第5回 将来、研究者になりたい君たちへ ~恩師をみつける

もし君たちが将来実験科学の研究者になりたいのなら、アドバイスになるようなことを話したいと思います。私は柏陽高校の卒業生ですが、高校時代、生物学の先生に大変に影響を受けました。一人目の恩師です。
進学した横浜市立大学では、二人目の恩師、がん研究のイロハを教えていただいた指導教官から大きく影響を受けました。その後、武者修行として米国に留学し、世界最大の生物医学研究施設であるサンディエゴのスクリプス研究所では、三人目の恩師に出会いました。米国の恩師は4年間、現在の研究の直接の下地になるがん研究をみっちり指導していただきました。帰国後、東京大学医科学研究所へ着任して四人目の恩師に出会いました。この先生からはがんの基礎研究を臨床に応用するための重要性を教えていただき、今でも共同で研究を継続しております。
このように、私の人生の節目節目に素晴らしい恩師と出会えたことが研究者としての現在の私がいるといっても過言ではありません。是非、みなさんの人生の恩師を見つけてください。でも、「私が恩師ですよ」と顔に書いているわけでないので、そこをうまく見つけられた人のみがその恩恵にあずかれます。
研究者としての心構え ~異分野交流も積極的に
次に、研究者としての心構えをお話しします。大切なことは、1)世界のトップレベルの研究者を見て学ぶこと、2)実験に強い意欲を持って人一倍努力すること、3)他の研究者との競争に尻込みをしないこと、4)ただし自説に頑固にならないで、ライバルであっても研究のゴールは共有しあえる柔軟性を持つことです。
もう1つ大切なことは、異分野の人と積極的に交流してください。今、私は異分野の数学者と転移がん予報の共同研究をしています。天気予報ってありますね。それをもじって、がんの「転移予報」(笑)。がんが転移するのかどうかを数理シミュレーションするための研究を数学者と共に行っています。
英語の重要性についてもお伝えしましょう。英語を勉強することはテストでよい点数を取るためと思っている人もいると思います。しかし、そうではありません。英語は世界中の人とコミュニケーションを取れるツールです。国際学会などで発表する時は英語は必須です。将来研究者になりたい人は外国人に尻込みしない程度に、英語を勉強してください。
研究者は実験室に閉じこもっているイメージが強いですが、研究を広げるために何事にも外向きに臨むことが大事です。
Dream comes true! 私の一番好きな言葉です。みなさん、どうか夢が叶う方向で勉学に励んでください。
<おわり>
<前回を読む>
第4回 それでもまだ治らないがんがある

がん遺伝子の発見 ~がん解明の同時代史
黒木登志夫(中公新書)
がん遺伝子の研究を始める学生は読んでおくべきであろう一冊。がん遺伝子と抑制遺伝子の発見をめぐって熾烈な競争を繰り広げる研究者たちのドラマと、徐々に明らかになるがんの本態を、自らのがん体験をふまえて描く。iPS細胞研究の山中伸弥先生を、不遇の時代に力づけた本とも言われる。黒木登志夫先生は、東京大学でがん研究を行い、岐阜大学の学長も務めた。黒木先生による『健康・老化・寿命』(中公新書)もおすすめ。
知的文章とプレゼンテーション ~日本語の場合、英語の場合
黒木登志夫(中公新書)
上記と同じく黒木先生が、卒業論文から学会発表まで、説得力あるドキュメントと惹きつけるプレゼンテーションの極意を指南する。文系、理系を問わず必読。グローバル化の現在、英語の学び方についても実践的に説く。
がん基盤生物学 -革新的シーズ育成に向けて
清木元治、秋山徹、石川冬木、内海潤、近藤豊ほか(編集)(南山堂)
日本を代表する、独創的ながんの基礎研究を展開してきた研究者たちによる、研究動向や最新成果の紹介。専門的。
大学教授がガンになってわかったこと
山口仲美(幻冬舎新書)
埼玉大学名誉教授であり、明治大学の先生として、『世界一受けたい授業』などテレビでも活躍していた国語学者の山口先生の、ガン患者体験を包み隠さず書いた本。大腸ガンは、早期発見し、手術もうまくいったのだが四年後にすい臓がんを発症。読者に「賢いがん患者」になる秘訣を説く。