物質の量子状態「密度行列」の分光測定手法を考案・開発
私たちが知る物質や現象は密度行列の「影」
一般には知られていませんが、現代の最先端の物理学である量子力学においては、物質の状態や現象は「密度行列」という確率密度を表す行列を用いるのが最も正確な表現方法であることがわかってきました。そして興味深いことに、少し単純な言い方をすると「我々が見ているものは、すべて密度行列の影に過ぎない」のです。
現在、理論家たちはこの密度行列の運動方程式から様々な現象を説明しようとしていますが、一方で現在行われている実験は、ほぼすべて一部の情報しかもたない「影」を測定して満足しているのです。
現代においても未解明である物理現象は数多く存在しますが、その一部は、このような得られる実験結果の不完全性によってその理解が進んでいない状況です。
物質を「CTスキャン」して密度行列を推定
そこで私は、量子情報科学の分野で確立された量子トモグラフィという解析手法を応用し、「影」の測定結果から密度行列を推定する分光測定手法を考案し開発しています。これは、X線CTで影の写真から立体イメージを再構成する方法に似ていますから、「物質をCTスキャンする手法」と考えればわかりやすいでしょうか。
光合成の未解明な点も明らかにしたい
ところで21世紀になった今でも、植物の光合成のように身近な現象ですらまだ解明されていないことがたくさんあります。私が開発している物質の密度行列を光で測定する手法が上手くできるようになれば、これらの未解明ないくつかの現象が解明されるのではと期待しています。
あまり遠くない将来、顕微鏡などの測定装置で測るものはすべて行列になっているかも知れませんね。
→先生のフィールド[量子生体]平成30年度採択問題ではこんな研究テーマも動いている!私が目指しているものは、究極的には新しい物の見方、具体的には新しい物質の測定手法の開発です。光や物質がどのように成り立っていて、どのようにこの世界に作用しているかをより深く知ることは、エネルギー問題の解決や様々な技術革新を根本的に大きく前に進める力になると考えています。物理をより理解すること、その手段を開発することはすぐに社会に出てきませんが、人類社会には非常に大切なことであり、着実に進めていくべきテーマです。
◆テーマとこう出会った
私の研究テーマは、量子光学(広くは量子情報科学)と光物性物理学という2つの研究分野の実験手法を組み合わせたものです。これは私が大学の学部から大学院、博士研究員へ至るまで、4つの異なった大学や学部,研究室に所属していたことから、2つの研究分野に詳しくなったことに由来します。
両方とも光に関係する研究分野ですが、これまで実際に研究してみて、関連する現象への考え方や手法などがかなり違っていることに気が付きました。片方では常識だと考えられていることが、もう片方では未知のことだったりするのです。両方の理論や手法を理解することは簡単ではありませんが、これらをうまく組み合わせて新しいテーマを思いつきました。
◆大学~大学院時代は
子どもの頃、発明家になるのが夢でした。(少し古いですが、漫画『Dr.スランプ』に出てくる則巻千兵衛さんのようなイメージです。)大学受験では工学部の応用物理を目指しましたが、1年浪人してより根本を学べる理学部の物理学科へ行くことにしました。
大学や大学院に行くなかで興味は少しずつ変わっていきましたが、実験や測定による新しい発見は、実験装置や仕組みの細かい発明によって成り立っているので、ある意味では夢を果たせているのかもしれません。
◆出身高校は?
大阪府立寝屋川高校
「物性I」が 学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)
「15.エレクトロニクス・ナノ」の「60.物性物理・量子物理、半導体、電子関連材料」
竹内繁樹
京都大学 工学部 電気電子工学科/工学研究科 電子工学専攻
【光量子情報、ナノフォトニクス、光量子計測】特に単一光子や量子もつれ光子対の生成やコントロールする技術を極めた、この分野の日本のトップリーダーです。最近ではそれを応用した量子光コヒーレンストモグラフィの開発など幅広くされています。
これまで光子を使った量子情報技術の研究で大きな成果を挙げられてきましたが、現在はそれにこだわらず量子計測など、さらに広い分野に応用・展開されています。そこが特にすごいと思います。
枝松圭一
東北大学 工学部 電気情報物理工学科
【光物性、量子光学、量子情報】単一光子や量子もつれ光子対など量子的な光とその計測技術を用いた、光と物質の相互作用や光の量子性の根本原理を調べる研究を行われています。最近では、光の量子測定における不確定性関係に関する研究など、量子力学の本質をつく研究を進めておられます。
私が、大学院生の時に師事し、最も影響を受けた研究者の一人です。注目する様々な物理現象について、常に本質的なところから議論し理解しようとする姿勢は、今でも自分の研究者としての心構えの基礎になっています。
生命環境科学域 理学類物理科学課程は、物理の分野でも、特に物性物理の研究者が多く在籍しているのが特徴で、顕著な成果を上げている先生が何人もいます。物性物理といってもピンとこないと思いますが、ノーベル物理学賞受賞者の約半数はこの分野に関する方たちです。光や物質の様々な性質や現象を調べる学問で、光、電気・電子、情報、医療技術など、現代社会の各産業に直接影響する魅力的な研究分野で、卒業生も多方面で活躍しています。
予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」(YouTube)
ヨビノリたくみ
物理一般について触れやすいメディアをもう一つ紹介します。物理に関する話は、難しいこともあってか、嘘が混じった“とんでも”な情報も多く出回っていますが、このチャンネルの「たくみ」さんは、物理の大学院に行っていたガチの人(つまり専門家)で、正確で魅力的な話をわかりやすく発信されています。なにより物理への愛に溢れているところがよいですね。大学の関係者もこっそり参考にしている人も多いのでは。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 少しの間だけアメリカのボストンに住んでいましたが、とても良いところでした。MITやハーバードなどがあり、世界中から研究者が集まっている雰囲気は独特で、幸せなひとときでした。ヨーロッパでも物理研究が盛んな都市はいくつかありますが、それぞれ行ってみたいです。 |
|
Q2.一番聴いている音楽アーティストは? 学生のときは、中島みゆきさんの曲をよく聴いて、勇気をもらっていました。『ファイト!』など有名なもの以外に、『幸せ』や『とろ』なども好きです。 |
|
Q3.熱中したゲームは? 昔は『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』などをしていました。今はたくさん面白そうなゲームがあって、子どもたちが羨ましいです。今はハマってしまうと色々なことに支障が出るのでできないですが、もし時間にたくさん余裕があったら『マイクラ』をやってみたいです。 |
|
Q4.大学時代の部活・サークルは ? 帰宅部でした。本当はロボコンや鳥人間など、みんなでモノを作る系のサークルに入りたかったのですが、自分の通っている大学にはなかったのです。仕方がないので、帰って一人でポチポチ、パソコンをイジって遊んでいました。 |
|
Q5.会ってみたい有名人は? 落合陽一さんです。自分よりかなり年下の研究者ですが、学ぶことが多いように思います。研究の世界ではもちろんですが、特に現代社会ではそういったことに歳の上下は関係ないですね。 |