政治的弾圧の厳しかった東ドイツが、40年存続できた理由を探る
30年前になくなった国、東ドイツ
私が研究しているのは、30年前になくなった国での人びとの暮らしぶりについてです。その国は東ドイツといいます。高校生であれば「ベルリンの壁」が崩れて冷戦が終わったという話を、授業で聞いたことがあるかと思います。
なくなってしまった国は失敗した国で何もいいところがなかったので、研究する必要もないと考える人が多いことから、あまり皆さんは聞くことがないかとも思います。知っていても政治的に自由がなく、何か政府のやっていることに反対すると秘密警察がいて、逮捕されるというイメージがあるぐらいでしょうか。
「普通の人びと」の考えや行動に、解を求めて
果たして、そのなくなってしまった東ドイツはそんなひどいことをしてなんで、40年間も存続できたのでしょうか。また、ではなぜ1989年という時期に国が破綻したのでしょうか。
この答えを探るには、政治家やお役人、知識人や評論家、反体制運動の人たちのような意識が高い人たちのことを知るだけでは理解できないことが多いのです。「普通の人びと」が何を考え、どのように行動していたのか、自分たちと同じ立場の人びとがどうだったのか、それがわかると疑問に答えることに近づくと考えています。そのため、当時身近にあった社会問題を、歴史学的に調べています。
また、東ドイツを知ることは、私たち自身がどう社会や政治の現実に向き合っていくのか、そのヒントをくれることになると思っています。調べてみると案外、東ドイツと同じ、だめなものが見えてきます。
東ドイツを知ることは、国内の経済的な不平等や不公正をなくした社会がなぜ実現できなかったのかを知る手がかりを与えてくれます。東ドイツの失敗とは違うことをすれば良いのですが、それが何なのかを考えることも、研究によってできると思っています。
「東ドイツ・ロストック市の住宅事情から見る「公共空間」」
本学部は総合科学という名にあるように、特定の学問分野について深く教授することよりも、むしろ学際的な研究と見方ができるようになる人間を育てることを目標にしています。私の研究がそうであるように、歴史学だけでなく、様々な人文社会科学さらには自然科学にまで目配りができることで、新しい見方を提示することで社会に貢献する人間を輩出していきたいと考えています。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ドイツの旧東側。長年暮らしましたが、暮らしの中から研究に役立つものもあるので。 |