知能情報学

自然言語処理

ポイントは「間」。自然な会話の自動生成を目指して


狩野芳伸先生

静岡大学 情報学部 行動情報学科(総合科学技術研究科 情報学専攻)

出会いの一冊

われはロボット

アイザック・アシモフ、訳:小尾 芙佐(ハヤカワ文庫SF)

ファウンデーション 銀河帝国興亡史シリーズ

アイザック・アシモフ、訳:岡部 宏之 (早川書房)

「われはロボット」は「ロボット三原則」で有名なSF作家、アシモフの古典的名作です。ロボットの話であるようで、人間とは何か、という問いなのかもしれません。「ファウンデーション」シリーズは同じくアシモフの傑作、予想を裏切る展開と壮大な設定の楽しい小説ですが、そこかしこで「言葉」や「言外の意味」が重要な役割を果たします。いずれも中学高校の頃に読んだのですが、今思うとそのときから人間やその機械による再現に興味があったのだと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

ポイントは「間」。自然な会話の自動生成を目指して

知的活動と脳の仕組みの関係は未解明

相手の話が「わかる」、相手に「伝える」って、どういうことでしょう。本当に伝わっているんでしょうか。今この文章を読んで、何を「考えて」いますか。そういった人間の高度な知的活動は言語抜きには困難ですが、その脳内での仕組みはよくわかっていません。自分がどうやって喋り、考えているかもよくわからないのです。

会話の「間」を解析できるモデルを作りたい

仕組みを解明する方法の一つは、自分の考案したモデルをコンピュータで動かすことです。

私は、人間の言葉の基礎は、話し言葉にあると考えています。例えば会話の「間」には、文脈に応じた意味が込められやすく、「間」を人間並みに解析・生成できるモデルは、仕組みの解明に重要な役割を果たすと思います。さらに発展させ、少しでも人間に近いモデルを作り、自分や他者の仕組みを知るためにいろいろな研究を進めています。

「人狼」の自動プレイ、新聞の見出しの自動生成

言語の仕組みの解明は「科学」(計算言語学)ですが、そこで作ったものは、役に立つ「工学」(自然言語処理)の側面もあります。私の推進する研究プロジェクトは、騙しあいを行う会話ゲーム「人狼」の対話システム(チャットボット)による自動プレイ、会話データによる精神疾患や発達障がいの自動診断、電子カルテの処理、司法試験自動解答と裁判自動化支援、キャッチコピーや新聞見出しの自動生成など様々なものがありますが、すべて言葉の処理という点でつながっていくと考えています。

いずれも実用的であると同時に、今の技術では困難な挑戦的なテーマで、それを知恵と工夫で実現するのは楽しいです。いつかは人間並みに言葉を操り、人間を超えるシステムを実現するのが目標です。

共同研究の一つ、音声会話の分析による医療応用をテーマに、藤本先生(右、聖隷浜松病院てんかんセンター 副センター長)とともに実験の様子を説明している様子。(左から二人目が狩野先生) 【中日新聞2020/4/19朝刊「てんかん手術効果AIで評価 聖隷浜松病院と静大」より許可を得て転載】
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「心理学的に妥当な自然言語処理システムによる会話の自然な「間」の自動生成」

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◆学生と話すこと

自然言語を人間並みに操るコンピュータの実現が究極的な目標で、いつの日かそうなれば人間を超えるというある種の冗談として「人類を滅ぼそう」と言っています。人間の知的機能の理解、工学的応用の双方において挑戦的かつインパクトのあるテーマであること、その道のりには多様なステップがあり、きっと一人一人が興味ある研究課題を見つけられるだろうということを一言で伝えられればという気持ちからです。

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このときの研究室歓迎会は、列車を借り切ってやりました!
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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1) ソフトウエア、情報システム開発

(2) ネットサービス/アプリ・コンテンツ

(3) コンサルタント・学術系研究所

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 基礎・応用研究、先行開発

(3) 技術系企画・調査、コンサルタント

◆学んだことはどう生きる?

研究室を立ち上げて6年目になり、修士卒の卒業生は2学年分とまだ就職して日が浅いのですが、企業の研究開発部門で研究室の専門分野である自然言語処理を直接扱う業務、その基礎に使われる機械学習に関わる業務が多いと思います。これらの知識と経験がある人材はとても不足しており、研究開発以外にもいわゆる「人工知能」の理解を生かしたSE・企画・営業・コンサルタントといった業務を扱う卒業生も多いです。 

先生の学部・学科は?

静岡大学情報学部は国立大学初の情報学部で、設立当初より「文工融合」を掲げ、25年の歴史があります。情報学関連分野の広さを反映して幅広い分野の教員がおり、3学科あるうち私の所属する行動情報学科では、情報サービスの設計、データサイエンスの活用、経営戦略の策定などにかかわる多様な研究室があります。高校時代の印象は大学入学後の学びで多かれ少なかれ変わりますから、本学部のように入学後の選択肢が広いところはおすすめです。

中高生におすすめ

ヴァイオレット・エヴァーガーデン(アニメーション作品)

京都アニメーション(原作:暁佳奈)

お手紙で気持ちを伝える。言葉の難しさと大切さがわかる、素敵なお話です。アニメはストーリーや世界観が趣味に合うかどうか見た目で判断することが多いとおもうのですが、絵柄やあらすじ設定から想像するのとはいい意味で違う感じでした。


「百鬼夜行」シリーズ

京極夏彦(講談社文庫)

陰陽師である「京極堂」こと中禅寺秋彦が、ことばの力で「憑物落とし」をしていく。ことばで人を動かす、口癖は「この世には不思議なことなど何もないのだよ」。かっこいいですね。分厚いのも有名で、「レンガ本」などと呼ばれているそうですが、大学生のころまでに出ていたシリーズは全部読みました。一部漫画化、アニメ化もされています。(画像は『姑獲鳥の夏』)


◆先生からのメッセージ

情報過多の時代で、大学生でも「流れてくる情報を」「面白いネタとして」受動的に消費する一方なことが多いようです。日々のニュースを読んで、知らない言葉があったら自ら検索して調べてみて欲しいです。世界が広がり、自ずと必要な書籍、気になる書籍も出てくるでしょう。

私の研究分野は進歩が速く、時にその見方や評価も人により違います。せっかくウェブ上にいくらでも情報があるので、積極的に検索して読んでみることで「質の高い」「信頼性の高い」情報を見分ける能力を身につけて欲しいです。自分で根拠を持って真偽を判断できることが大事です。もしかしたらこの記事も自動生成された情報かもしれませんよ(ということがどの程度ありうるか、知識がないと根拠を持って判断できませんね)。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

以前と同じ、物理学。科学の基礎的な考え方、世界の捉え方を学ぶことができます。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

いろいろ聞きますが、楽曲の自動生成をしてみたいですね。ある種の歌詞は案外簡単そうです。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

最近映画を見ないですね。それより映画を自動生成してみたいです。

Q4.熱中したゲームは?

人狼…?ゲームも自動生成してみたいです。

Q5.会ってみたい有名人は?

アインシュタイン博士。バーチャルで復元するのは難しそうですね。


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