日本文学

戦後文学資料

水上勉文学から、戦後の日本人が文学に何を求めたか探る


大木志門先生

東海大学 文学部 日本文学科

出会いの一冊

飢餓海峡

水上勉(新潮文庫)

水上勉の代表作にして、社会派推理小説と呼ばれたジャンルの代表作。犯人を捜す面白さではなく、どのような状況の中で人が犯罪に手を染めてしまうのかを探るところに力点があります。占領下の戦後日本の現実を描き出し、重いテーマでありながらどんどん先が読みたくなります。エンターテイメントと文学性の絶妙なバランスが魅力です。

こんな研究で世界を変えよう!

水上勉文学から、戦後の日本人が文学に何を求めたか探る

過去の作品は先人の努力で保存されてきた

私たちは博物館や美術館などにおいて、過去の人々が作った作品や様々な歴史的資料を日常的に目にしています。しかし、それらは貴重なものだからと自然に現在まで残ったわけではありません。様々な経緯や先人の努力の中で価値を与えられ、保存されてきたのです。だから大切なものであっても、失われてしまったもの、価値がわからずに消え去ってしまったものも無数に存在します。

純文学から推理小説まで、様々な作品を書いた水上勉

私は研究グループを作って、2004年に亡くなった水上勉という作家の膨大な資料を整理し、その資料に意味を与え、後の世代の人に受け継ぐことを目指しています。ではその価値とは何かというと、もちろんそれを見る人によって様々ですが、私は以下のように考えています。

水上勉は第二次大戦が終わったすぐ後にデビューして、半世紀以上にわたって多数の作品を残しました。それも「純文学」と言われるような芸術的な小説から、エンターテイメントである推理小説、その他にも仏教評伝、エッセイ、戯曲、児童文学など、様々なジャンルにまたがって活躍したのが特徴です。

日本人が最も本を求めた時代

戦後の高度経済成長期と呼ばれる時代は、日本人に最も本が求められた時代でした。この作家とその資料を通して、戦後の人々がどのような価値を「文学」に求めていたのか、あるいはどのような作品を「文学」と考え、また何を「文学」ではないと考えたのかがわかるのではないか。大きくいうと「文学」という存在の境界線のあり方を考えているのです。

このように無数に積み上がった木箱や段ボールを一つずつ開封し、分類・撮影・整理を行っています。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

小説を読んで考えることの意義の一つは、様々な立場の他者になりかわって世界を体験することにあります。自分とは異なる世界の登場人物になることは、社会の構成員みんなが幸せになるためにはどのようにすればいいのかを考える思考実験にもなります。このような人文知の蓄積と継承により、豊かな教養がすべての人に行き渡り、また他者への想像力によって様々な不平等が是正されてゆくことを目指しています。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「水上勉資料の調査による戦後文学の総合的研究」

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水上勉生誕100年の2019年には生誕地の福井と晩年に住んだ長野で記念のシンポジウムに登壇しました。 写真は長野県上田市で開かれた編集者学会にて、研究メンバーと作家遺族とともに。
先生の学部・学科は?

総合大学の中の歴史のある日本文学科です。学科自体は小さいですが、古典文学から近代・現代文学、日本語学などの幅広いスタッフを揃えており、サブカルチャーに造詣の深い教員もいます。教員と学生の距離が近く、面倒見の良いことが特徴です。学部内には各国の歴史や文化が学べる学科が揃い、隣の文化社会学部には文芸創作科もあるので、総合大学のスケールメリットを生かして、横断的に知識の対象を広げることができるのも利点です。

中高生におすすめ

あらくれ

徳田秋声(講談社文芸文庫)

私が最も中心に研究している作家です。自然主義文学の代表的作品で、大正時代に書かれたので文章は一見とっつきにくいかもしれませんが、是非読んでほしい近代小説です。「世界」とはどのようであるかではなく、作家がどのように認識し、どのように切り取って記述するものであるのかを考えさせられる作品です。


18歳の著作権入門

福井健策(ちくまプリマー新書)

高校生から大学1年生くらいを対象に書かれた、著作権の入門書です。これからの社会を生きる上で必須の法律的知識の基礎的な考え方を教えてくれるだけでなく、芸術作品をはじめ、人々が生み出す様々なものにおける「オリジナリティ」の問題を考えるヒントが詰まっています。


「私」をつくる 近代小説の試み

安藤宏(岩波新書)

私の専門は、作家が自分をモデルにして書いた「私小説」という種類の小説の研究です(徳田秋声という作家を中心に研究しています。水上勉もそこから派生した関心です)。でも、そもそも文学作品は、なぜ自分のことを書くものが多いのでしょうか。

この本は、そのように作家が「私」自身を描いてきた歴史を中心に書かれた、新しい文学史の試みです。タイトルに「私」を「つくる」とあるように、作者がどのような方法を用いて小説の中の自分を演出しているかという視点が斬新で、自らが創作をする人はもちろん、様々な芸術ジャンルを読み解く上での手がかりにもなるはずです。


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