◆研究のきっかけは何ですか
医薬品や天然物の中には、環状構造(炭素原子同士が、輪の形に繋がっている)を持つものが、数多く存在します。環状構造で代表的なものは、6個の炭素が亀の子状に繋がるベンゼン環が知られています。これらの化合物を合成する上で、いかに効率よく環状骨格を構築するかが問題となっていました。
物質が化学変化を起こす途中で、生まれては消えていく化合物を、中間体と呼びます。私たちは、金属を含む環状の中間体「メタラサイクル中間体」の高い反応性に注目。この中間体を使って、新しい環状化合物の合成手法を開発すべく、研究を開始しました。特に、これまであまり研究されていなかった、ロジウムという金属が化学変化する過程で生まれる中間体の反応性について、研究を行いました。
◆何がわかりましたか
この研究によって、効率の良い環状化合物の合成法を、いくつか開発することができました。中でも合成が難しいとされる、8角形の形をした「8員環化合物」の構築法も確立できました。これらの研究結果は、環状骨格を持つ医薬品や天然物の、効率的な合成法として利用できる可能性があります。
また、当初は予定していなかったのですが、この研究によって、全く新しい概念に基づいた、炭素-水素結合の活性化法を開発することにも成功しました。
医薬品や天然物の中には、環状構造を持つものが数多く存在します。これらの化合物を合成する上で、いかに効率よく環状骨格を構築するかが、問題となっていました。
私はこの問題を解決するために、金属分子を触媒として利用した、効率的な環状骨格構築法に関する研究を行っています。この研究が、技術革新の基盤になることを期待しています。
私が入学した北海道大学薬学部では、物理化学から生命科学、臨床医療に至るまで、幅広く学ぶことができました。どの分野も、それなりの成績で単位を取得していたのですが、有機化学IIだけは本試験で落ちてしまい、その評価は可でした。
昔から、苦手なものほど何とか克服したいと考える性格だったので、これを機に、有機化学を真剣に学ぶようになりました。そのおかげで、有機化学の楽しさを知ることができ、現在はその分野の研究の道に進んでいます。
研究の道を志すきっかけは、人それぞれだとは思います。ただし、今、自分がやるべきことに対して真摯に向き合うと、自ずと将来の道が見えてくるのではないかでしょうか。そこで、苦手なことにもたまには挑戦してみるのも、良いのではないかと思います。
「化学系薬学」が 学べる大学・研究者はこちら
その領域カテゴリーはこちら↓
「10.薬」の「36.創薬系化学、製剤学」
ロジウム、パラジウム、金などの金属分子を触媒とする、新しい反応の開発を行っています。また、開発した新しい反応を、医薬品や天然物の合成に利用すべく研究しています。
◆主な業種
・薬剤・医薬品
・化学・化粧品・繊維/化学工業製品・衣料・石油製品(プラントは除く)
・病院・医療
◆主な職種
・基礎・応用研究・先行開発
・薬剤師等
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
金属の分子を触媒とする反応に関する知識を活かして、製薬企業や化学企業で研究開発に従事する学生が多いですね。
生体成分を構成する脂肪、糖、タンパク質や核酸などは有機化合物であり、これらは生命活動において必要不可欠なものです。一方、私たちの暮らしに目を向けても、やはり有機化合物は重要であり、医薬品や衣類、プラスチックなどは、その最たるものです。
私は、このような機能を持つ有機化合物を、いかに簡便にかつ効率的に合成するかという命題に答えるために、金属分子を触媒とする有機化合物の新しい合成法に関して、研究してきました。
有機化合物を作ることは、ものづくりの基盤であり、我々の暮らしをより豊にできるものと期待しています。ものづくりに興味のある高校生には、ぜひ挑戦してほしい研究分野です。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スコットランドです。留学で1年間、生活していました。時間がゆっくり流れていて、心穏やかに過ごせるところです。 |
|
Q2.熱中したゲームは? 学生時代に熱中したゲームは、ダビスタです。ダビスタは、競走馬育成ゲームです。馬の血統を調べて、どのような配合が強い競走馬を生み出すか、試行錯誤を繰り返し、最強馬を育成すべくゲームに没頭してました。試行錯誤を繰り返すことによって新たな発見に出会えるという点においては、現在の研究に通ずるところがあるかもしれません。 |
|
Q3.研究以外で楽しいことは? 子供の成長を見ることです。研究も子供の成長も日々、新しい発見があって楽しいです。 |