応用物性

電子スピン

微小磁石の性質を持つ電子スピンを電気的に操作する世界初の実験に成功


新田淳作先生

東北大学 工学部 名誉教授

image

研究室での実験


◆どのような研究でしょうか

物質を原子レベルで観察すると、中心に原子核、その周囲を電子が回っています。電子は「電荷」と「スピン」という2つの性質を持っています。トランジスタに用いられる半導体は「電荷」を電気的に制御することで動いています。

一方、電子は「スピン」と呼ばれる微小な磁石の性質があり、その微小な磁石はS極とN極の向きを持ちます。最近、「スピン」の向きを、磁気を用いることなく電気的に操作することにより、省電力・高速演算可能なコンピュータが実現できると予想され、世界中の研究者がしのぎを削っています。しかし、そのためには「スピン」の向きを、ナノスケールの微小な空間で電気的に操作するという、誰も解決できない困難な課題がありました。

私たちは半導体中の電子の持つ「スピン」の向きを、ナノスケールで電気的に操作する実験に挑み、世界で初めて成功しました。

◆どんな成果が期待されているのでしょうか

今日のエレクトロニクス産業を牽引している材料の半導体と磁性体は、どちらも電子の性質を利用しています。コンピュータの中で、半導体は電子の「電荷」を利用したトランジスタとして、磁性体は電子の「スピン」を用いた記憶装置として、別々に開発が進められ、「スピン」と「電荷」を同時に利用することは最近までほとんどありませんでした。

しかし、今や半導体の集積化技術は限界に近づき、電子部品の性能の進化も頭打ちの状況です。この状況を切り拓く学問は、「スピン」をエレクトロニクスに生かすという意味で、スピントロニクスと呼ばれています。

それは応用物性の分野の中で、21世紀の新たな科学技術として期待を集めています。「スピン」を高精度に電気で操作する我々の方法は、この分野を大きく前進させるでしょう。 

SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

image

人口増加が見込めず、資源の少ない日本が将来にわたって繁栄し、世界から尊敬を集める国になるには、技術革新により新しい産業を生み出すことが重要です。

スピントロニクスは、日本の研究が先導的な役割を果たしています。電子の持つ「スピン」を電気的に高精度に操作する技術により、省電力・高速演算可能なコンピュータの実現に向けて、研究を進めていきたいと思います。

この道に進んだきっかけ

中学・高校時代は文系や、歴史などの記憶力が必要とされる科目が不得手で、大学は消去法で理系を選びました。いわゆる、勉強ができる成績の良い学生ではありませんでした。

大学の卒論研究では、ザリガニの触覚を用いて、機械的な刺激が電気的な信号に変換され神経を伝わっていく、そのプロセスを調べていました。

雑音の多い昼間はきれいな信号が観測されないため、毎回徹夜で実験をしました。工夫や苦労を重ねて、これまでにない新しいことを成果として見出せば、学会で発表し研究論文として後世に残せるのだと知り、研究者としての面白さを実感しました。

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう

image

研究室にて

学生はどんな研究を?

・スピントランジスタなど電子スピンを用いた、新しい機能の創出

・スピンの向きを電気的に自在に操作しつつ、永続的に保つ方法の開発

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・半導体・電子部品・デバイス

◆主な職種

・基礎・応用研究、先行開発 

 

研究室卒業生の活躍は下記をご覧ください。

◆OBインタビュー

https://www.eng.tohoku.ac.jp/driving_force/vol16-1.html

先生からひとこと

電子は「電荷」とともに微小な磁石である「スピン」を持っています。これまでのエレクトロニクスでは、電子の持つ「電荷」の特性が用いられてきました。集積化の限界とともに「スピン」の特性を用いて、新しい機能を持つエレクトロニクスである「スピントロニクス」の分野を開拓しようとするため、本研究を進めています。学生には、物理に立脚した学問の開拓と工学への展開を念頭に置いて、指導しています。

先生の研究に挑戦しよう!

(1)エレクトロニクスが現代社会にもたらした恩恵と、特に重要な役割をはたしてきた装置やデバイスを念頭に置いて現在抱える問題点を調べてください。

(2)エレクトロニクスにスピンが導入されるとどのような変革がもたらされるか調べてください。

中高生におすすめ

科学者になる方法 第一線の研究者が語る

科学技術振興機構プレスルーム(東京書籍)

ノーベル賞受賞者など第一線で活躍する研究者たちが「どうやったら科学者になれるのか?」をキーワードに、高校生の頃から研究者になるまでの経緯、現在関わっている研究の醍醐味を語る。研究のノウハウではなく、それぞれの研究者の体験談が語られるので、研究の魅力が伝わってくる。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

人間の脳が持つ、情報処理機能や感情の起源について研究してみたいです。バイオサイエンス、エレクトロニクスと心理学の融合分野でしょうか。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

米国。オランダとドイツには長期滞在しました。ヨーロッパは比較的マイペースで基礎研究をしっかり行う印象を持ちました。競争の一層激しい、米国の研究環境を体験してみたいと思います。

Q3.研究以外で楽しいことは?

下手ですが、将棋。若手もベテランも全く関係ない、実力勝負の世界が好きです。研究においても、教授も学生も関係なく正しい結論を見出した人を尊重します。


みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ