第7回 [討論中編] 少年法は更生目的の法。若者に成人法適用は放任にならないか

土井先生:今、世間には、少年の凶悪事件が増えているという誤った印象が広まっていて、そのため厳罰化の動きも強まっています。しかし実際には、少年刑法犯全体だけでなく、少年の凶悪事件も減っているのです。ここで少年審判と刑事裁判の違いを説明しておきましょう。
刑事裁判の場合、検察側が告発し、弁護側が防御するという対立構造の中で、裁判官が判決を下します。それに対して、少年審判では対立構造が取られません。裁判官と少年が向かい合う構造なのです。教師と生徒のような関係ですね。また、刑事裁判では、起訴するかどうかを検察が決めますが、少年法の規定では、罪を犯した少年はすべてが家庭裁判所に送致されることになっています。そこで審判にかけるか否かを判断するのですが、重大事犯の場合にはもう一度検察に戻して刑事裁判にかけることもできます。先ほど触れた「逆送」という仕組みです。
刑事裁判においては、被告に黙秘権や裁判官の忌避といった権利があります。実は少年審判には実質的にそれがありません。裁くというよりも、ケースワークを行うことが求められるからです。そこがむしろ少年法の一番の問題という専門家もいるくらいです。これまでは証拠調べも厳格ではないと言われ、それが冤罪の原因にもなっていると指摘されてきました。処罰が目的ではなく、更生が目的だからなのです。
では、もし少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられたら、どうなるでしょうか。具体的な数字で説明しておきましょう。現在、少年事件の半数近くは、実は18歳と19歳の少年によるものです。

少年法が現在のままなら、この年長の少年たちは、そのすべてが家裁に送られ、審判不開始の決定がなされなければ少年審判に付され、なんらかの処遇を受けることになります。しかし、成人と同様の扱いになれば、その65%が起訴猶予、30%が罰金ですみます。実刑を受けるのは5%程度なのです。つまり、少年法で扱われる場合は、非行事実が見当たらないと判断された場合を除いて、教育指導、保護観察、少年院送致などの違いはあっても、すべてがなんらかの処遇を受けることになります。しかし、成人の場合は、実は大半は裁判にかけられないのです。少年が受けるような更生教育もないのです。

Fくん(反対派):少年法の目的が、更生にあるのなら、むしろ22歳まで引き上げたほうが良いと思います。選挙権が18歳有権者に引き下げられたからといって、それが少年法の年齢引き下げの理由にはならないと思います。
土井先生:少年法の対象年齢を引き下げようとする一般的な理由は、犯罪の抑止効果にあるでしょう。しかし昨今は、少年犯罪の事件数は減少しているのです。むしろ再非行率の高さのほうが問題ですが、少年の矯正教育による再犯抑止効果は、成人よりも大きいと考えられます。事実、再入所率は、成人のほうが高いのです。
特に今は、刑務所から満期で釈放されたものの、身柄の引き受け手のない人が、結局、社会で生きていくことに困り、再犯に至ってしまうケースが問題になっています。これに対して、効果的な解決策として、現在、進められつつあるのが「刑の一部執行猶予」という制度です。仮釈放を早め、その代わり保護観察の期間を長く取ることで、社会への軟着陸を目指そうとするものです。現在はまず薬物事件からその適用が始まっています。
つまり、少年法の改正よりも重要なのは、成人刑法犯の処遇問題なのです。とりわけ近年は高齢者の刑法犯が増えているので、この対策が喫緊の課題となっています。
