生物物理学

生体計測

力学的な側面から生命を理解する
特殊な顕微鏡を開発、生体組織や細胞の動きが見えた


市村垂生先生

大阪大学 先導的学際研究機構 超次元ライフイメージング研究部門

先生のフィールドはこの本から

マックスウェルの悪魔 確率から物理学へ

都筑卓司(ブルーバックス)

エントロピーという物理量がいかに重要な量であるかがわかる本。エネルギーや運動方程式と同等に重要です。高校物理ではほぼ扱われないですが、大学以降の物理学、生物学、化学などあらゆる自然科学分野を理解する上で、欠かせない概念だと思います。

世界を変える研究はこれ!

特殊な顕微鏡を開発、生体組織や細胞の動きが見えた

ツール不足で分析が難しかった細胞や組織の動き

生命科学ではこれまで「どのような分子がどのぐらいあるか」「どんな化学反応が起こっているか」「どのように移動するか」といった問いに答える形で、生命システムの理解が進められてきました。

これは化学的視点による生命理解と言えます。一方で、生体細胞や組織の中では、押したり、引っ張ったり、ねじったり、それらに反発したりといった力学的な作用が、重要な役割を担っていることも知られています。

生命システムの実態は、化学的な作用と力学的な作用が両輪となって動作していると考えられます。しかしながら、力学的な作用を計測するツールが十分には揃っていないため、力学的な側面の研究は進んでいませんでした。

光の散乱現象を利用して可視化

私の研究では、この状況を打破するために、光の散乱現象を利用した力学的相互作用の計測法を提案しました。これにより、力学的な側面から生命を理解することを目指しています。

ここで使う散乱現象は、音響フォノンと呼ばれる超音波によって光が散乱される現象です。音響フォノンは細胞などの媒質の内部で絶えず生成されては散逸していて、光を散乱するときに媒質の力学特性に依存して波長をシフトさせます。

私が開発した特殊な顕微鏡によって、この散乱光で組織や細胞の中を見ることで、生体内の力学情報のイメージングを実現できるようになりました。

現在、この顕微鏡と従来の顕微鏡を組み合わせて、生物の中で起こる化学と力学による相互作用ネットワークを明らかにすることを目指して、研究を進めています。この先に新しいフロンティアがあると信じています。

今や学問分野の垣根を越えなければ生命研究はできない

このように生物学の進歩は、計測法の進歩と相補的な関係にあります。しかし新規計測法の開発は、生命科学の知識だけでは為し得ません。私は物理学や光学をバックグラウンドに持ちながら生物学研究に取り組んでいるため、上で紹介した技術以外にも様々な光計測技術を自ら開発しながら生命研究を推進できています。

他の分野にも当てはまることですが、今日の科学研究で新しい道を切り拓くには、分野の垣根を越えて多角的な視点から考えることが必要です。私自身がこのことに気づいたのは研究者になってからで、とても苦労しました。

今の高校生の方々には、将来を見据えて、幅広い知識と教養を身につけることを強くお奨めしたいと思います。特に、統計学と論理学は科学的思考の素地となるので、高校ではあまり教えてもらえないですが、「役立つ知識」と信じて学んでおいて欲しいです。

実験室での一幕。画像データを見ながら議論しています

先生のフィールド[量子生体]ではこんな研究テーマも動いている!
プレイバック学生時代
◆高校から大学院まで

高校生当時から研究者志望でしたが、分野については生物系か物理系かで迷っていました。センター試験までに一旦生物系に絞り込みましたが、ある人からの「物理から生物に移ることはできるけど、逆は無理」という言葉に影響を受け、物理系に進みました。

物理系で博士号を取得した後に、生物系の研究所に移りました。この選択が正しかったとは断言はできませんが、現在物理的視点で、物理学を駆使した計測法によって生物計測に取り組めていることは、この世界で生きる上での強みになっています。

◆出身高校は?

兵庫県立加古川東高校

先生の分野を学ぶには
注目の研究者や研究の大学へ行こう!


市村垂生先生 の研究・研究室を見てみよう

大阪大学先導的学際研究機構 超次元ライフイメージング研究部門 HP

研究室の壁一面をホワイトボードにして、いつでも議論できるようにしています
中高生におススメ

生命とは何か 物理的にみた生細胞

エルヴィン・シュレーディンガー(岩波文庫)

量子物理学者シュレーディンガーが、生命とは何かを物理的視点から論理的に考察し、生命と非生命の違いを明らかにする本。特にDNAの構造がわかっていない1940年代に、物理的、統計力学的考察からDNAの構造を推測する章は、感動を覚えます。


火の鳥2 未来編

手塚治虫(朝日新聞出版)

宇宙の果て、素粒子の中、数億年後の地球……、子どもの頃に漠然と考えた時間と空間の永遠について、一つの解釈を与えてくれる本。科学がどれだけ発展しても、おそらく答えにたどり着けないであろうというある種の絶望感を、この本が解消してくれました。同時に、この世界の果てしなさを再認識させられて、呆然としました。私の中では、手塚治虫の最高傑作です。


先生に一問一答
Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

BiSH

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『二百三高地』『es』

Q3.大学時代の部活・サークルは?

キャンプリーダー

Q4.研究以外で楽しいことは?

家具作り(DIY)、インラインスケート、ケーキ作り、バスケットボール、キャンプ

Q5.会ってみたい有名人は?

バスケットボール女子日本代表


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