりやすいので、おすすめです。問題をどのように認識するか、どのように効率よく解決まで持っていくのかの「技術」を知ることは、無駄な努力を減らすことにつながります。やみくもにトライ&エラーをする前に読んでおきたい一冊。


日本語の作文技術

本多勝一(朝日文庫)

スマホで文章を書く世代にこそ読んでもらいたい一冊です。読みやすい文章とは何か、そのための技術についての本質が書かれています。同著者の『実戦・日本語の作文技術』(朝日文庫)もありますが、まずはこの一冊で十分だと思います。特に形容詞と句読点の章は秀逸です。


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