◆研究の着想のきっかけは何ですか
私たちは、ヒトの体で機能している糖タンパク質を精密に合成し、薬を創る研究をしています。研究の背景としては、1990年頃からバイオテクノロジーでタンパク質を作り、薬に利用する試みが世界的に始まりました。
タンパク質は、まるで生き物のようにその3次元構造を自発的に作り、薬としての効き目を発揮します。しかし、このバイオテクノロジーの方法はどこまでも細胞任せで、人間主導でタンパク質の構造をコントロールするのは、大変難しかったのです。
◆どのように困難を克服しましたか
タンパク質を薬に利用するためには、その表面に高純度の糖の鎖が結合していることが重要な条件です。しかし、これまでのバイオテクノロジー技術では、高純度の糖鎖を結合させることは非常に困難でした。
そうした背景の中で、私たちは高純度のヒト型糖鎖を、ニワトリの卵から導き出しました。そして、それを有機合成の原料として利用する方法を見つけ、糖タンパク質の合成に成功しました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
一口に言ってこれまでの薬の創り方は、細胞が持つタンパク質の生合成システム任せでした。そのため、バイオテクノロジーで糖タンパク質を作ると、その糖鎖は常に様々な構造の混ざり物となり、どの糖鎖がタンパク質に必要なのか、理解することができませんでした。
これに対し、新しいヒト糖タンパク質を精密化学合成する方法では、ほしい構造の糖鎖を持つ糖タンパク質だけを、得ることができます。その結果、薬として最も効き目の高い糖タンパク質を得ることが可能になり、創薬への応用が格段に進みます。
人の体の中で活躍する糖鎖、タンパク質の機能を理解し、薬などへ応用することで、人々の健康維持に貢献する。
研究室で実験を開始すると、こちらで用意した反応条件(薬品)に分子が素直に反応して、新しい構造へと変化することを感じ、驚きました。目に見えない分子が、有機化学の方法でまるでプラモデルのように組み上げられるということを実感し、一気に研究にのめり込んでいきました。また、生体内の不思議な現象を、自分で合成した化合物を使って調べられると分かった時、大きな感動を得ました。
「生体関連化学」が 学べる大学・研究者はこちら
その領域カテゴリーはこちら↓
「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
◆「精密化学合成により調製した糖タンパク質:エリスロポエチンの糖鎖機能を解明」(ResOU)
◆「わずか数工程で均一な糖タンパク質の合成に成功」(ResOU)
◆「Osaka University reports homogeneous glycoprotein synthesis in just a few steps」(Science Japan)
糖鎖、糖タンパク質の合成と、それを利用した細胞内での糖タンパク質生合成のメカニズムの解明を行っています。有機化学と生化学が合体した研究です。
◆主な業種
・化学、製薬、製造業
◆主な職種
・研究
◆学んだことはどう生きる?
博士課程を修了した学生は、主に製薬会社で糖鎖、タンパク質を活用した研究開発を行っています。修士課程を修了した学生は、主に化学、製造業、食品関連に就職しています。
生化学を学部で講義しています。この講義では原子レベルで、どのようにして生体反応が普通の有機化学反応よりも効率よく進むのか、その仕組みを理解するようにしています。
大学院の講義では、研究に関連する重要な基礎項目として、分子認識、酵素反応の基礎、酵素反応における遷移状態、糖鎖、糖タンパク質フォールディングについて講義しています。いずれも高校の内容とは違い、分子、原子が、3次元空間でどのように効率よく働いているかを議論しています。
糖鎖そのものは非常に高価なので、高校生のみなさんは、糖類に触れるということでは、唾液の中にあるデンプンを分解するアミラーゼの検出をしてみましょう。
デンプン液に唾液を入れて、残っているデンプン量をヨウ素デンプン反応で追跡してみるとよいでしょう。風邪薬にもアミラーゼが入っているものもあるので、それを比較用に使うのもいいと思います。糖鎖がアミラーゼに切断されるということが実感できると思います。大学入試でもこのヨウ素デンプン反応は出題されていますし、酵素の機能、構造、触媒なども問われています。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 化学。化学を学ぶことで、原子、分子で全てが説明、理解できるようになるので。 |
|
Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 老舗のコーヒー屋さん。世界で唯一のオールドビーンズを使っている。 |
|
Q3.研究以外で楽しいことは? テニス、釣り。 |