今も昔も変わらぬ早期退職。明治時代の大卒者追跡調査
明治から昭和の神戸大OBを追跡
戦前期企業の内部統制と不祥事の関連性という研究を進めており、ここでは、これまでに判明した従業員の分析の成果を紹介しましょう。実は従業員の就業実態を伝える史料はほとんど存在せず、戦前期の労働市場の全貌は五里霧中の状態です。
そこで視点を企業から学校に移して、神戸高商(現在の神戸大学)の卒業生名簿を利用し、卒業生が各年にどの企業に勤めていたのか、明治40(1907)年から昭和12(1937)年まで追跡した結果、興味深い事実がわかりました。
現在は、大卒の3割が3年で退職
最近盛んな議論の一つに若者の早期退職問題があります。大卒の3割、高卒の4割の新入社員が3年以内に退職しており、その理由について多くの評論家や研究者が様々な意見を出しています。
よく耳にするのが「今どきの若者は甘ったれで忍耐が足りない」という叱責でしょう。しかし、それは正しい理解でしょうか。
明治は3年で2割が退職
明治後期の卒業生を追跡すると2割程度は3年以内に退職し、別の会社に移っているのです。加えて「近頃の若者は辛抱がない」と嘆く戦前期の史料は珍しくありません。
明治後期は企業社会がようやく成熟した時期であり、その当時から若者の早期退職率が高いという事実は、それが時代を超えた普遍的な現象であったことを示唆しています。
頻繁な転職が仕事のスキルの習得を妨げるのは否定できませんが、転職を働く人と会社のミスマッチの調整と理解するならば、さほど現代の若者を非難すべき筋合いでもなさそうです。
世界各国で高等教育(大学や専門学校)を受ける教育機会の拡充が進められていますが、多額の税金投入に消極的な意見も存在します。高等教育の意義が明確に説明できておらず、研究を主導するアメリカにおいてすら、大学出身者のほうが給料が高いという個人の経済的利益の指摘に留まっているからです。
私の研究では、企業における大学出身者の規律や自制心を数値化で示すことに成功し、高等教育の社会的な意義を明らかにしていると考えます。
「戦前期商社の内部不祥事と経営組織」
神戸大学の経済学部と経営学部はビジネス・スクールとして古い伝統を持ち、理論よりも現実の経済活動の考察を主眼にしています。特に経営学部は国際的に活躍できるビジネス・パーソンの育成を目標の一つに掲げており、その分、授業は濃い密度で進められ実力が養成される一方で、成績の判定は厳しく、大学が求める水準に達していないために留年した学生も稀ではありません。英語の能力は必須で、留学のチャンスは豊富です。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 美術史、哲学 |
|
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? アメリカ。実力があればチャンスも多いので。また自然が多様性に富んでいるので。 |
|
Q3.一番聴いている音楽アーティストは? モーリス・ラヴェル。『海原の小舟』が好きです。 |
|
Q4.研究以外で楽しいことは? クラシックの作曲家が自分で演奏している音源を捜すこと。 |
|
Q5.会ってみたい有名人は? ショパン。現在の演奏方法は正しいのか訊いてみたいです。 |