物理化学

イオン

電解質水溶液中のイオンは表面に来るの?1世紀近く解けなかった素朴な疑問を解決


森田明弘先生

東北大学 理学部 化学科(理学研究科 化学専攻)

image

研究室で、学生さんとの議論


◆着想を得たきっかけは何ですか

水や水溶液など液体の表面・界面は我々の身近にあり、その性質はそこにいる分子によって決まります。しかし、界面の分子の詳しい構造や動きは、意外なほどわかっていませんでした。その最大の理由は、液体界面の分子だけを(内部のそれと区別して)シャープに捉えることが殆どできなかったためです。

液体の界面に存在する分子を、見てきたように明らかにすることができないだろうか。その方法を、実験計測と理論計算の共同で探る研究が始まりました。

◆どのようなことがわかりましたか

様々な現象がありますが、食塩水のような電解質溶液を例にしましょう。水溶液中のイオン解離や平衡の様子は高校でも学びますが、その表面はどうなっているでしょうか。このシンプルな疑問は、実は1世紀近く解かれていませんでした。

イオンは表面に近づかないだろうと長らく信じられていましたが、今世紀になり、ある種のイオンはむしろ表面に集まるのではないかと言われるようになり、大きな議論となりました。私たちは、表面を捉える分光実験と理論計算の共同によって、確かにそうであることを明らかにしました。

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

化学は目に見えない原子・分子を扱うので、その詳しい様子を知ることができると、しばしば大きな進歩をもたらします。我々の周りの液体界面は数多く、例を挙げると、液中の微小気泡、空気中を浮遊するエアロゾル、溶液に溶けた物質の膜透過、抽出、溶液中に置かれた電極上の化学反応など、様々な対象があります。

それらの界面で何が起こっているのかを、分子レベルの新たな目で詳しく理解できるようになります。それ自体が新たな発見であり、界面の新たな利用を促すうえでも重要です。

この道に進んだきっかけ

化学を学んでみて、化学反応で物質が変化するという不思議な現象において、本当のところ途中で何が起こっているのか知りたいと思いました。元々、化学よりも数学や物理の方が好きな生徒でしたが、当時理論化学で日本初のノーベル化学賞に輝いた福井謙一先生が、「数学が好きなら化学をやれ」という師の教えに影響されて化学を志したという話を聞いて、自分もむしろ化学をやってみる方が新しいことができそうな気がしました。

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう

image

助手の方がPCに向かって計算のプログラムを書いているところです。

学生はどんな研究を?

量子力学や統計力学など物理の基礎をもとにして、原子・分子のふるまいへの理解を目指す化学研究を行っています。学生は計算機を用いて原子・分子の運動を解き、溶液や界面の化学現象を解明していきます。

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・化学・化粧品・繊維/化学工業製品・衣料・石油製品(プラントは除く)

・ソフトウエア・情報システム開発

・大学、短大・高専等(教育機関・研究機関)等

◆主な職種

・基礎・応用研究・先行開発

・システムエンジニア

・大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる? 

本研究室で博士号を取得して、化学系や自動車などの会社に研究職として就職し、電池開発などの計算化学の研究で活躍しています。

先生からひとこと

物理化学は、化学現象を原子・分子やその集合体の物理として理解する学問で、それだけに化学のあらゆる分野に通じる基礎をなしています。化学を徹底的に理解したいという物理志向の人にもお勧めします。

先生の研究に挑戦しよう!

「表面張力とは何だろう」
表面では縦と横の環境が異なるため、圧力が食い違うようになる。力のつり合いはどう成り立っているだろうか。(関係して、毛細管現象)
分子間に引力や斥力が働くこととどのように関係しているだろうか。

中高生におすすめ

サピエンス全史

ユヴァル・ノア・ハラリ:著 柴田裕之:訳(河出書房新社)

西洋史とか東洋史とか日本史とか、あるいは古代史とか現代史とかではなく、人類7万年の歴史をマクロな目で見て、壮大なスケールで考察し、語った世界的ベストセラー。人類の未来についても言及している。人間とは何かを、深く考えさせてくれる名著。


職業は武装解除

瀬谷ルミ子(朝日文庫)

「武装解除とは、紛争が終わったあと、兵士たちから武器を回収して、これからは一般市民として生活していけるように職業訓練などをほどこし、社会復帰させる仕事」(PROLOGUE はじめに、より)。「世界が尊敬する日本人25人」(2011年・Newsweek日本版)などにも選出され、自身の信念の下、使命をもって新しいキャリアを自ら切り開いている瀬谷ルミ子さんの自伝的エッセイ。生き方について、世界の平和について、考えさせてくれる。


マレーシア大富豪の教え

小西史彦(ダイヤモンド社)

24歳のとき無一文でマレーシアに渡り、ビジネスで成功して大富豪になった日本人がいる。本書は、社会で成功するためには何が大切であるのかを、本人が体験をもとに語った本。ビジネス書だが、シンプルでかつ説得力のある人生訓は、これからキャリアを築いていく高校生にも参考になるだろう。


先生に一問一答
Q1.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『デイブ』。大統領に成りすますコメディで、おおらかで楽しく、昔英語の勉強を兼ねてセリフをほとんど覚えました。

Q2.大学時代の部活・サークルは?

自然科学系のサークルで、背伸びして物理などの専門書を仲間と輪読したり、大学祭の運営などをやりました。

Q3.研究以外で楽しいことは?

ピアノ演奏。大学院生の頃にも、研究の傍ら続けていました。近くシューマンの協奏曲を発表会で弾く予定です。


みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ