◆研究のきっかけは何ですか
私の研究している数学の分野は、数論幾何学です。数論幾何学をわかりやすく言うと、整数の性質を調べる数論という分野と、図形の性質を調べる幾何学という分野の中間にある分野です。
数論は数学の中でも最も古い分野の1つで、古代ギリシャから現在に至るまで多くの数学者を魅了してきました。その中で、20世紀後半以降大きな進展を遂げたのが、数論幾何学という分野で、整数と図形の不思議で深い関係を追求する学問です。
私は、その中でもアレクサンドル・グロタンディークが1980年代に提唱した、遠アーベル幾何学という分野を主に研究しています。図形を研究する場合、その図形を定義域に持つ関数全体の構造を調べることが必要になりますが、その際の重要な性質が、2つの関数の和や積が考えられるということです。
つまり従来の幾何学は、たし算とかけ算の2つの演算に基礎を置いています。これに対し遠アーベル幾何学は、数論幾何学に現れる図形を1つの演算だけで捉えてしまおう、という斬新な発想に基づいています。
同僚の望月新一さん、星裕一郎さんも遠アーベル幾何学を研究しており、京都大学数理解析研究所は、遠アーベル幾何学の世界的中心となっています。
◆その研究が進むと何が良いのでしょう
例えば、1990年代にアンドリュー・ワイルズが証明したフェルマーの最終定理や、最近望月新一さんが証明したABC予想など、いくつもの数論の大問題が数論幾何学を用いて解かれています。特に望月さんのABC予想の証明では、遠アーベル幾何学の理論や考え方が重要な役割を果たしています。
また、数論や数論幾何学の研究は、暗号理論・符号理論・乱数理論など、現代の情報社会を支える様々な理論に応用されています。
◆今後の目標は何ですか
幾何を通じて整数の奥深い性質を解明するというのが、大きな目標です。分野全体としては、例えばミレニアム懸賞問題の中の「リーマン予想」「ホッジ予想」「バーチ・スイナートン=ダイヤー予想」などの数論に関係する大予想が数論幾何学を用いて解けると面白いと思います。
私個人としては、遠アーベル幾何学を中心として、数論幾何学に現れる図形と「群(ぐん)」という1つの演算を持つ対象の関係を、さらに深く調べていきたいと考えています。最近10数年ほどは、アメリカ・イギリス・フランスなどの数学者との共同研究にも力を入れているので、彼らとの議論の中で新しいアイデアを見つけていきたいと思います。
数学は、全ての科学技術の基礎を成しています。現実社会への応用からほど遠く見える数論のような分野でも、実は暗号理論・符号理論・乱数理論など、情報技術の基盤となる理論に応用されています。
数学は物理的・社会的拘束から離れた絶対的真理を追求する学問であり、ひとたび証明された理論は、時空を問わず未来永劫に成り立つものです。
現代数学の様々な理論がSDGsの具体的な課題に役に立つのは、1年後か10年後か100年後かはわかりません。ただ、数学の歩みを止めることは、いつか人類の未来の歩みを止めることを意味すると思います。
小学校低学年の頃は家の近所の図書館に毎日のように通っていて、そこで出会った野崎昭弘先生の「πの話」という本に夢中になり、何度も何度も繰り返し借りて読みました。π/4=1-1/3+1/5-1/7+…などπを表す不思議な公式たちに心を踊らせ、特にオイラーの公式(eπi =-1)の神秘性に強く心がひかれました。小学2年のときの作文で「オイラーのような大数学者になりたい」と書いたことを覚えています。
それからずっと数学者になることは憧れでしたが、自分の知っている数学者は全て歴史上の人物であり、数学の研究が現在でも職業になるということは全く知りませんでした。
状況が変わったのは、高3で受験勉強のために赤本を見ていた時です。各学科の先輩たちの大学紹介ページを読んでいて、現代の数学者というのはどうやら大学の数学科に所属する先生のことであるらしい、ということにようやく気付きました。この時、本当に未来が開けた気がしました。
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京都大学数理解析研究所は大学生を教育する機関ではありませんが、大学院生の教育には力を注いでおり、毎年全国の大学生が受験しています。これまでの私の学生は、主に数論の研究をしています。特に数論幾何学の研究をする学生が多いのですが、応用寄りの数論の研究や解析寄りの数論の研究をする学生もおり、学生本人の希望に従って、広く研究テーマが選ばれています。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
・ソフトウエア・情報システム開発
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者
・基礎・応用研究、先行開発
◆学んだことはどう生きる?
大学で教員・研究員として、専門分野の数学の研究に当たっている卒業生が何人もいます。また、企業に勤めている卒業生も複数おり、その中には企業の研究所に勤めて、専門分野の研究を活かした応用研究を行っている卒業生もいます。
数論は、整数を中心とする数の性質を調べる学問です。数へのアプローチの仕方から、代数的整数論、解析数論、数論幾何学などに分かれます。数論幾何学は、幾何学を通して整数の深い性質を解明する、20世紀後半以降大きく進展している比較的新しい分野です。たくさんの重要な結果が証明されていますが、未解決問題もそれ以上にたくさんあります。数の性質に興味がある人は、大学・大学院に進学してぜひ挑戦してみてください!
以下では「多項式」は実数(あるいは複素数)を係数に持つ1変数多項式を意味します。
・ピタゴラス数の多項式版「f2 +g2 =h2 をみたす互いに素な多項式f、g、h」で、定数でないものの例を見つけましょう。
・上記のような性質を持つ多項式f、g、hを全て見つけることを試みてみましょう。
・フェルマーの最終定理の多項式版「n≧3のとき、fn +gn =hn をみたす互いに素な多項式f、g、hで定数でないものは存在しない」の、微分を用いた証明を考えてみましょう。
Q1.感動した映画は?印象に残っている映画は? 1つ挙げるならば『ニュー・シネマ・パラダイス』でしょうか。子どもの頃は『禁じられた遊び』という映画が好きでした。音楽の良い映画が印象に残るみたいですね。 |
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Q2.研究以外で楽しいことは? ニュースやドラマなど家族でテレビを見て、ああだこうだ言い合っているのが楽しいですね。あと、現在大学生の息子が小学生の頃からずっと野球をやっているのですが、息子の野球の試合を見るのはこの10年間ずっと楽しみでした。 |
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Q3.会ってみたい有名人は? 故人なのでもう無理ですが、アレクサンドル・グロタンディークという数学者には会ってみたかった気がします。 |