放射線・化学物質影響科学

放射線被ばく

がん細胞のゲノム中の放射線被ばくの痕跡を発掘


鈴木啓司先生

長崎大学 医学部 医学科(医歯薬学総合研究科 放射線医療科学専攻、災害・被ばく医療科学共同専攻/原爆後障害医療研究所)

出会いの一冊

正しく怖がる放射能の話 100の疑問「Q&A」長崎から答えます

山下俊一(長崎文献社)

放射能というと、広島・長崎、最近では福島原発事故が頭に浮かびます。放射線って一体何なのか、福島原発事故はどんなものだったのか。この本は、専門家でなくても、放射能のことを正しく理解し、事故による影響を、自分が主体的に考えることができるようにと執筆されたものです。放射能に興味がある高校生が、最初に手に取る本としてお薦めです。

こんな研究で世界を変えよう!

がん細胞のゲノム中の放射線被ばくの痕跡を発掘

ゲノムには君の歴史が刻まれている

ポストゲノム時代に生きる君たちは、ゲノムのことはよく知っていますよね。でも、君たちのゲノムの中に、これまで歩んできた歴史が刻まれている事を知っていましたか。

私が興味を持って行っている研究は、そんな、自分史を振り返る、ゲノム川を上流めざして遡るような研究です。

染色体にも遺伝子進化の痕跡がある

ATGCという4塩基の並びであるDNAは、その中に生命の設計図を書き込んでいるわけですが、進化の過程で突然変異によって書き換えられ続けている遺伝子の塩基配列とは別に、ゲノム全体にも進化の痕跡(シグニチャー)がしっかりと残されています。

授業などで染色体を目にした事があると思いますが、いろいろな動物の染色体は、染色体の断片が、プロックのように異なるパターンで組み上がっており、この組合わせこそが進化の痕跡なのです。

原発事故被曝者の発がんメカニズムを探る

2011年3月11日に起きた東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所での事故により、多くの住民が、自然の放射線に加えて事故により追加された放射線が存在する環境で日々の生活を送っています。

健康不安や懸念の軽減には、より正確な科学的知見の提供が大事ですが、長期的な健康影響として懸念される放射線被ばくによる発がんの分子メカニズムは明らかではありません。

もし被ばくによる影響でがんが起こるとすれば、がん細胞の塩基配列とゲノムの中に、放射線被ばくのシグニチャーが必ず残っているはずです。私が行っているのは、まさにその、放射線シグニチャーを掘り起こす研究です。

マイクロビームという、極細放射線細胞標的照射装置での実験風景。 幅1μというマイクロビーム放射線を作り出し、細胞の核や細胞小器官をピンポイントで照射し、その影響を見るという世界的にも希有な実験です。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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福島原発事故後の福島では、自然放射線に追加された放射線が存在する現存被ばくの環境で、日々の生活を送っています。健康への不安や懸念を軽減するためには、より正確な科学的知見を提供することが大事です。

この研究は、放射線のヒトの体への影響の理解を一新する可能性のある画期的な研究で、人類が自然放射線の存在下でいかに進化してきたかの、いわば自分史を遡る研究でもあります。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「放射線誘発発がん変異のゲノム・エピゲノムシグニチャーの解明」

詳しくはこちら

影響を受けた研究者は?
どこで学べる?
先生の授業では
◆講義「基礎放射線医科学」の初回では
DNA二重鎖切断が、細胞核の中に存在するATM(銀行のキャッシュコーナーではない!)という名前の酵素によって見つけられ、そのATMの活性化によって起こるタンパク質のリン酸化が、他のタンパク質を呼び込む契機になり、砂糖にたかる蟻のように、無数のタンパク質が集積する現象があることを説明しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
放射線の生物影響に関する実習を企画した際、参加者である諸外国の研究者たちと議論している様子
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)病院・医療

(2)大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

(3)官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

(1)基礎・応用研究、先行開発

(2)大学等研究機関所属の教員・研究者

(3)その他教育機関教員、インストラクター

◆学んだことはどう生きる?

災害・被ばく医療科学共同専攻を修了した学生は、主に、医療施設での放射線関連部署において業務に就いています。その他、大学の関連分野の研究室に職を得た卒業生もいます。さらに、環境省の放射線健康管理関連部署に専門官として配属された卒業生もいます。いずれのケースも、在学時に得た知識や経験を最大限に生かせる進路に進んでいます。

先生の学部・学科は?

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の中に設置された災害・被ばく医療科学共同専攻は、長崎大学と福島県立医科大学との共同専攻として立ち上げられた修士課程の大学院です。

ここでは、放射線災害が複合災害として発災した際に必要な緊急被ばく医療や、リスクコミュニケーション、クライシスコミュニケーション、放射線看護や放射線医科学など多彩な領域を、基礎から臨床、あるいはフィールドワークを通じて学ぶことができます。

中高生におすすめ

宇宙兄弟(漫画)

小山宙哉(モーニングKC)

月面に降り立った主人公が、恩人に託された深宇宙の小惑星探査を可能にするシャロン天文台の設置を進めているときに、巨大な太陽フレアが発生。主人公やその仲間たちに放射線の雨が降り注ぐ。こんな場面がありますが、宇宙では、まさに太陽から届く陽子線や、ビッグバンにともない発生した宇宙放射線は、こうしている今も地球上に降り注いでいます。

実は、放射線は、太古の昔から身近に存在した物理的エネルギーなのです。宇宙兄弟を読むと、そんな自然の世界をとても身近に感じることができます。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

生物学

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

ショスタコーヴィチ。お気に入りは『交響曲第5番』です。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

某県の酒販株式会社での、お酒の棚卸し作業。


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