教科教育学

古典

古典を楽しむ ― つなげて、豊かによむ ―


武久康高先生

高知大学 教育学部 学校教育教員養成課程 国語教育コース

出会いの一冊

寝ながら学べる構造主義

内田樹(文春新書)

本書は構造主義の「入門書」として書かれています。著書である内田樹によると、「入門書」とは「『答えることのできない問い』、『一般解のない問い』を示し、それを読者一人一人が、自分自身の問題として、みずからの身に引き受け、ゆっくりと噛みしめることができるように差し出す」ものであり、本書はそうした意味での「入門書」である、とのことです。

まさに本書は、我々にとって自明なものの見方となっている構造主義についての解説を通じて、いくつもの根源的な問いを示しています。ぜひ多くの高校生に、その問いを自分自身の問題として引き受け、考えてほしいと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

古典を楽しむ ― つなげて、豊かによむ ―

「古典が読める」とは

古典の授業でまず思い浮かぶのは、古典文法や単語の暗記、古文の現代語訳といったところでしょうか。もちろん授業では、その主題について議論することもありますが、基本的にテストでは問われません。大学入試で問われるのも、初見の古典を短時間で正確に読み取る能力です。

しかしそもそも、「古典が読める」とは何がわかるようになることでしょうか。現代語訳でしょうか。主題でしょうか。そして、どのように「古典が読める」ようになれば、生徒たちは古典の面白さを感じ、高校卒業後も時折、古典でも読んでみようかと思うのでしょうか。

私は、文学研究の専門家がどのような読み方をしているのか、調査してみました。すると多くの専門家は、構造等の類似性をもとに、文学テクストを自分が知っている別のテクストと関連づける、そしてその共通点や(類似性のなかでの)相違点をもとに、文学テクストの特徴を捉え、その価値や面白さを見いだしていることがわかりました。

中学生 「浦島太郎」を読む

そこで私は、こうした読み方を実践する授業を中学1年生に行いました。教材は、奈良時代の「浦島太郎」です。この教材でも、亀姫(本話のヒロイン。浦島太郎と結婚します)は浦島に玉手箱を渡します。授業では、「亀姫が玉手箱を渡す意味」と「玉手箱の中身」について考えるため、構図が似ている昔話や物語を生徒に探させました。生徒からあがった昔話で多かったのは「鶴の恩返し」です。両作品は、人間以外の女性と結婚し、その妻から「見るな」と言われたものを見てしまい二度と会えなくなる、という共通点があります。そして「鶴の恩返し」では、「見るな」と言われた部屋には女性の本当の姿(鶴の姿)がありました。

以上のことから生徒たちは、奈良時代の「浦島太郎」でも、「玉手箱の中には亀姫が雲になって潜んでいて(奈良時代の浦島太郎では、開けた玉手箱から「雲」が出て、蓬莱山に帰ります。また亀姫は変身もします)、もし浦島が開けなかったら、亀姫は浦島と一緒に帰るつもりだった。だから玉手箱を渡したのではないか」と、両作品をつなげて解釈していました。つまり、玉手箱に隠れて、亀姫は浦島に着いてきていたというわけです。単独で「浦島太郎」を読んだときには思いもつかなかった、いじらしい恋愛話として生徒たちは解釈していました。

こうした、意外な作品と古典教材とをつなげることで、生徒が楽しく、より豊かに古典を解釈できるような授業。それをこれからも開発していきたいと思っています。

ゼミを行う国語資料室にて、ゼミの学生とともに
ゼミを行う国語資料室にて、ゼミの学生とともに
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「社会や自分との関わりで古典を生かすための古文読解モデルと授業方法、評価指標の開発」

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どこで学べる?
先生の授業では
◆講義「日本文学概説」の最初に
村上春樹の次の言葉を取り上げます。小説家の日常的な仕事について、村上春樹は「『自分とは何か?』という問いかけを、別の総合的なかたちに(つまり物語のかたちに)置き換えていくこと」と答えています。そしてそこから学生たちには、「私たち読者の仕事とは、物語のかたちに置き換えられた『問いかけ』を探り、それを自分の問題として引き受け、考えることである」という話をしています。

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ゼミ中に学生がサプライズで誕生会を開いてくれた日の様子
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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な職種

(1) 中学校・高校教員など

(2) 小学校教員

◆学んだことはどう生きる?

卒業生のほとんどは教員になっています。私のゼミでは、文学作品(古典に限りません)を分析するための観点を最初に学びますが、そこでの経験が、実際に教員になって文学教材を分析する際に役立っていると話してくれる卒業生もいます。

先生の学部・学科は?

高知大学教育学部は、小学校1種免許と中学校2種免許の取得が必須となっています。そのため、教育学部附属の小学校と中学校の両校で教育実習を行います。私のゼミで勉強する学生は、中学校や高等学校の教員になる者が多いのですが、彼らの強みは小学生・中学生といった各発達段階における子どもの様子を理解しつつ、中・高等学校の現場に立つ点です。

天気の良い日、ゼミ中に大学のグラウンドまで散歩したときの一枚
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先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

医学部に入って小児科医になりたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

台湾。以前住んでいて、今でも友人がたくさん住んでいるからです。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ボヘミアン・ラプソディ』。映画を観た後、1ヵ月ぐらいは、クイーンのCDを聞きまくっていました。

Q4.研究以外で楽しいことは?

息子と釣りに行くこと。残念ながら娘はあまり来てくれません。

Q5.会ってみたい有名人は?

北川景子。実際に見て、その美しさに圧倒されてみたいです。