老化は遅らせられる?パン酵母で長寿の仕組みを明らかに
微生物もカロリー制限で長生きに
生物の寿命はどのようにコントロールされているのでしょうか。近年、生物の寿命を司る遺伝子の存在が明らかになりました。つまり、ある遺伝子の機能を強くしたり、弱くしたりすれば、寿命の長さを変えることができます。遺伝子の機能を調節することにより、老化を遅らせ、健康的な自立した生活を送る“健康寿命”を延伸させることが可能になってきたのです。
興味深いことに、パン酵母のような微生物にも寿命があります。昔から「腹八分目に医者いらず」と言われていますが、実際、パン酵母でカロリー制限すると寿命が延長することがわかりました。しかも、それはサーチュインと呼ばれる遺伝子によるもので、ヒトにも同じものが備わっています。
変異株を調べていくと
私は、パン酵母を用いて長寿遺伝子を発掘するため、変異株をたくさん取得しました。その結果、新しい長寿変異株を取得することに成功しました。その変異株を詳細に調べ、長寿の仕組みのみならず、寿命延長に有効な化合物も見出すことができました。
長寿の仕組みは多細胞生物にもあるのか
さらに、その仕組みが多細胞生物でも保存されているか検証中です。これには、近年がん検診で話題となっている線虫を用いています。線虫は、寿命遺伝子が世界で最初に見つけられた生物で、老化・寿命研究で最も活躍している生物です。
この研究の成果は、単に寿命の仕組みの理解のみならず、老化を遅延させることにより生活習慣病の発症を予防する予防医学など様々な分野へ波及することが期待されます。
超高齢社会を迎えた我が国では、健康寿命の延伸が重要テーマの一つです。健康寿命延伸の実現のためには、老化に伴う疾患(がん、糖尿病などの生活習慣病)を予防・改善することが重要であると指摘されています。寿命延長の仕組みを明らかにすることは、老化を遅らせることによる生活習慣病の発症と個体の機能低下を遅延させ、健康寿命の延伸につながるというメリットがあると考えています。
◆テーマとこう出会った
私は当初、指導教授のテーマをやっていました。そのテーマとは、細胞がどのように大きくなり、分裂して増殖するのかという問題です。パン酵母は、栄養や飼育温度など細胞外の環境に応じて適切な増殖をします。この仕組みを遺伝子レベルで明らかにするため、外的環境にうまく適応できなくなった変異株をたくさんコレクションしました。
興味深いことに、その変異株の中には既知の長寿遺伝子に変異が生じたものが入っていました。幸運にも、それらの変異株には新規長寿遺伝子がいくつか含まれていたため、寿命という課題にアプローチしようと思いました。まだ、当時(10数年前)は日本では寿命研究を行っている研究者はほとんどいませんでした。
◆子どもの頃
生き物の飼育が好きでした。現在、寿命研究のため、研究室では、パン酵母や線虫のような小さな生き物を培養していますが、今でも飼育している気分で研究を行っています。いかに長生きさせるか考えながら研究するので楽しいですよ。
◆出身高校は?
愛媛県立松山南高等学校(理数科)
生物工学プログラムでは、生物の能力を発見、育種、活用することを実践しています。生命のすべてを学ぶことができます。特に、「健康」と「環境」をキーワードに基礎から応用まで幅広く研究しています。
また、近隣にある国税庁の酒類総合研究所、産業技術総合研究所、ハーバード大学医学部のような世界トップの研究機関と共同研究を展開しています。生物を活用した先導的研究開発ができる、創造的人材の育成を図っています。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 宇宙工学。宇宙にも興味があります。未知の世界が広がっている気がします。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? アメリカ。ボストンに約2年間滞在していましたが、大変快適でした。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 生き物の世話。家では犬の世話と園芸に励んでいます。生き物は世話をするときちんと返ってきます。 |
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Q4.会ってみたい有名人は? イチロー。頂点を極めた人に会って話してみたいです。 |