美術史

日本絵画

奈良・平安期の日本絵画の特徴を探る


増記隆介先生

神戸大学 文学部 社会文化 美術史学専修(人文学研究科 社会動態専攻 美術史学)
(現在は、東京大学 文学部 人文学科)

出会いの一冊

名画を見る眼

高階秀爾(岩波新書)

絵画をただ見るだけ、美しい、本物みたい、と感じるだけでなく、そこに描かれている様々なものが持つ歴史的な意味を知ることで、一つの絵画全体が、どのようなメッセージを発しているのか。その具体的な読み解き方をたくさんの作品を通じて教えてくれる本です。

美術史がどんな方法で、どんなことを考え、どんなことを明らかにしようとしているのかを知るために是非読んでいただきたい本です。また、わかりやすい文章、明快な論理など、研究者の文章としてのお手本にもなると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

奈良・平安期の日本絵画の特徴を探る

美術と時を越えて対話できる

私が研究している分野は、美術史と呼ばれています。絵画、彫刻、建築、写真、デザインなど、世界中のあらゆる造形が研究対象になります。そして、これらの目で見ることができるイメージは、言葉の壁を超えて、世界の人々と共有できます。

さらに、古い時代に作られた造形は、過去の人々が自分の身近な世界、自分から遠い世界に対してどのようなイメージを持っていたのかを知るための入口になります。つまり、時間の壁も超えて、過去の人々と対話することもできます。

世界中の日本絵画を見て、現地の研究者たちから刺激

大学以来の私の研究テーマは、日本の絵画の特徴とは何かを探求することです。このテーマを考えるためには、たくさんの作品を見る必要があります。そして実際、私は世界中にある日本の絵画を見て歩くことをしてきました。例えばアメリカでは、ボストン美術館やメトロポリタン美術館でアメリカの研究者たちと作品を一緒に見ます。

そこでは、英語や日本語を使って、お互いがその作品をどのように感じ、どのように見ているかを語り合います。それを通じて、自分だけの作品の見方の殻を破って、新しい見方や考え方をお互いに得ることができます。

中国絵画と比較し、日本絵画の特徴を知る

そして、たくさんの日本絵画を知った上で、それらを他の地域の絵画と比較します。私は、特に奈良や平安時代の絵画を研究していますので、この時代の日本に大きな影響を与えた中国の絵画との比較を行い、そこから日本絵画の特徴とは何か、日本人は何を絵画で表現しようとしてきたのかを考えています。

2016年に中国・甘粛省での京都大学人文科学研究所の調査に参加した際、石造物に彫られた銘文を解読している様子
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

大学だけでなく、展覧会での講演やカルチャースクールでの講義を通じて、最新の美術史の研究成果をわかりやすく、様々な社会的立場の人たちに伝えるようにしています。

留学生を多く受け入れるとともに、海外における調査にも学生を伴い、多文化の中で学ぶ意味や方法を身につけるよう促し、卒業後もそれぞれの国や立場で交流を続けるようにしています。

◆先生が心がけていることは?

 わかりやすい言葉で、高度な内容を伝えること。

2018年3月にニューヨークのコロンビア大学で行われた日本美術のシンポジウムでの発表の様子
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「平安時代の仏画と世俗画の境界をめぐる比較美術史的研究」」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の研究室では

神戸大学美術史研究室では、毎週、学生と教員が一緒に展覧会見学をします。その展覧会で展示されている作品や画家について、見学の事前や事後に学生たちと話すようにしています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう

◆増記先生のページ

2018年9月から12月にかけてコロンビア大学で講義を行った時、講義を聴講している博士課程の大学院生と一緒に メトロポリタン美術館で調査をした際の一枚。学生は中国、インド、日本、アメリカの学生です。
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業職種

(1) 小売(百貨店、スーパー、コンビニ、小売店等)での商品企画、マーケティング(調査)

(2) 大学等の教育機関・研究機関における教員・研究者

(3) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等における研究職

◆学んだことはどう生きる?

学部時代に学芸員の資格を取得し、大学院の修士課程を終えて、美術館や博物館、教育委員会の文化財担当などの仕事を得ている卒業生が多数います。彼らの専門とする対象や時代は、私とは異なりますが、作品をよく観察して、そこから作品の特質を見極め、その作品を歴史的に位置付ける方法は共通しています。これらの研究方法は、講義やゼミを通じて学んだものです。

先生の学部・学科は?

美術史の専門分野がある大学は、意外と限られています。神戸大学文学部は、学生数が各学年100名に対して教員が50名近くおり、専門分野も多数あって充実しています。美術史研究室には学部学生が24名おり、教員は2名です。学生の専門は、西洋、東洋、日本と分かれていますが、皆が同じ研究室で学びます。そのような学びの場を通じて、他の学生の考え方や物の見方を知り、自分の考え方を鍛え、相対化することができます。

中高生におすすめ

海底二万里

ジュール・ヴェルヌ、訳:村松潔(新潮文庫)

19世紀の人々が、自分たちの未知の世界にどのようなイメージを持っていたのか。海底はどんな世界だと思われていたのかを知ることができます。人間の他界のイメージの歴史を知りたい人におすすめです。私は中学3年生の時に夢中になって読みました。


輝く日の宮

丸谷才一(講談社文庫)

一人の女性国文学者の生き方、恋愛などを軸にしながら、彼女が現実の生活や研究の中で、失われた『源氏物語』の「輝く日の宮」の帖の姿を求めてゆく物語です。人文学研究に必要な論理性を、小説を通じて学ぶことができます。


摘録 断腸亭日乗

永井荷風、編:磯田光一(岩波文庫)

小説家・永井荷風が大正6年から昭和34年に亡くなる直前まで書いていた日記です。関東大震災、第二次世界大戦という激動の時代に、明治時代に生まれ、西洋に留学した日本人がどのように世界を捉え、どのように思索していたのかを知ることができます。漢文体で記されているので、簡単な漢文の勉強にもなります。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

美術史

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

アメリカ。友人が多く、美術史研究が盛んだから。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

モーツァルト。『ピアノ協奏曲第27番』がお気に入り。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

能狂言研究会宝生会という能楽サークル

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

能楽堂の場内整理


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