◆研究のきっかけは何ですか
東日本大震災がきっかけです。地震・津波によって、携帯電話の基地局が広範囲で機能を停止したため、携帯電話が繋がらなくなりました。被災地に非常用通信設備が展開されるまで、被害状況の把握や避難情報の発信は困難な状況でした。
仙台に住んでいた私は、このような状況があったことを知り、携帯電話の基地局が損壊しても、被災地の人々が持つスマートフォン同士を直接繋げることができれば、情報を遠くまで運べるのではないかと考えました。この発想から誕生したのが、近くにあるスマートフォン同士が自動的にネットワークを作る仕組み「スマホdeリレー」です。
◆どんな成果が上がりましたか
スマホdeリレーで工夫したのは、スマートフォンを使う人が、特にスマートフォンを操作しなくてもリレー通信をできるようにしたことです。これにより、お年寄りにとっても使いやすくなっています。
スマートフォン同士を直接繋げる技術として、それぞれ長所と短所を持つ2つの異なるネットワーク形成技術がありますが、私たちはその両者を融合することに挑戦しました。これにより、お互いの弱点が相互に補完され、通信の効率性を高めることができました。
2016年には、毎年台風による被害が多発するフィリピンで「スマホdeリレー」が実際に役立つかどうか検証をしました。その結果、災害時の被災者情報収集に大きく役立つ可能性が高いことが分かりました。また、通信インフラの整備が不十分な地域では、日常の通信手段としても大きな需要があることが分かりました。
実験に携わった学生たちは、実際の現場経験を通じて、研究者あるいは技術者として大きな自覚と自信を抱くとともに、現地の人々との交流を通じて、将来の活躍の場として世界を意識するようになったようです。
◆その研究が進むと何が良いのでしょう
「スマホdeリレー」の研究成果は、スマートフォン以外にも応用することができます。スマートフォンだけでなく、ドローンの通信や、地上のスマートフォンと小型無人航空機との通信の実現も目指しています。また「スマホdeリレー」を車両に搭載すれば、歩行者と車両の間で情報を伝達することができます。この技術が、今話題の自動運転技術や、安全運転支援に役立つことを期待しています。
スマートフォンに代表される携帯電話は、今や重要な社会インフラとなりました。しかし、東日本大震災のような大規模災害時には、そのシステムは広域にわたって機能停止に陥る可能性があります。通信の途絶が発生し、社会に大きな混乱がもたらされるかも知れません。
スマホdeリレーに代表される私たちの研究成果は、そのような大規模災害時に備えた通信ツールとなります。多くの人に利用してもらうことで、安心して暮らせる社会の構築へ、貢献できると期待しています。
私が通っていた高校は、小さな町にある県立高校で、いわゆる進学校ではありませんでした。しかし幸いなことに、高校時代に、本学を卒業された数学の先生と巡り会い、大学で学ぶことの楽しさを話していただいたことがありました。また、本学元総長の故西澤潤一名誉教授が高校で講演され、ご研究の内容を大変楽しそうにお話しになっていた姿が、今でも私の記憶に鮮明に残っています。
これが、工学への道を目指すようになったきっかけです。そしてこのことが、もしかしたら“研究者”という職業を、自分の将来の道の1つとして認識した、最初の瞬間だったかも知れません。
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「13.IT・AI」の「49.通信、ネットワーク/IoT、セキュリティ系」
◆「TECH-MAG 研究室レポート」(TDK)
◆「次世代ネットワークは“つながる”から“つくる”へ。」(東北大学大学院情報科学研究科)
◆「モノとモノとが直接つながり、情報をやり取りする。『スマホdeリレー®』から発展させた 、新しい通信システムの世界へ。」(東北大学工学部)
◆「情報断絶のない安全・安心な社会を目指して」(構造計画研究所)
IoT/AI時代とさらにその先を見据えた、3つの研究テーマに取り組んでいます。
1つ目は、無線アクセスネットワークの性能や機能を向上させる研究です。例えば、5G(第5世代移動通信システム)の進化に向けた研究などです。
2つ目は、有人・無人のありとあらゆるモノがダイレクトに繋がる(オフラインでも繋がる)通信です。研究対象は例えば、スマート家電、スマートハウス、デジタルサイネージ、作業機械(マシン)、スマートフォン、クルマ、ドローン、車両、船舶、航空機、衛星、宇宙探査機などです。
自動運転や、ドローン等の自律飛行体の衝突回避の実現にも貢献することを目指しています。ただ、モノによって搭載されている通信機の性能・機能が異なりますし、モノの中には止まっているものもあれば、超高速移動しているものもあるため、実現はまだ難しいかもしれません。でも、通信困難な環境にあってもどうやって通信を実現するか、それが研究の難しい点であり、面白い点でもあります。
3つ目は、災害に強い通信ネットワークシステムの実現です。東日本大震災がそうであったように、大規模災害時には通信インフラは大規模な機能停止に陥る危険性があります。そのような状況では、生き残った通信インフラに加え、モノ同士の直接接続によるオフライン通信を最大限活用することが有効です。
異なる通信ネットワークシステムを、時間・空間を問わずに高度に連携させるための技術として、自律分散協調技術を備えた局所集中型通信システムの実現を目指し、日々学生と共に研究に励んでいます。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
本研究室は、2019年にスタートしたまだ新しい研究室です。そのため、まだ卒業生は大学院への進学者のみですが、本研究室では多様な通信システムに関する研究を行っているので、将来は通信・放送業界、官公庁、研究機関等での通信関連業務に携わる卒業生が増えると思います。次世代の移動通信システム(今話題の5Gに代わる未来の通信システム)の実現のために従事する人も出てくることは間違いないでしょう。
皆さんが日々勉強している数学という科目は、実は世界最先端の研究へと続く道です。高校の授業では何に使うかイメージしにくいかもしれませんが、三角関数・微積分・虚数・確率・図形などの数学は、情報通信システムの機能や性能、あるいは無線通信や光通信における、電波や光波の空間の伝わり方を記述したり、解析したりするために使われています。
さらに、これからは情報通信システムの制御機構の一部に、人工知能が導入されることが加速していきますが、人工知能には統計、つまり数学の知識が必要になります。ぜひ楽しんで日々の勉強に励んで頂きたいと思います。
また、英語による発信力は必須です。なぜなら、世界で初めて何かを発見・発明したときに、世界中の人たちにそのことを知ってもらいたいからです。そして、その発見・発明が社会を豊かにするために役立つと嬉しいですね。
高校生の皆さんには、ぜひ英語も楽しく学んで身につけてほしいと思います(私も英語は生涯学習だと思って今でも勉強し続けています)。
災害発生時には、情報の入手と発信が大変重要になります。一方、災害と一口に言っても、地震、津波、台風、洪水など様々です。いつ、どこで被災するかもわかりません。家族や友人と一緒かどうかもわかりません。被災状況を具体的に想定した上で、「入手すべき情報は何か?」、「発信すべき情報は何か?」、「そのために役立つ通信機器や通信アプリ等は何か?」について考えてみましょう。
Q1.感動した映画は?印象に残っている映画は? はやぶさ/HAYABUSA |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? ソフトテニス。中学時代から続けていて、今でも時折、家族みんなで楽しんでいます。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 家族と一緒に過ごして、子供たちと遊ぶこと。そして、ランニングです。 |