環境動態解析

エアロゾル粒子

アジア大陸から飛んでくる黒い粒子、茶色い粒子を調査


中山智喜先生

長崎大学 環境科学部 環境科学科(水産・環境科学総合研究科 環境科学領域)

出会いの一冊

センス・オブ・ワンダー

レイチェル・カーソン、訳:上遠恵子(新潮社)

『沈黙の春』の著者として知られる海洋生物学者が、甥のロジャーとともに、自然の中で過ごした体験を記したエッセイです。自然の不思議さに目を見開く心を持ち続ける大切さを教えられます。環境分野の研究を志すきっかけとなった本で、自然や環境に関心がある皆さんにおすすめです。

こんな研究で世界を変えよう!

アジア大陸から飛んでくる黒い粒子、茶色い粒子を調査

浮遊微粒子が地球を冷やしも温めもする

空気中にはたくさんの小さな液体や固体の粒子「エアロゾル粒子」が浮かんでいます。エアロゾル粒子が太陽光を散乱して、太陽光が地上に到達しにくくなれば地球の大気は冷やされますが、太陽の光を吸収すると大気が暖められることになります。

エアロゾル粒子には、様々な大きさや形、色を持つものがあり、これらの特性によって、地球を暖めたり、冷やしたりする能力が変化します。私の研究課題のタイトルにある「ブラックおよびブラウンカーボン粒子」は、文字どおり黒い粒子と茶色い粒子のことです。

黒いエアロゾル粒子は、人間の産業活動でできる

黒い粒子は目に見えるどの波長の光も吸収するので黒く、茶色い粒子は波長の短い青色の光を吸収し、赤や黄色が残ることで茶色や黄色に見えます。これらの色の付いた粒子は、化石燃料や木材、稲わらを燃やしたり、産業活動などから大気中に放出された気体の有機物が大気中で酸化され粒子化したりすることで生成すると考えられています。

また、これらの粒子は生成した後、その性質が輸送されながら時々刻々と変化していくと考えられます。黒い粒子が輸送途中で透明の成分で覆われると、透明な成分がレンズのように光を集めることで、より多くの光を吸収したり、輸送途中での化学反応により、黄色や茶色の粒子が濃くなったり、逆に薄くなったりする可能性もあります。

なぜ色が変化するのか研究

私は、どうして色が変化するのだろうと不思議で、粒子の色(光学的な特性)の研究を始めました。最近は、産業活動が盛んなアジア大陸から長崎に輸送されてくるエアロゾル粒子の光学特性や化学成分が、大気中での反応の活発度が異なる季節毎にどのように変化するか調べることで、人間活動が地球の気候や環境に及ぼす影響について理解を深めることを目指しています。

(上)長崎周辺でPM2.5の濃度や化学成分、光学的な特性(光吸収や光散乱)を測定して、産業活動が盛んなアジア大陸から長崎に輸送されてくるエアロゾル粒子の特性が、季節とともにどのように変化するかを明らかにする研究の概念図。 (左下)研究室の卒研生が雲仙ロープウェイの妙見岳駅に設置したPM2.5計測器のメンテナンスをしに訪問した際の一枚。 (右下)長崎県民の森(長崎市北部の森林観測サイト)で粒子を捕集したフィルターを回収する卒研生と大学院生。
(上)長崎周辺でPM2.5の濃度や化学成分、光学的な特性(光吸収や光散乱)を測定して、産業活動が盛んなアジア大陸から長崎に輸送されてくるエアロゾル粒子の特性が、季節とともにどのように変化するかを明らかにする研究の概念図。 (左下)研究室の卒研生が雲仙ロープウェイの妙見岳駅に設置したPM2.5計測器のメンテナンスをしに訪問した際の一枚。 (右下)長崎県民の森(長崎市北部の森林観測サイト)で粒子を捕集したフィルターを回収する卒研生と大学院生。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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地球温暖化の科学的な理解を通じて、有効な対策の実現に寄与できればと考えています。また、小型のPM2.5計測器を用いた、途上国での屋内外の大気汚染の研究にも取り組んでいます。大気汚染による健康被害の実態を明らかにすることで、PM2.5が発生しにくいクリーンなエネルギー利用の促進に貢献することを目指しています。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「アジア大陸起源のブラックおよびブラウンカーボン粒子が下流域の放射収支に及ぼす影響」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の授業では
◆授業では、新型コロナと大気汚染の話題も
授業で学ぶ知識と、報道で目にする事柄や、普段の生活が結びつく話題の提供を心がけています。最近では、新型コロナと大気汚染の関連について取り上げています。新型コロナ対策のための都市封鎖により、中国やインドで大気汚染が一時的に大きく改善されたことや、PM2.5濃度が高い環境下では、新型コロナなどの感染症による死亡率が増加する可能性があることなども取り上げています。

◆高校生の関心も高い
長崎県内の高校でのPM2.5に関する実験を交えた出前授業も行っています。特に長崎県西部に位置する離島では、PM2.5の越境輸送に関する関心が高く、積極的に参加してくれます。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
長崎県の離島、宇久島にある宇久高校での出前授業の様子。研究室の学生とフェリーで約2時間かけて訪問しました。 「空気の中のつぶつぶ“PM2.5”ってなんだろう?」というテーマで、PM2.5を作ったり、測ったり、PM2.5をタネ(核)にして雲を作ったりと、実験をまじえながら授業を行いました。
長崎県の離島、宇久島にある宇久高校での出前授業の様子。研究室の学生とフェリーで約2時間かけて訪問しました。 「空気の中のつぶつぶ“PM2.5”ってなんだろう?」というテーマで、PM2.5を作ったり、測ったり、PM2.5をタネ(核)にして雲を作ったりと、実験をまじえながら授業を行いました。
先生の学部・学科は?

長崎大学の環境科学部は、40数名と数多くの環境関連分野の研究者が所属する文理融合学部であり、地域や世界の様々な環境問題や、環境に関連する社会の問題について、自然科学・社会科学の両面から学ぶことができます。

長崎は、歴史文化都市であるとともに、国際交流都市でもあります。環境科学部では、海外の大学との交流事業も数多く行っており、地域に根差した活動をしながら、国際的な視野を身につけることができるのが特徴です。

中高生におすすめ

ドラえもん科学ワールド 天気と気象の不思議(漫画)

藤子・F不二雄、監修:大西将徳(ビッグ・コロタン)

ドラえもんのマンガだと侮ってはいけません。最近、小学生の息子が図書室で借りてきたのを見つけて読んでみると、子ども向けだとは思えない本格的な内容でびっくりしました。気象学の基礎や世界で行われている観測について、わかりやすく解説しています。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

1つを選ぶのは難しいです。物理学も化学も情報科学も植物学も学びたいです。

Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

神戸市ジュニアキャンプリーダーというボランティア組織で、キャンプ場の整備や子供向け自然体験活動の運営などをしていました。環境教育に興味を持つきっかけになり、中学・高校(理科)の教員免許も取得しました。この経験が、今の研究・教育につながっていると感じています。

Q3.研究以外で楽しいことは?

長崎は、魚の種類日本一とのことなので、子どもと釣りに出かけています。


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