FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド、訳:上杉周作、関美和(日経BP)
政策の<学>は、ある社会が抱えている問題を発見し、解決していく方法を追究する問題発見・解決型の社会科学です。2019年のベストセラーとなったこの本は、教育、貧困、環境、エネルギー、人口など、幅広い分野の世界の今の姿、様々な社会課題に触れることができます。
この本は事実に基づいて世界を読み解き、行動する大切さも説いていて、皆さんの中に眠っている政策の<学>への関心を引き出してくれるかもしれません。社会と自分とのつながりについて興味関心を持ち、今の社会、今の自分について理解を深め、今だけでなく未来のために何をすべきかを考えてみることが、政策の<学>の入口です。
家族政策は、人口政策とどうつながっているか
卒論で日本の家族政策について調べる
私は、男女共同参画社会基本法が施行された1999年に大学に入学しました。現在の性と生殖をめぐる議論は男性・女性の二者択一で性を論じるのではなく、多様なセクシュアリティのあり方を認め合おうという考え方が浸透していますが、当時は男女の関係性に焦点を当てた政策論議や報道が中心でした。
卒業論文のテーマに少子化を選んだ私は、それらを手がかりに女性のキャリア、仕事と子育ての両立といったテーマについて学び始めました。日本の家族政策について調べ始めると、多くの文献は1990年の1.57ショック(1989年の合計特殊出生率1.57が過去最低であった1966年の1.58を下回ったことを指す言葉)に始まる少子化対策がその起点であると説明され、日本は西欧先進諸国に対して遅れているという説明をしていました。
家族政策と人口政策についての発見
それについて、家族政策は人口政策とどう違うのか、両者の接点は何かという疑問を抱いたのが私の研究活動のスタートラインです。この問いを追究するために、就職ではなく大学院への進学を選びました。その後の研究活動を通して得た発見は、(1)家族政策の原点は20世紀初めであること(西欧先進諸国と日本の同時代性)、(2)優生学が時代思潮であった当時の家族政策は、優生―優境政策というべきものであったこと、(3)以降、女性と子どもの福祉は人口認識に大きく左右されながら形成・展開してきたことです。
時代は、優生学から優境学へ
優生学(eugenics)は、劣悪な遺伝的素質を排除するという考えと結びつく恐ろしいものとして知られていますが、私はそれを、より良い<生>から成る、より良い<社会>を希求する思想的潮流のなかで捉えなければならないと考えています。
19世紀終わりから20世紀はじめの時代思潮であった優生思想は、人の能力や人格の形成をめぐって生まれか育ちか(nature or nurture)という関心を刺激し、それが女性と子どもの福祉を中心とする家族政策を重視する傾向を生みました。人間の先天的な素質(生まれ)の改善を重視する優生学(eugenics)は、それに対抗する後天的な環境(育ち)の改善を重視する優境学 (euthenics;優育学とも訳されました)を生んだのです。
「優生-優境主義」と名づけて
両者を柱とする、より良い<生>から成るより良い<社会>を希求する思想的潮流は、イギリスとアメリカを中心に世界的な広がりを見せました。これを優生―優境主義と名づけて、現代の性と生殖、貧困、格差といった社会課題をめぐる議論に歴史的な深みを出したいというのが、私の研究の立ち位置です。
国や地域間の格差、性別をはじめとする属性による格差など、不平等の背景にあるアンコンシャス・バイアスの克服や、ある人が持って生まれた能力を最大限に発揮できるための福祉、教育の実現を支えているのは、連帯や共生の理念です。
こうした<つながり>の知の歴史をたどってみると、20世紀初めの時代思潮となった優生学を主人公とする、より良い<生>から成る、より良い<社会>への関心に基づく優生―優境思想に辿り着きます。どうすればより良い<社会>になるのか。そのための課題を発見し、それに挑む。その繰り返しの中に私たちの今があります。歴史の中に、これからの<つながり>を構想するヒントがあるはずです。
◆先生が心がけていることは?
異業種、異年齢交流。新たな価値が生まれる源のような気がしています。
「人口・家族政策論の史的経緯における国際的差異に関する研究」
上村泰裕
名古屋大学 文学部 人文学科/環境学研究科 地球環境科学専攻
【社会学(国際比較、福祉)】社会政策の国際比較(特に東アジア)がご専門で、国際比較を通して日本の雇用や福祉のあり方の特徴を浮かび上がらせる研究成果を多く出されています。上村先生から、決着できることと、価値観の対立に起因する決着できない問題をはっきりさせることを区別する大切さなど、政策学の難しさと面白さを学びました。
社会のあらゆる問題・課題を多様な視点から考え、解決する力を身につける第一歩は、実社会への興味・関心を持つことです。社会のあらゆる事象を、人々の生きざまを深く見つめましょう、と指導しています。
◆女性研究者インタビュー Vol.4 杉田菜穂先生(大阪市立大学女性研究者支援室)
◆主な業種
(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2) 金融・保険・証券・ファイナンシャル
(3) ソフトウエア、情報システム開発
◆主な職種
(1) 総務
(2) 経理・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職
(3) システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
困っている人を助けたい、暮らしやすい社会づくりに貢献したいという思いをもって、社会課題に立ち向かっています。ゼミ活動で取り組んだ専門書の輪読、インタビュー調査、それに基づく政策提案を通して得た、「しっかりとコミュニケーションを取りながら、お互いに納得いくまで十分に対話をする」経験と社会貢献に対する意欲が結びついて、社会が直面する課題を的確に捉え、解決策を立案する役割を果たしています。
実践的な応用力や学際的アプローチ求める議論を背景にして、大阪市立大学経済学研究科も、以前と比べて原理的な研究教育だけでなく、政策立案や政策実践の能力向上につながる研究教育を重視するようになりました。と言っても、大阪市立大学経済学研究科は「政策学」の専門家が中心というわけではなく、経済学の原理的な知識を身に着けることをカリキュラムの中心に置き、それを前提とする学びの一つに私の「社会政策論」が位置づけられています。
大阪市立大学経済学研究科で社会政策を学ぶ利点は、社会のあり様について理解を深め、人と人の相互作用について考えを深める経済学的な思考が十分身につけられるだけの講義科目が揃っていることと、少人数教育(演習)が充実していることです。
Q1.熱中したゲームは? パズル。特に、ジグソーパズルが大好きでした。 |
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Q2.研究以外で楽しいことは? 俳句と短歌。句会や歌会でコミュニケーションを楽しんでいます。 |
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Q3.会ってみたい有名人は? ダーウィン。科学や発見の面白さについて、話を聞いてみたいです。 |