環境動態解析

気候変動

ゴビ砂漠の恐竜時代の地層から、温暖化による急激な気候変動を発見


長谷川精先生

高知大学 理工学部 地球環境防災学科(総合人間自然科学研究科 理工学専攻 地球環境防災学コース)

出会いの一冊

時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち

中川毅(岩波科学ライブラリー)

福井県水月湖の年縞が、過去5万年間の時を測る「世界の標準時計」になるまでの、研究者たちの二十数年にわたる物語。挑戦的な科学には、読み手が興奮するような物語があります。プロジェクトを主導した著者本人が、夢と挫折、栄光の物語をわかりやすく、熱く語っています。

この物語の舞台である福井県水月湖の畔には、著者の監修で年縞博物館が開館しています。ぜひ、本と併せて博物館を訪れてみてほしいです。

こんな研究で世界を変えよう!

ゴビ砂漠の恐竜時代の地層から、温暖化による急激な気候変動を発見

過去4000万年で地球は最も温暖化している

地球温暖化は近年、世界の最重要課題の一つになっています。現在と同程度の二酸化炭素排出が続くと、100年後には現在の2倍以上に当たる1000ppmに達するという予測がなされています。

実は、過去4千万年間を振り返っても、二酸化炭素濃度がここまで上がったことはありません。ものすごく短期間で、人間が地球環境を変えているのです。

超温暖化時代だった恐竜時代

今まさに進んでいる温暖化の未来像を知るため、私は恐竜が繁栄していた約1億年前の白亜紀の地球環境を調べています。白亜紀は二酸化炭素濃度が1000ppmほどで、北極や南極にも氷床がない、“超温暖化時代”だったのです。

白亜紀の地球環境を解明するため、私がいま研究しているのは、1年毎の堆積物が縞模様となって見える「年縞(ねんこう)」と呼ばれる湖の地層です。博士課程の学生時代に、モンゴルのゴビ砂漠をキャンプしながら2ヶ月にわたって調査した時に偶然見つけた地層です。

1億年前の気候変動が数年単位でわかる!

1億年前の白亜紀の、約3百万年間にわたる環境変動が記録されており、当時の気候変動を数年ごとや10年単位で読み解くことができる奇跡的な記録です。

この年縞を調べたところ、温暖化の影響で海洋循環に異常が生じ、映画「デイ・アフター・トゥモロー」で描かれたのと似たような、急激な気候の変動があったことがわかってきました。

恐竜時代の環境を調べて、未来の地球環境がわかるのかと、驚かれるかもしれません。誰もやっていない新しい研究に取り組み、社会に役立てたいと考えています。

1億年前の年縞が保存されている湖の地層の堆積物コアを前に、研究室の学生との集合写真。高知大学海洋コア総合研究センターの分析室にて。右奥にある超高解像度分析装置(XRFコアスキャナー)を用いて、1億年前の気候変動の実態を探っています。
1億年前の年縞が保存されている湖の地層の堆積物コアを前に、研究室の学生との集合写真。高知大学海洋コア総合研究センターの分析室にて。右奥にある超高解像度分析装置(XRFコアスキャナー)を用いて、1億年前の気候変動の実態を探っています。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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私の研究では、温暖化進行後の地球環境予測に向け、大気CO2濃度が1000ppmに達していた約1億年前の白亜紀(温室期)における気候変動の実態解明を試みています。

年縞を保存するモンゴルの湖成層を対象に、白亜紀の気候変動を数年〜数十年の時間解像度で詳細に解析したところ、当時の気候は現在を含む完新世の気候に比べて不安定であり、アジア中緯度域で大規模な干ばつと降雨量の増大とが繰り返し起こっていたことがわかりました。

現行の温暖化が進むと、アジア中緯度域の気温や降水量がどのように変化していくのかを、過去の地球環境の記録と照らし合わせることで調べ、将来予測につなげていきたいと考えています。

◆先生が心がけていることは?

気候変動の長期予測に繋がる研究をする。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「年縞から探る温室期の急激な気候変化:温暖化による気候モードジャンプの可能性」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生のゼミでは

過去の地球環境変動の解明を目的とした「古気候学」という分野を研究しています。学生指導の際には、『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』(大河内直彦著)、『人類と気候の10万年史 過去になにが起きたのか、これから何が起こるのか』(中川毅著)、『気候変動を理学する』(多田隆治著)という3冊の本を紹介して、読んでもらいます。

学生には学んだ内容をプレゼンテーションで説明してもらい、それにコメント・修正することで、古気候学の基礎に関して理解を深めてもらいます。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
米国ユタ州ザイオン国立公園にある2億年前の砂漠の地層を前に、研究室学生の庄崎君と。2億年前のパンゲア超大陸時代における大気大循環の様子を、当時の風向きが保存される砂漠の地層を利用することで調べています。 また火星の地層に見られるものと類似した特徴を示す地球の地層とを比較検討することで、太古の火星の環境を復元するという研究もしています。
米国ユタ州ザイオン国立公園にある2億年前の砂漠の地層を前に、研究室学生の庄崎君と。2億年前のパンゲア超大陸時代における大気大循環の様子を、当時の風向きが保存される砂漠の地層を利用することで調べています。 また火星の地層に見られるものと類似した特徴を示す地球の地層とを比較検討することで、太古の火星の環境を復元するという研究もしています。
先生の学部・学科は?

高知大学理工学部地球環境防災学科は、地球の成り立ちや自然現象の仕組みを扱う理学分野と、災害発生に至る過程や災害に対する構造物の保全策など、実践的防災を目指す工学分野の人材が集まり、理工学が融合した教育を行っています。

また、世界に3か所ある深海掘削計画(IODP)の拠点施設の一つである高知大学海洋コア総合研究センターと連携し、最先端の分析機器を用いた研究教育を行っています。

中高生におすすめ

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた

山中伸弥、緑慎也(講談社+α文庫)

2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の自伝本。「人生万事塞翁が馬」と語る挫折も多かった研究者人生と、iPS細胞の発見に至る歴史が読みやすい語り口で書かれています。


バッタを倒しにアフリカへ

前野ウルド浩太郎(光文社新書)

若きバッタ研究者のアフリカ奮闘記。著者のバッタへの愛情、研究への熱意とアフリカ生活のリアルが、熱く面白く書かれていて一気に読めます。


ぼくは恐竜探検家!

小林快次(講談社)

メディアにも数多く登場する小林先生の、少年時代や大学生時代、そして数々の発見をしている現在の活動を自伝的に紹介しています。恐竜好きに限らず、研究者を志す中高生に読んでほしいです。


宇宙兄弟(漫画)

小山宙哉(モーニングKC)

宇宙飛行士を志した兄弟に関する漫画。JAXAでの宇宙飛行士選抜試験から、NASA宇宙飛行士として月探査を行うまでの人間模様が面白く描かれています。27巻でALS結晶化に成功したせりかさんが、ISSの無重力環境で丸い粒の涙を流す様子には、感動します。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

地球惑星科学です。いま研究している地球惑星科学が面白くてしょうがないので、18歳に戻ってもこの分野を専攻して、違った視点で研究がしたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ドイツです。仲の良い共同研究者がいて、日本人と考え方も似ています。自然も多く、穏やかな環境も好きです。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

中島みゆき。お気に入りは『糸』です。モンゴル・ゴビ砂漠や米国ユタ州などの砂漠地帯を調査している時に聴くと、広大な大地の中でゆったりとしたメロディーが良く合います。

Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『メッセージ』、『インターステラー』、『コンタクト』


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