◆この研究の着想のきっかけは何ですか
2007年3月、勝良健史氏(現慶応大学理工学部教授)と私は「作用素環論」という数学理論について、千葉大学理学部のセミナー室で議論していました。その時、この研究を前進させるひらめきを、突如として得ました。
このひらめきから出発して、多くの研究者を巻き込みながら研究は着実に進展し、その結果、作用素環論の進展において大変意義深い結果と評価され、2011年度解析学賞を受賞しました。その後も、研究はさらに拡がり続けています。
◆どんな研究ですか
研究テーマとする「作用素環」とは、簡単に言えば無限次元の行列がなす「環」の研究です。環とは、加法、乗法という演算を備えた代数系のことです。無限次元代数やその無限次元表現を扱うことは、現代数学における中心的なテーマの1つです。
それは、20世紀の新しい物理学である量子力学を、数学的に定式化するという目的で誕生して以来、無限次元を扱う数学や物理の多くの分野と、関連して発展してきました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
この研究が進めば、無限次元の数学的対象が持つ「対称性」を解明できるのではと考えられます。数学的な対称性とは「どんな変換をしても性質の変わらないこと」を意味します。平易な言葉にすれば、無限次元の数学的対象が持つ「普遍的な法則性」がよくわかるようになった、ということになるのでしょう。
◆研究方法やアプローチはどのようなものですか
多くの数学者と交流し、議論したり問題意識を共有したりすることが重要です。必要に応じて様々な文献も読みます。しかし最終的には、独りで机に向かい、ただひたすら考え続けるのみ、というのが抽象数学の研究方法です。
私が研究している純粋数学は、人類の具体的な課題の解決に直接貢献するようなものではありません。しかし、SDGsを始めとした、全ての人に関わる深刻な課題に取り組むためには、まず何より、人と人とが民主的に対話することが必要です。
他者の文化や価値観を認め合いながら、自己の考え方を伝えなければなりません。言葉と論理を基盤とする純粋数学は、様々な課題に人類が協力して取り組む際に、なくてはならない共通言語となります。
小学校や中学校の頃から算数や数学が好きでしたが、数学者という職業を意識し始めたのは大学生になってからです。と言っても、大学3年生ぐらいまでは大して勉強もせずに、演劇活動に夢中になっていました。大学を中退して役者になろうと思っていたほどでした。下北沢の駅前劇場での公演で主役を演じたことは、いい思い出です。
そんな時、東京大学の河東泰之教授の講義を受講し、深い感銘を受けました。講義の内容もさることながら、河東教授によって語られる数学の力強さと躍動感に魅了されたのです。数学とは人類の営みであり、人間味にあふれているものだと知りました。数学という芝居に感動した私は、劇場ではなく大学で、今も俳優修業を続けています。
「解析学基礎」が 学べる大学・研究者はこちら
その領域カテゴリーはこちら↓
「3.地球・宇宙・数学」の「11.数学(解析、代数、幾何、複雑系、離散数学等)」
作用素環論の重要なクラスであるC*環のK理論による分類、もう1つの重要なクラスのフォンノイマン環の剛性理論・自由確率論などのテーマに取り組んでいます。作用素環論の基礎理論の修得から始めて、最新の研究成果に触れることができるレベルを目指しています。
◆主な業種
・ソフトウエア・情報システム開発
・金融・保険・証券・ファイナンシャル
・小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
◆主な職種
・システムエンジニア
・経理・会計・財務、金融ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職
・中学校・高校教員など
◆学んだことはどう生きる?
システムエンジニア、アクチュアリー、中学校や高校の教員として活躍している人が多くいます。大学や大学院で研究したことを直接的に活かしている人は、全くいません。
私の研究室で学んだことを、直接的に活かせる業務は存在しません。しかしそれと同時に、私の研究室で学んだこと、つまり数学の一分野で最先端に近い研究を通して身に付けた、数理的な教養や論理的な思考力は、人として社会の中で生きていく時、必ずしも仕事に限らず、ありとあらゆる面において活かすことができます。
(1)ひと昔前までは高校で(2行2列の)行列を学んでいました。普通の数と同じように行列についても和や積を考えることが出来ますが、積が可換でない(AB=BAが成り立たない)という特徴があります。さて、与えられた関数 f(x) に行列Aを「代入」することは可能でしょうか。どのような関数fに対して、どのような意味で、f(A)というものに妥当な定義を与えることができるでしょうか。
(2)一般に数列は収束したりしなかったりします。例えば、0,1,0,1,0,1,...という数列は、普通の意味では収束しません。何とかして、このような数列の収束先のようなものを考えることはできないでしょうか。考えられる収束先の候補は何でしょうか。
レディ・ジョーカー
髙村薫(新潮文庫)
高校生の頃は、自分の関心事といえば、学校のこと・家族のこと・友達との関係・今日のテレビ番組・明日の時間割など、自分を中心とした半径5メートルぐらいの範囲ではないだろうか。それは当然のことで、人は成長するにつれて活動する範囲を拡げながら、やがて自分が直接体験できない遠い場所を考えるようになり、この社会の広さや複雑さや困難を知ることになる。
この小説は、巨大ビール会社社長誘拐の陰に隠れた日本社会の闇を描いたものだが、髙村薫の小説はどれも、日本の現代における救いようのない現実を教えてくれる。自分から遠く離れた場所への想像力を培い、そしてまずはこの世界に絶望してほしい。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? その理由は? カナダのビクトリア。半年あまり暮らしたことがありますが、バンクーバーほどの大都市ではなく、適度に賑やかで、のんびりしていて、海や山や森がとても美しい。 |
|
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は? ケン・ローチの『わたしは、ダニエル・ブレイク』。イギリスの映画ですが、人類が経済成長と科学技術の発展の末にたどり着いた世界は、日本でもイギリスでも、滑稽なほど似通っています。 |
|
Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 10年ぐらい前から健康のためにとテニスを始めました。なかなか上達しません。 |