第4回 都市再生のキーワードは「ウォーキング」
都市に人間性を取り戻そう
「都市の再生」というのは、概念としては基本的にアーバン・ルネッサンスだと考えます。中世ヨーロッパはあらゆるものを宗教が支配する世界でした。そこから、人間中心の世界、人間を取り戻そう、というのがルネッサンスの運動であり、そこからすべての、現代が享受している科学、芸術、その他様々なものが生まれてきました。今、都市で起きていることは、同様の意味でのルネッサンスです。都市の中にどう人間性を恢復していくか、ということを試行錯誤しているのではないかと考えています。
20世紀は、人間のための空間が少なくなった時代でした。例えば、道路。元来は、人々が適当に歩き、場合によっては子供が遊んだり、お店が出たりという空間でした。それがいつの間にか自動車のための道になってしまった。そのような空間をどう取り戻すか、という手探りが、広場あるいは屋台などヒューマンなスケールから捉え直す動きとして見えているのです。
歩きたくなるような街、人との出会いがある街に
超高層ビルを建てることが都市再生ではなく、都市空間を人間の視点・人間の感覚からもう1度つくり直していくことが都市の再生につながるということを見てきました。人間の視点の中でも特に、ウォーキング・歩くことを意識する必要があります。その理由は大きく3つあります。
まず1つ目は持続可能性です。自動車はエネルギーを消費しますし、CO2も排出します。サスティナブルな環境という意味でも、自動車中心の社会から、もう一度自分の力で歩ける都市をデザインする、というのは大事なことだと思います。
2つ目は、我が国でも課題となっている超高齢化社会です。最も増えるのはアクティブなシニアの方々です。そのような方々が一番気にしているのは、どう健康な生活を送るかであり、人間の健康の最大の秘訣は歩くことです。それなのに、歩いて楽しくない街だったら、歩きたくても歩かなくなりますよね。高齢者に限らず大人も子供も、都市の環境がもう一度人々を呼び戻し、歩きたくさせることが、とても重要です。人々の生活をアクティブに、生き生きとさせるデザインというのが、これからの都市には求められているのだと思います。
最後の1つは、パブリックライフというものをどう考えるか、ということです。昔に比べるとコミュニティが希薄になってきており、特に、地縁的なコミュニティは非常に少なくなってきています。そのような現代においてもなお、都市の面白さは人と人が出会い、つながりができるところにある、と考えられないでしょうか。皆で社会を生きるというところが創造力の源であり、様々な偶発性を生む。多くの人と様々な出会いがある場所、パブリックライフを意識した都市のデザインが必要とされているのではないかと考えています。
私自身も、いろいろなまちで広場の提案や実証実験をして都市の再生、都市を楽しくする活動に携わっています。皆さんとも是非一緒に進めていけたら、と思います。
中島研究室で取り組んだ、道路を人の手に取り戻す試み(富士吉田市や東京・浅草の例)
おわり
白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか
蓑原敬、饗庭伸、姥浦道生、中島直人、野澤千絵、日埜直彦、藤村龍至、村上暁信(学芸出版社)
都市計画について考える本。1930年代生まれのベテラン都市プランナーと、1970年代生まれの若手が、3年半にわたり、ほぼ隔月集まり、都市計画、都市とは何かについて、議論を重ねてきた、その記録。建築学を志す若い人へ。
パブリックライフ学入門
ヤン・ゲール、ビアギッテ・スヴァア:著 鈴木俊治、高松誠治、武田重昭、中島直人:訳(鹿島出版会)
公共空間について考える本。コペンハーゲンやニューヨークで魅力的な公共空間を手掛けるなど、世界的都市プランナー、ヤン・ゲールらによる著書。50年にわたる実践で培った調査とデザインのノウハウを公開。都市を観察する楽しさに満ち溢れたリサーチの最良の手引き。
新・都市論TOKYO
隈研吾、清野由美(集英社新書)
ユニークな東京再生論。新国立競技場の設計者、建築家・隈研吾が、汐留、丸の内、六本木ヒルズ、代官山、町田の大規模再開発の現場を歩き、「都市再開発」の有り様を語り合う。また、下北沢、高円寺、秋葉原を歩き、「人が安心して生きていける共同体」を「ムラ」と呼び、都会にも「ムラ」は存在するべきと語る『新・ムラ論TOKYO』も。
都市計画の世界史
日端康雄(講談社現代新書)
都市の歴史は、人類の叡智の歴史そのもの。古代メソポタミアから現代の巨大都市まで、ヨーロッパから、イスラム圏、日本の都市まで、時代とともに変化する都市の歴史の全体像がつかめる。
東京都市計画の遺産―防災・復興・オリンピック
越沢明(ちくま新書)
都市計画について考える本。関東大震災や太平洋戦争など後の復興都市計画や、1964年のオリンピックに向けた都市整備を振り返り、今後の東京に必要な都市政策として、来るべき首都地震に備えた防災まちづくりを提言する。