もの食う人びと
辺見庸(角川文庫)
食べるということは、とても尊く、優しく、楽しいことですが、他方で厳しく危険なことでもあります。チェルノブイリ原発事故後もその近くに住む人たちとご飯を食べる辺見さんは、食べなければその土地のことはわからない、という原則を私たちに教えてくれます。すべての土台にある「食」をもっと深く知りたい、そんな情熱を掻き立てられる本です。
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ナチスの飢餓政策から、誰も飢えない社会を考える
歴史研究では見落とされがちな農と食
たしかに、世界は変えられなければならない。でもその前に、どうして世界は変えられなければならないのか。これが、私の研究の根源的な問いです。
それを、食べものと農業という、これまでの歴史学研究では見逃されがちだけれども、とっても重要な問題から考えています。
その根元にあるのは、飢えの問題です。全世界で8億人とも言われる人たちが低栄養状態で苦しんでいる地球は、誰もが飢えない社会に変えられなければならないと私は考えます。これを現代社会のノイズだと言う人を私は信じません。
そのために、私が考えた方策は一見変わっています。歴史を学ぶことです。
飢餓の解決を政権への足がかりにしたナチス
ナチスが登場したのはなぜか。現代史の永遠のテーマを考えていくと、実はここに飢餓の問題が見えてきます。
ヒトラーの上手な演説にみんなが熱狂したとか、600万人失業者をゼロにしたとか、いろいろな理由と並んで、第一次世界大戦の時にドイツは76万人の人間(そのうち半数は子ども)を飢餓で失っていたことを知ったとき、私は気付きました。
だから、ナチスは「農業を大事にしたい」「飢えをなくしたい」と宣伝し、他の人種を飢えさせてもドイツ人に食料を供給したのか、と。
ナチスのしたことを繰り返してはいけない
9人に1人が飢餓状態であるこの惑星を根元から変えていくためには、普段軽視されがちな食や農業の意味を考え抜き、伝えていかなくてはいけません。しかし、そのためには、ナチスのやったことと同じことを繰り返してはいけません。
負の側面を知った上で、本当に飢えない社会に必要な理論は何か、考えていきたいと思います。
◆テーマとこう出会った
日本の食料自給率はどうして低いのだろうか。どうして日本政府は経済成長やITばかり重視して、生きていく上で絶対に欠かせない農業を大事にしてくれないのか。農家出身の私は、そんな疑問をずっと抱えていました。学生の時、専門書の講読で、ナチスが食料自給率を高めようとしていたことを知って驚いたのが、この研究の始まりです。
福島第一原発収束作業日記 3.11からの700日間
ハッピー(河出書房新社)
日本社会が、どのような人たちによって支えられているのか、あの事故を忘れようとはしていないか。歴史学は皆が忘れたいことを忘れないようにするための学問です。いつも危機に晒されている作業員の言葉に耳を傾けることなく未来を語っても、とても陳腐なものになるでしょう。
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チェルノブイリの祈り 未来の物語
スベトラーナ・アレクシェービッチ、訳:松本妙子(岩波現代文庫)
チェルノブイリ原発事故は、政府にとっては隠されるべきものだったため、情報が不透明であり、多くの人がそのために亡くなりました。市井の人々からの丹念な聞き取りから明らかにした、政治の狂気を目に留めましょう。
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苦海浄土
石牟礼道子(講談社文庫)
チッソが不知火海に流した排水に含まれていた有機水銀が、魚を食べる人々の四肢を曲げ、苦しみのうちに殺していきました。水俣病という公害について、人々の感性のレベルまで降りて知ることは、公害のない世界を作っていく上で、重要です。
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