実は行政も担った江戸時代の百姓。古文書からみえてきた
古文書は意外と身近にある
江戸時代の古文書と聞かれたら、皆さんはどんな印象を持つでしょうか。「お宝」や「古臭い」といった印象でしょうか。おそらく、自分にとっては縁遠い存在だと思う方が大半でしょう。
しかし、インターネットで検索すれば、古文書の画像は簡単に見ることができます。文書館や図書館に行けば、古文書の原本を閲覧することも可能です。古いお家には、古文書が保管されている場合もあります。古文書は意外と身近にあるのです。
古文書が多く残る江戸時代は世界史でも珍しい
実は、江戸時代の日本とは、社会の各階層で多くの文書が作成され、それが長期間保存された、世界史でもユニークな存在です。
かつて江戸時代に対しては、武力と政治を独占する領主が百姓から過酷な年貢を収奪し、百姓に苦しい生活を強いたとする、政治的・経済的に停滞したイメージが持たれていました。しかし、古文書の解読に基づく実証的研究の進展は、長期平和状態の下で培われた江戸時代の政治と経済の発展が、その後の近代化の重要な基盤となった事実を明らかにしています。
百姓の自治活動の明治維新への影響を研究
私が勤務する熊本大学は、大名から百姓まで社会全階層の古文書約15万点を保管する、まさに江戸時代研究の宝庫です。私は、百姓たちが担った地域社会の自治や行政の活動について研究しています。百姓から選ばれた村役人たちは、独自の財源を管理し、社会資本の整備、貧民の救済、農村の復興などの公共的な機能を担っていました。彼らの活動は、いかに政治・経済の構造を変え、明治維新の変革に影響を与えたのか。この研究から、現代につながる市町村自治体の起源、社会的分業の単位であるローカルな地域社会の歴史性を解き明かしたいと思っています。
「「熊本藩関係貴重資料群」の総合的解析による日本近世の意思決定構造の実証的研究」