「歩く」「見る」「食べる」日常技能の生態学
ふるまいは「まわり」と結びついている
歩く、見る、食べる、そんな私たちのありふれたふるまいが、獲得された「技能」であると言ったら、皆さんは笑うかもしれません。
また、こんなふるまいの制御が「体の内部」では完結しておらず、「まわり」と結びついてはじめて可能になっていると言ったら、変に思うかもしれません。
私たちが「歩く」時、地面に直立した体が前に向かう推進力を得るには、重心をずらしてバランスを崩し、体にかかる重力を利用するしかありません。
私たちが「見る」時、空気中の粒子や表面で散乱した光が観察点を取り巻く「包囲光」の構造がなければ、目の焦点を合わせることすらできません。
私たちのふるまいは、たとえ自覚していなくても、環境との関係形成そのものです。
臨機応変なふるまいは環境あってこそ
私は、太古の石器作りで石の割れ方を「予測」する時に何が探られていたのか、職人が未知の素材に接する時どんな性質が探られているのか、あるいは乳児がスプーンで食べ始める時に周囲にどんな状況が生じているのかなど、人間の習慣的技能が結びつく先にある環境の性質について研究しています。
現在、人工知能等の分野では、あらかじめ準備されていない状況に柔軟に適応する非機械的な知能の実現が課題になっていますが、臨機応変なふるまいの推移を現場で実際に眺めてみると、そこで環境がもたらしている足場の豊かさに気づかされます。
融通無碍な私たちの知能について、「まわり」から迫ることで、本質的な理解を得たいと考えています。
◆テーマとこう出会った
大学院では赤ちゃんの片づけの発達について研究していました。その研究を発表した国際学会で知り合ったフランスの先生が、私を研究員として雇ってくれました。フランスでは、ヒトの道具使用の起源をめぐって、発達科学、人類学、考古学、運動学、非線形力学など、まったく異なる分野が共働する学際研究チームで研究をする機会に恵まれました。
学問分野の垣根を越えた自由なつながりに身を置く中で、「理系」や「文系」といった区分は人が勝手に作ったものであって、環境や人を含む生物の営みはそもそもそんな風には分けられるものではないのだということを、身をもって痛感しました。
◆音楽家として
子どもの頃から大学まで、勉強はあまりせず、ずっと音楽をやっていました。大学を卒業してからも、しばらくのあいだ音楽家をしていました。バンドでヨーロッパ20都市をツアーしたことがあります。最初はバラバラだったのが、だんだんとメンバー間で神経がつながっていくかのように、バンドがひとつの生き物のようになっていきました。こうした実体験が、私の研究のバックボーンにあると思います。
◆出身高校は?
千葉県立千葉高校
神戸大学国際人間科学部発達コミュニティ学科は、「発達」という動的な現象と、それとかみあう「環境」や「コミュニティ」から人間について学べる学科です。変化する存在としての人間、そして環境の中で生きる存在としての人間について、理解を深めることができます。発達科学の最先端の知見を学べるとともに、実践の現場で生きる知識を学ぶことができます。
戦う操縦士
アントワーヌ・ド サン=テグジュペリ、訳:鈴木雅生(光文社古典新訳文庫)
人間の行為をかたちづくっているものとは何か。心理学、ロボット工学、生物学など、「生きている」ことに興味がある方に読んでほしいと思います。
TOKYO 0円ハウス 0円生活
坂口恭平(河出文庫)
隅田川沿いに住む鈴木さんは「大自然」東京に自生する段ボールや新聞紙を断熱材として用い、河川敷に家を建てる。豊かな機会を与える環境と、環境に多様な価値を見つけてつながる人の生活が描かれています。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? フランス。パンがおいしいから。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? ストラヴィンスキー。『兵士の物語』が好きです。 |
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Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 『牯嶺街少年殺人事件』 |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 大学時代の初めてのアルバイトは下北沢の某レコード屋。面白い人がたくさんいました。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 旅行すること。 |