機能物性化学

電子材料

究極の微細化エレクトロニクスの実現へ、「ビーカーの中で電子部品を造る」技術開発に挑む! 


綱島亮先生

山口大学 理学部 化学科(創成科学研究科 地球圏生命物質科学系専攻)

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物質の開発の仕上げは「結晶化」です。結晶にすることで、分子やイオンの並び方や性質がより調べやすくなります。


◆研究のきっかけは何ですか

大学院の博士後期課程を修了した後、英国の大学で博士研究員として加わった研究室では、非常に小さいサイズの金属酸化物の研究が盛んで、世界トップクラスを走り続けていました。

学生の頃とは異なる研究だったので、ゼロから勉強をし直し、片っ端から論文を読み漁りながら、誰も着目していないところを探しました。リスクを怖がらずに泥臭いことをコツコツと行いながら、ビーカーの中で起こる金属酸化物分子の化学反応を使って合成できるエレクトロニクス材料(電気を流すことや蓄えることができる)を目指しています。

◆具体的にどんな研究でしょう

現在のエレクトロニクスでは、おおよそ10億分の1メートルという、非常に小さいところで物質を操る技術が必要になっています。例えて言えば「塩」を、数粒のナトリウムイオンと塩化物イオンからなるスケールで彫刻するようなものです。高い技術やエネルギーが必要なうえ、このような微細化には限界があります。

私たちはこの課題を、化学の力で解決することを目指しました。ヒントとしては、塩は水に溶かすだけで、10億分の1メートルのスケールまで、勝手にバラバラになります。あとは、どのようにして集めるかを解決すればよいことになります。

同じような考えを、エレクトロニクスで良く用いられる金属酸化物について当てはめていきます。過マンガン酸イオンといった金属と酸素でできた分子について、好きな形や大きさに集めていくための様々な条件(濃度やpHなど)を、コツコツと分析します。

◆次の研究の目標は何でしょう

私の研究のゴールを例えるなら、「ビーカーの中で電子部品を造る」ための技術を開発することです。皆さんの身の回りにあるスマートフォン1つ取っても、たくさんの電子部品が中に使われています。壊れた電子部品なども、特殊な化学溶液の中に浸しておくと自然と治るといった、SFのような話が実現できても良いのではと思っています。

◆そんな夢みたいなことができるのですか

ええ、実はこのようなことは生体内で行われています。切り傷は勝手に治癒します。こういった生体の仕組みを模倣すれば、電源・回路・素子といった電子回路の部品を、自然に組み立ててビーカーの中で作ることができる、そのような未来も期待できます。

SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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スマートフォンを始め身の回りには、様々な優れた性質を持つ物質が使われています。その中に含まれている化合物を、できる限りありふれた、そして環境や人体への付加の小さい材料で作り替えることが、化学の役割です。

古くは「錬金術」として求められた「金」ですが、現代では貴金属としてもてはやされるだけではありません。優れた性質を示し、かつ、人体や自然界に害が少ない物質も「金」と同様に高い価値があります。

この道に進んだきっかけ

小学生低学年の頃は、お風呂で入浴剤を混ぜて遊んでいたことを覚えています。入浴剤は全て小さな小瓶に入れて、お風呂場に並べて混ぜて遊びます。

色の足し算(赤+青=紫など)が成り立たたないこと、混ぜると透明な水と粉に分離することなど、私が初めて接した「化学」で、物質は混ぜると予想外のことが起こることに強い関心を持ちました。

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう

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合成した新規物質の電気的な性質を評価する際に使います。PCに接続し、時には自分たちでプログラムを組んで測定方法を制御します。

学生はどんな研究を?

「化学」では、物質を「造る」ことが初めの一歩目です。合成した化合物の組成や構造を調べるところから始まり、最後は、半導体・コンデンサー・電極・電解質など様々な「電子材料」としての物理的性質の評価も、自分たちで行います。

もちろん、簡単に達成できるものではなく、測定から得た知見は、再び合成へフィードバックされ、物質を「デザインする」ところに戻ります。以降はその繰り返しです。

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・半導体・電子部品・デバイス

◆主な職種

・基礎・応用研究・先行開発

◆学んだことはどう生きる? 

2010年に研究室ができたので、まだ多くの卒業生を輩出できていませんが、電子材料に関わる研究開発に関する業務が多いです。私たちの研究分野の出身者について言えば、化学出身として合成や物質の分析ができつつ、物理の知識にも長けている点で、意外とレアな人材として重宝される傾向にあります。

先生からひとこと

卒業生の分野を活かした業務内容で述べたように、私を始めとした機能物性化学分野の研究は、化学合成と物理的測定の両方の知識と技術が、高いレベルで求められます。このような研究活動から成長する学生は皆、化学と物理に関する基礎が幅広く整っているため、どの分野や業務においても優秀に仕事をこなせるように成長しています。

先生の研究に挑戦しよう!

身の回りにある電子部品の中でも「センサー」には、温度、圧力、湿度、ガスなどの様々な刺激を電気信号に変える素子が入っています。どのようにして電気信号(=電位差や電流)に変換しているのか?原理を調べてみてください。例えば「温度」について、最近よく見かける非接触の体温計や火災時の熱を検知するセンサーなど、温度域と用途に応じて原理は異なります。

中高生におすすめ

化学

(化学同人)

最先端の化学に関わる研究(国内外)を分かりやすく紹介している雑誌です。高校生が全ての内容を理解するのは少し難しいかも知れませんが、憧れを持って読めるのではと思います。


探究する精神

大栗博司(幻冬舎新書)

副題にあるように「職業としての基礎科学」について、大栗先生ご自身の経験やお考えが書かれた本です。大学でも特に理学部の研究には基礎科学が多く、応用科学を始めとした「実学」と呼ばれる学問や研究とは、区別されることがあります。

進路として理学部を考えている方はもちろん、学部を悩んでいる方にもお勧めしたい本です。皆さんが楽しい将来を描く上で必要になる、色々なことが見つかると思います。


TED

(WEBサイト)

TEDはTV番組ですが、世界中で行われているユニークで最先端な研究者も壇上に立ちますので、お勧めです。英語の勉強にもなります。私が英国の大学で所属していた研究室の先生も出演しています。
[サイトへ]


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

英国。いつかまた住みたいです。古くからある様々なものを大切にていると感じました。建物はとても古いことが一般的です。建て替えるのではなく、時代の進展や用途に合わせて内装を変えます。町並みは一見すると、100年前と大きく変わっていないのでは?と思います。

日本では逆に、古くなったら新しくゼロから作り直すことが良しとされますが、本当にこれで良いのか?と思うことがしばしばあります。価値観の違いには様々な理由や経緯がありますが、少なくともSDGsにもあるように、これから先の世界では古いものを大切にする意識が必要と感じます。

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『鬼滅の刃 無限列車編』。子供と一緒に映画館でつい泣いてしまいました。一つの目標を成し遂げるための思いや、世代を超えて決意を繋いでいくことは、社会の心そのものだと感じました。

私たちも、50年や100年前に報告された学術論文を参考にすることがあります。著者がどんなことを考えて実験、執筆したのか?どんな顔をしていたのだろう?などを勝手に想像しながら古い論文を読むのは、面白いものです。

単純な知識の吸収以上に、科学者としての思いなど、得るものがたくさんあります。それと同時に、自分が執筆した学術論文が、同じように後世の人に読んでもらい、どこかで何かに繋がると思うと、とてもワクワクします。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 金探し。傘程の長さの電極を10本程度背負って北海道の山の中を一直線に歩き、一定距離ごとに地中に電極を指して、電気の流れやすさを測定するアルバイトです。

何をするのかは当初教えてもらえず、最後に、地中にある金の埋蔵量を評価することが目的とお聞きしました。途中でクマが出没したため中止になりましたが、とても刺激的なアルバイトでした。

Q4.研究以外で楽しいことは?

天体観測。子供と一緒に、天体望遠鏡で土星や木星を自分の目で見た時には、本当に感動しました。特に土星は、本当にあのような奇妙な形と色の物体が宇宙に浮いていると思うと、不思議で仕方がありません。

研究ではむしろ、分子1つという小さいスケールを対象にしていますが、その反対にある大きなスケールの極限が天体ですので、興味があります。


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