◆着想のきっかけは何ですか
私が大学院を修了(卒業)し、若手研究者として働き始めた当時、天気予報や地球温暖化予測では、都市の存在がほぼ無視されていました。そのため、ヒートアイランドなど都市特有の現象が正しく予測できていませんでした。
私は、ヒートアイランドは将来重要な問題になると思っていたので、天気予報や地球温暖化予測の模擬実験モデル(コンピュータシミュレーションモデル、ソフトウエア)にビルの存在や自動車などから出る熱など、都市の様々な効果を取り込むことで、都市の気象や気候を高精度に予測できるシミュレーションモデルを開発しました。
◆得られた具体的な成果は何ですか
都市気候シミュレーションモデルを開発し、それを用いることで「地球温暖化とヒートアイランドのどちらが、将来の大都市の気温上昇により大きな影響を与えるのか」という素朴な疑問に、答えを出せるようになりました。
具体的には、東京の過去の気温上昇に対してはヒートアイランド効果が、また将来の気温上昇に対しては地球温暖化の影響が大きいことが分かりました。また、都市が発展するとゲリラ豪雨が増えることも分かりました。
また、埼玉県熊谷市や岐阜県多治見市といった内陸の都市で、最高気温を記録しました。これは、教科書に載っている標準的なフェーン現象ではなく、新しいタイプのフェーンであったことを明らかにしました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
気象・気候のシミュレーションモデルは、私たちが知りたい都市の過去の気象や気候を再現でき、未来の気象や気候を予測できるソフトウエアです。
現在、猛暑による熱中症などが社会問題となっています。これに対して、東京に緑を増やしたらどのくらい暑さがやわらぐのか、などの問いにも答えることができます。
気候変動(地球温暖化)とヒートアイランド現象により、日本の夏はますます暑くなっています。将来も暮らしやすい街を作るためには、暑さ対策が不可欠です。
学生たちと一緒に最近開発している気象シミュレーションモデルは、都市内の気温・湿度・風・日向日陰などを、1m毎に予測することができます。このような最新のシミュレーションモデルを使えば、街路樹やミスト散布を、どこでどのように行えば最も効果的に暑さを緩和できるか?などの問いに答えることができます。
私は、ある小さな町で自然に囲まれて育ちました。子供の頃、父は私をよく海に連れて行ってくれました。中学・高校時代は将棋に熱中し,高校卒業後は、河合塾と筑波大学で気象学を学びました。大学の卒業研究はとても大変でしたが、仲間たちと一緒に過ごしたあの日々は、私の人生にとってかけがえのない思い出となりました。
私が研究者を志したのは、子供の頃の思い出と、美しい自然現象のふしぎを自分の手で解明したいという気持ちと、将棋や気象学の研究をしていた頃の、充実で幸せな時間のおかげだと思います。何か特別なきっかけがあったのではなく、研究者になりたい気持ちが少しずつ、じんわりと温められていきました。
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「1.環境・防災」の「1.気象・海洋、地震・津波、火山、防災・復興学」
◆「研究室にようこそ!」(筑波大学)
◆「地球温暖化は、より多くの雨をもたらす?」(EMIRA)
◆「2020年に向けて筑波大学と都市気象の共同研究を開始〜東京都内マラソンコースの風を予測!都市気象予測モデルの実用化へ〜」(ウェザーニューズ)
◆「日下博幸会員が Landsberg Award を受賞」 (日本気象学会)
私の研究室には、風と雲が大好きな学生や、ヒートアイランドや熱中症などの社会問題に感心が高い学生が集まってきます。学生たちは、自分たちの生まれ育った地域の特有の気象や気候に関心が高く、そこで起こる様々な未解明問題や環境問題に取り組んでいます。
基礎研究のテーマは、フェーン現象と局地的な猛暑発生メカニズムのさらなる理解、局地風(地域風)のメカニズムの解明、富士山にできる雲の調査などがあります。
応用研究のテーマは、快適な街作りと再生可能エネルギーへの貢献です。例えば、熱中症救急搬送者数の予測式の開発、緑化やミスト散布などの暑さ対策の評価、より高精度な風力発電量予測のための手法の開発などに取り組んでいます。
◆主な業種
・ソフトウエア・情報システム開発
・建設全般(土木・建築・都市)
・交通・運輸・輸送
・コンサルタント・学術系研究所
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・基礎・応用研究、先行開発
・システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
就職した天気予報の会社で、気象予報士として天気予報を出したり、より高精度な天気予報を目指したソフトウエア開発を行っているほか、スマートフォン用の豪雨予測アプリ開発などを行っています。また、気象系コンサルタント会社で、気象災害の調査や大気環境アセスメントなどを行ったり、PM2.5や熱中症、風力発電の予測手法の開発などを行っています。
建設会社の研究所では、ビル風やヒートアイランド対策などの研究を行っています。航空会社でディスパッチャー(運行管理者)として、パイロットに最適な飛行経路を助言している卒業生や、高校教員として理科教育や社会科教育を行っている卒業生もいます。
気象学と気候学は、天気予報や地球温暖化予測を支えている学問で、私たちの暮らしや社会に欠かせない学問です。気象学をはじめとする地球科学は、フィールドワークの学問と言われています。フィールドワークの学問では、野外に出て、現象を見て、感じて、記録することをとても大事にしています。同時に、コンピュータを使ったシミュレーションや実験も、同じくらい大切だと考えています。
私の近くには、仲間たちと一緒に外に出て雲を観察したり、風や温度の観測をするのが好きな人から、部屋にこもって難しい数式を解いたり、スーパーコンピュータを使って天気予報や未来の気候予測や実験をする人まで、色々なタイプの研究者や学生がいます。気象学、気候学に興味のある方、ぜひ一緒に研究しましょう!
(1)海陸風観測 (海の近くに住んでいる高校生向け)
春の移動性高気圧に覆われた日、夏の太平洋高気圧に覆われた日に浜辺など海の近くに行って海陸風を観測してみよう。
夜明け前は、陸から海に向かって弱い風(陸風)が吹くと思います。朝から昼にかけて海から陸に向かって弱い風が吹き始め、昼から夕方にかけて海からの風が次第に強くなっていくでしょう。これが海風です。両者を合わせて海陸風と言います。海陸風は、高気圧に覆われた風の弱い日に、海と陸の温度差によって吹く風です。
(2)山谷風観測 (山の近くに住んでいる高校生向け)
秋の移動性高気圧に覆われた日に谷の出口の近くに行って山谷風を観測してみよう。
夜明け前は、山から平地に向かって弱い風(山風)が吹くと思います。朝から昼にかけて平地から山に向かって弱い風が吹き始め、昼から夕方にかけてこの風が次第に強くなっていくでしょう。これが谷風です。両者を合わせて山谷風と言います。山谷風は、高気圧に覆われた風の弱い日に、谷の中と平地上空の温度差によって吹く風です。
(3)ヒートアイランドの観測 (政令市や中核都市に住んでいる高校生向け)
移動性高気圧もしくは太平洋高気圧に覆われた日の早朝に、高いビルがたくさんある場所(例えば、大きな駅の近くの商業地やオフィス街)と建物が少ない田園地域や住宅街の中にある大きな公園で気温を測ってみよう。駅前の方が田園地域よりも気温が高いことがわかります。これが、ヒートアイランド現象です。
(4)暑さ指数の観測
よく晴れた真夏日に、熱画像カメラや赤外放射計を使って、日中と夜間にビル・道路・草地・樹木の表面温度を測ってみよう。また、日向の地面と木陰の地面の表面温度を測ってみよう。日向にいる人の表面温度と、木陰にいる人や日傘を差している人の表面温度を測ってみよう。
Q1.熱中したゲームは? 中学・高校時代は、毎晩遅くまで将棋を指していました。 |
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Q2.研究以外で楽しいことは? 海外旅行や外国人との交流です。コロナ過なので今はあまりできていませんが、日本とは異なる自然や街を見て、海外の人々の考えを知ることは、私にとってとても楽しいことです。 |
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Q3.会ってみたい有名人は? 羽生善治さんと芦田愛菜さんです(林修先生にも会ってみたいですが…)。 |