地域で生態のちがうサクラマスの生活史を追って
一生川で過ごすか、海から戻ってくるか
私は大学院時代からずっとサクラマスの研究を続けてきました。
サクラマスには、生活史の途中で降海し大きく成長した後に生まれた河川に戻ってくる降海型(サクラマス)と、一生を河川で過ごす残留型(ヤマメ)の2つの生活史があり、同じ個体群の中に異なる生活史を持つ個体が一緒に暮らしています。
また、この2つの生活史の割合は地域ごとに異なり、北海道などの高緯度地域では多くの個体が降海する一方、九州などではほとんどの個体が残留型となります。
さらに、体の大きさや形、模様なども地域ごとに異なっています。そのため、日本各地の様々な河川でサクラマスに出会うたびに、新しい発見を得ることができます。
水産資源の激減は大きな課題
近年、サケだけでなく、ウナギやマグロなど、多くの水産対象種において、資源量の激減が大きな問題となっています。同時に、高齢化や資源枯渇による水産業の衰退も、特に地方において大きな課題となっています。
サクラマスはその水産資源としての重要性から、日本各地で盛んに人工孵化放流事業が実施されているのですが、資源量の回復には至っていません。
また、異なる水系間での移植放流による、移植先の固有遺伝子資源の消失も大きな問題となっています。
生物保全と産業育成の両立を
生物保全と産業育成は相反すると考える人も多いかもしれません。しかし、生物の“生き方”を詳しく知ることで、これらの両立は可能だと思います。
サクラマス研究を通じて、本種を含む水圏の在来生態系の保全と、地域のニーズや強みを活かした生物資源の利活用との両立を図る順応的な資源管理につなげていきたい、そのように考えながら研究に取り組んでいます。
「生活史分化パターンの地域間変異に着目したサクラマス個体群の遺伝的構造の解明」
大分大学理工学部自然科学コースでは、物理・化学・生物・地学の4科目の基礎を幅広く学ぶことができます。理学分野の多くの大学では、例えば、物理学科や生物学科のように、特定の科目を深く学ぶカリキュラムとなっています。一方、本コースでは、理学分野における基礎的知識を幅広く学ぶことができるため、理学についての多角的視点と総合的考察力を養うことができます。