考古学

古代鉄生産

モンゴル高原の古代鉄生産の解明−東北アジア地域の鉄と人々−


笹田朋孝先生

愛媛大学 法文学部 人文社会学科 人文学履修コース(人文社会科学研究科 法文学専攻 人文学コース)

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モンゴル国ズーン・ウリーン・アダク遺跡(匈奴の製鉄遺跡)の発掘調査


◆先生のご研究内容について教えてください

発掘調査などの考古学的な研究手法を中心に用いて、「鉄の存在が文化や社会にどのような影響を与えたか」を明らかにすることを、目的としています。その中でも、鉄の生産技術や鉄の流通などをキーワードとして、研究を進めています。学生時代は、北海道アイヌや江戸遺跡の研究なども行っていましたが、現在の主なフィールドはモンゴル国です。モンゴルでは、匈奴の製鉄遺跡やチンギス・カンの宮殿址の発掘調査を行っています。

◆研究にはどのようなアプローチをしていますか

フィールド調査に重点を置き、モンゴルの研究者と共同で調査を行い、具体的な資料(遺跡から出土した鉄)から、新たな研究を展開しています。一部の資料はモンゴル政府の許可を得た上で日本に持ち帰り、自然科学的な分析を行うことで、産地推定や技術復元などを行なっています。

◆研究によってどのようなことが明らかになってきましたか

現在、発掘調査を行なっているホスティン・ボラグ遺跡は、モンゴルで初めて発見された製鉄遺跡です。これまでの研究によって、東アジア地域最初の遊牧国家である匈奴の、鉄生産の実態が解明されつつあります。この研究成果は、遊牧生活を送る牧歌的な遊牧民のイメージや、農耕国家の歴史書に「野蛮・残虐」と記載された遊牧国家の、イメージの変換を迫る“新発見”でした。

SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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現在、モンゴルは鉱工業を主産業と位置付け、急速な経済発展を遂げています。それに伴い、遊牧と定住の狭間で揺れ動くモンゴルでは、様々な社会的・環境的な問題が生じています。

そのような問題に対して、モンゴル遊牧民と鉄との関わりを明らかにしていくことで、考古学の立場から有意義な指針を与えることができると考えています。

この道に進んだきっかけ

「インディ・ジョーンズ」や「MASTERキートン」を観て、漠然と考古学への興味を深めていき、大学1年生で初めて発掘現場に入りました。武田信玄が居館を構えた、山梨県甲府市の躑躅ヶ崎館跡での発掘でした。

夏休みの間、他大学の学生たちと合宿形式で、同じ屋根の下で同じ釜の飯を食べながらの調査は、私に考古学の面白さを教えてくれました。それ以来毎年、発掘調査に参画しています。机に向かってコツコツと勉強するが苦手でして、現地を調査し、お酒を飲みながら様々な学生や研究者と話すのが楽しくて、私には考古学が合っているのだと思い、この道を進んでいます。

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう

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モンゴルの発掘調査に参加した日本の学生とモンゴルの学生たち。

学生はどんな研究を?

愛媛を中心とする地域の歴史を、考古学から明らかにすることに取り組んでいます。研究室としては、瀬戸内海の島嶼部の人々の暮らしを明らかにするために、発掘調査などを行なっています。学生たちの最近のテーマとしては、縄文時代の食生活、古墳時代の土師器、中世の貿易陶磁器、中国の漢代の鏡の研究などを行っています。

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

・教育機関教員、インストラクター

・その他

◆学んだことはどう生きる? 

博物館の学芸員や地方自治体(教育委員会など)の文化財担当として、学生時代に学んだ考古学の知識や技術を活かしながら、文化財に関わる仕事に従事しています。

先生からひとこと

考古学は、過去の人間が残した“モノ”を読み解く学問です。そして、発掘調査という他の学問にはない、考古学独自の研究手法があります。そのため考古学では、大学の外でのフィールドワークと大学の中での研究の、両方を行うことになります。

屋外の調査はそれなりに大変ですが、普段の生活では味わうことのできない、貴重な体験を積むことができます。また、それぞれの土地では現地の方々と交流を深めながら、共同で調査を行うことになります。

そのため、学力だけではなく、様々な力が必要となります。そして、社会に出た時に必要となる、様々な能力を身に付けることができます。だからこそ、面白い学問分野だと思います。

先生の研究に挑戦しよう!

考古学の面白さは、歴史の教科書に載っていないような事柄が遺跡や遺物からわかることです。遺跡を訪れ遺跡の機能や当時の景観を推測したり、博物館などに展示されている遺物を詳細に観察することで、教科書に書かれていることとは異なる歴史や名もなき人々の歴史を知ることができます。

中高生におすすめ

モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る

白石典之(講談社選書メチエ)

チンギス・カンといえば世界史の中でも特に有名な人物ですが、実はその前半生はよくわかっていません。それは、文字資料がほとんど残されていないからです。著者はモンゴル国アウラガ遺跡での長年にわたる発掘調査を中心として、チンギスが「馬・鉄・道」を戦略的に使いながら勢力を拡大し、世界帝国を築いていったことを明らかにしていきます。チンギスとモンゴル族が強大になっていくプロセスを、大胆な仮説を立て、それを考古学的手法で証明していく過程は、痛快だと思います。


職業としての学問

マックス・ヴェーバー 尾高邦雄:訳(岩波文庫)

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』でピューリタニズムと近代資本主義の関係を解き明かした、社会経済学者・ヴェーバー。職業人としての学者がどうあるべきかを論じた本書は、第一次大戦後に混迷を深めていくドイツで行われた講演ですが、その主張は今なお色あせない普遍性を備えています。大学で学んだことを将来の職業に活かすのであれば、その心構えを学ぶ上で重要な一冊になると思います。


歴史学の名著30

山内昌之(ちくま新書)

古代ギリシアの歴史家に始まり、洋の東西を問わず著者が選んだ32の歴史書が紹介されています。ヘロドトス『歴史』、ブローデル『地中海』、イブン・ハルドゥーン『歴史序説』、網野義彦『無縁・公界・楽』など。高校で学ぶ歴史とは異なる視点から解説されていることも多く、複眼的な視野を養うことができます。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

鉄鋼学。鉄を理系の立場から扱ってみたいです。

Q2.大学時代の部活・サークルは?

考古学研究会、ビリヤード愛好会

Q3.会ってみたい有名人は?

「世界ふしぎ発見!」の不思議ハンター。私たちの発掘現場にも来てほしいです。


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