「隣のおじさん」が新しい物理学を作る!
宇宙を構成する素粒子は「ひも」でできている
この宇宙は、何からできているのでしょうか。そんな疑問に答えようとするのが、素粒子物理学です。実のところ、この宇宙は17種類の素粒子からできていることが知られています。たった、17種類の素粒子で、宇宙のすべての現象が記述されているのです。人類が到達した知の地平は、ついに、そんなところまで到達してしまったのです。
さて、代表的な素粒子として、光子があります。光の素粒子である光子が、この宇宙の現象の重要な部分を担っていることはよく知られていますが、それでは、果たして、なぜこの宇宙には光があるのでしょうか?この疑問に答えられた科学者は、いません。
実は、すべての素粒子はちいさな「超ひも」からできている、という仮説があります。これを「超ひも理論」と呼んでいます。超ひも理論を仮定すると、素粒子に光が含まれることが示されます。これは、ひもの振動する方向が、光の持つ偏光と呼ばれる性質と同じである、と理解することができるからです。
さらに、超ひも理論は重力の存在を予言します。光と重力という、この宇宙を形作る最も重要な要素が、超ひも理論で説明されるのです。このような考え方に魅了されて、全世界で研究が続けられています。
超ひも理論は他分野にも使える
私の専門は、この「超ひも理論」です。最近、この超ひも理論を作っている方程式を研究していくと、実は素粒子の分野だけではなく、他のいろいろな分野にも応用して使えるということがわかってきました。
例えば、宇宙の銀河の中心にあるブラックホール(重力が強くて光さえも出てこられない超巨大なもの)と、私たちが日常生活で使っている電気の流れなど、それらを証明する方程式は、実は同じものであることがわかってきたのです。ブラックホールの研究を進めると電気のことがわかり、電気の研究を進めるとブラックホールのことがわかるように、とても不思議な相関関係を見つけることができました。
私は、このように分野を横断して研究を進めているので、素粒子の研究者や宇宙を観測している研究者とも面白い話ができる一方で、電気が流れやすい新しい物質を模索する超電導の研究者とも、お互いに意見交換することができます。共通する方程式を通じて、両方の分野の研究者と話ができることから、自分で科学と科学の間に橋を架けることがきたと、楽しみながら研究を進めています。
常識にとらわれることなく、学問の入口へ
高校生の皆さんにも、自分で自分の領域を限定するのではなく、いろいろな分野に関心をもってほしいと思います。一見すると関係のないことと思われることも、実は様々なこととつながっていることがあります。それが大発見に結び付くこともあるでしょう。常識にとらわれることなく、常識を疑って、学問の入り口へと歩んでもらいたいと思います。
光とはどういうものか
オーサービジットでは、「光とは結局どういうものなんだろう」という質問があり、身近な現象から、その正体を探る姿勢が印象的でした。具体的には、光には色があり、そして明るさがある、そういったものが、素粒子である光子でどう捉えられるのだろうか、といった質問でした。実は、光の色は波長であり、それは光子のエネルギーであるということが物理学でわかっています。その証拠に、レントゲン写真はX線と呼ばれる光子で撮影され、波長が短いのでエネルギーが高いから、体を透過するのです。紫外線は皮膚に悪いと言いますね。紫外線は虹でいうと紫色のさらに外側、見えない領域にあり、波長が短いため、エネルギーが高く、皮膚の細胞に悪影響を及ぼすのです。
Tシャツ姿のおじさんが、新しい世界を拓く
高校生の皆さんは、本当の科学者を目にし、話をしたのは、人生で初めてだったようです。物理や化学などの科学は、教科書で知識を吸収するためだけのものと高校生には思われがちですが、そうではありません。その教科書に載っているすべてのことは、昔人間が発見してきたものなのです。そして、現在も科学者は世界のあらゆる場所で、新しい科学の教科書を作っていくために、研究を行っているのです。
理論物理学者は、白衣を着て実験室に閉じこもっているわけではありません。私のようにTシャツとジーパンを着て、普通に街を歩いています。そういった「隣のおじさん」が、次の世界を拓く物理学を作っているのです。
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義
橋本幸士(講談社)
この宇宙が一つの式で書かれている、という素粒子物理学の真髄を知りたい方向けに、優しく書かれた小説です。出版社の紹介文が物語っているので、引用しておきます。
「パパが書いた一本の数式が、宇宙のすべてを支配してる!? 身近な現象から「ヒッグス粒子」「重力波」「暗黒物質」までの最先端理論を、物理学者のパパが娘たちに70分かけてガチ語り! 物理はやっぱりオモロいわ!」
この本は、読んでほしいというより、感じてほしいです。この宇宙が一つの数式で書かれているということが、どんなことであるかということを。それだけが、この本のメッセージです。
「宇宙のすべてを支配する数式」は、素粒子物理学の最も基礎的な方程式で、「素粒子の標準模型の作用」と呼ばれています。その形を知り、意味を知っていくことで、この宇宙の成り立ちや、どうやって科学者がそれを見つけていったかなどを知ることができます。新しい数式を作り出そうと研究を進める科学者の心意気をも感じることができる、人類の知の結晶です。私は大学の4年生の時にその存在を知り、魅了されました。広く高校生にも、その存在を知ってほしいと考えています。
◆先生は、研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
自分が好きだった数学が、果たして自分の興味のある方向に使うことができるのかを考えた結果、たまたま、素粒子物理学に大学時代に出会いました。「この先はどうなっているんだろう」ということを、とことん突き詰めて進んでいくことが、最も研究にとって大事だと思います。
◆先生のゼミや研究室の卒業生は、どんな就職先でどのような仕事をされていますか。
素粒子物理学は、会社で役に立つ知識を与えてくれません。しかし、論理的に問題を解決できる能力を育ててくれます。そのため、シンクタンクやSE、省庁などで活躍される方も多いです。
◆高校時代は、どのように学んでいたか、何に熱中していたかを教えてください。
数学の問題を解くことに熱中していました。雑誌『大学への数学』の巻末にある問題を解くのに必死でした。
◆先生の研究室のHPやFacebook
◇橋本先生のHP
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◇「Bound Baw」(大阪芸術大学Webマガジン)
科学者の内なる思考が、身体に染み出すとき。素粒子物理学者とパフォーミングアーツの邂逅
※橋本先生が制作し、大きな反響を呼んだ動画「A scientist's life - condensed」をぜひみてください。「理論物理学者の日常がわかる」。
◇動画:TEDxOsakaU
物理学者はいかにして世界とつながるのか / How is a physicist connected with the world? | Koji
Hashimito |
◇Newtonライト
『超ひも理論』刊行記念イベントレポート
理論物理学者 橋本幸士 ×
ニュートン編集部 超ひもナイト in 東京
◇時間が高次元化すると、小説の姿は?「時間高次元小説プロジェクト」YouTube