ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ブレイディみかこ(新潮社)
シンパシーとエンパシーの違いとは。日本人の母とアイルランド出身のイギリス人を父にもつ中学生の「ぼく」がイギリス社会で直面(経験)する様々な問題について悩み、考え、乗り越える姿を描いたノンフィクションです。他者との共生や、社会における多様性、社会の格差、イギリス人である「ぼく」のアイデンティティについて、若者の目線を通じて考えることができる本です。
「ぼく」の物事を捉える柔軟さや豊かな想像力、葛藤する息子に寄り添いともに考える母。両者のやりとりも、この本の魅力です。王侯貴族や紅茶だけではない、イギリス社会の「リアル」を知るために、同年代の学生さんにぜひ読んでもらいたい一冊です。移民や世代間の文化的差異に興味をもってくださった方には、『ベッカムに恋して』(映画)もお薦めします。
移民に対する寛容と排除のイギリスの歴史
ロンドンの白人イギリス人は約45%
コンビニエンスストア、飲食店、ホテル、農場、工場、介護の現場…あなたの生活を支えるその背後には、外国出身の人たちがいます。既に日本社会の一部となっている外国出身者の人たちや、その家族・子孫の人たちと共生し、多様な人や文化から成る社会を、私たちはどのように築いていけばよいのでしょう。日本社会にはこの疑問に答える経験が十分にありません。
北米やオーストリアなどに移民を送り出した国とのイメージが強いイギリス。実は、多くの移民を受け入れる/受け入れてきた国でもあります。ロンドンの街中を歩けば、観光客が利用する交通機関やホテル、商店でも、様々な肌の色や出身地域の人に出会います。
今やロンドンの白人イギリス人人口は約45%。半分以下なのです。イギリスがヨーロッパ連合から離脱することの是非を問うた2016年の国民投票では、移民が争点の一つとなりました。
18世紀の移民問題が歴史の始まり
移民は、20世紀以降、すなわち現代社会の問題として研究されがちです。しかし、移民問題にも歴史があります。イギリスは、移民に対して寛容と排除を繰り返してきた社会です。移民が社会の重要な「問題」となり、その後の歴史の始まりとなるのは、18世紀の移民問題とその対応にあると私は考えています。
移民問題の歴史を研究することは、過去と今のイギリスの社会や文化を理解することにつながります。それだけではなく、異なる文化背景を持つ人たちと共に暮らす社会で生じる問題を長期的な観点から知り、その解決のための糸口を得ることにもなるのです。
長期的な視点(歴史的観点)に基づく移民問題の研究、移民受容(排除)の歴史的変遷の解明を通じて、マイノリティに対する不平等解消と多文化共生社会形成への模索に、手がかりを提供します。
◆先生が心がけていることは?
他者に対する偏見や差別がないか。それを意識し、常に情報や認識をアップデートすることです。情報を学生とシェアしながら、学生とともに学ぶことを心がけています。
「イギリス社会の移民に対する態度の淵源-18世紀イギリスにおける移民の受容と排除」
浜井祐三子
北海道大学 国際広報メディア・観光学院 国際広報メディア・観光学専攻
現代イギリスにおける移民を、特にメディアと移民の問題を、歴史的変遷とともに研究しています。浜井先生は、このフィールドにおいて、第一線で活躍する数少ない中堅研究者です。新聞やテレビだけではなく、SNSなどインターネット上の情報にも着目しながら移民の問題を分析しています。最近は、イギリス社会における移民についてのオーラルヒストリーや、移民と食文化の歴史にも関心を寄せています。
歴史学は過去の社会を扱うだけではなく、現代社会の問題ともつながっています。そのことを実感してもらうために、今のイギリス事情、テキストや授業の内容に関連した現代日本の問題を、ゼミや講義で取り上げるようにしています。
◆主な業職種
(1) 中学校・高校教員など
(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等の人事系専門職、総務、営業関連職など
(3) 金融・保険業の経理・会計関連職や一般・営業事務
(4) 学習支援業(塾、各種教室、通信講座等)の教員、インストラクター
◆学んだことはどう生きる?
専門分野を生かした仕事に就く場合、中学・高校の教員を選択する学生が多いです。進路が印象的な卒業生は、漫画家になった学生や警察官になった学生でしょうか。軍事史を研究して、防衛省の地方採用職に進んだ学生もいます。西洋史を卒業しましたが、地元市町村の学芸員となり、郷土資料の整理・保全活動に携わっている卒業生もいます。歴史学科の卒業生といえば、教員や学芸員というイメージを持たれることが多いです。しかし、民間企業等に就職している卒業生も大勢います。西洋史や歴史学を学ぶことで身につけた物事の見方・考え方が、様々な業種や職種で活躍する素地になっている学生も多いことをアピールすることが重要だと考えています。
熊本大学文学部歴史学科は、日本史・考古学・アジア史・西洋史・文化史の5分野から構成され、実践的な専門教育を分野横断的に行い、即戦力となる学芸員や教員を輩出しています。西洋と日本の近代思想史と文化研究を扱う文化史分野を擁するのが、本学科の特徴です。近現代欧米史を軸に、都市社会史、移民史、食文化史、ジェンダー史、モノを通じて歴史を分析するマテリアル・ヒストリー等、西洋史研究の最新動向を取り入れた研究教育が強みです。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 歴史学。食べることが好きなので、地中海沿岸地域の歴史や食文化史を研究したいです(最近、イギリスの食事も美味しいです)。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? 澤野弘之。 |
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Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 『ライフ・イズ・ビューティフル』と『パレードへようこそ』。前者は、第二次世界大戦下、収容所に送られたユダヤ人親子のストーリー。息子に希望を与え続ける父親の姿に感涙です。後者は、社会の周縁部にいたLGBTと炭鉱夫がタッグを組んで社会を揺るがすパレードを行う実話を描いた感動作です。 |
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Q4.大学時代の部活・サークルは? 硬式テニス部。夏はテニス、冬はスキー合宿を楽しむサークルでした。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 温泉めぐり。温泉を愛する温泉ソムリエマスターです。イギリスのバースでも温泉に入浴しました。大学で温泉の授業をしたこともあります。 |