新領域法学

生命倫理法

フランスの国民参加の生命倫理法改正


稲葉実香先生

金沢大学 人間社会学域 法学類(法学研究科 法務専攻/法科大学院)

出会いの一冊

コウノドリ(漫画)

鈴ノ木ユウ(モーニングKC)

産婦人科の現場で起きる様々な出来事を通じて、赤ちゃんの命の重さと、妊娠した女性の人生設計や貧困、DVといった問題から来る葛藤、お医者さんの苦悩等が描かれており、生命倫理を知る上では大変参考になるコミックです。妊娠・出産をめぐる自己決定の問題は、一般的な病気における治療選択権の話ともつながります。

こんな研究で世界を変えよう!

フランスの国民参加の生命倫理法改正

5~7年に1回、生命倫理法を改正

生命倫理には高校の頃から興味があり、最初から研究テーマは決めていました。研究を始めた当初、フランスの議論はほとんど聞かなかったので研究しようと決めたのですが、実はこの当時まだフランスにはほとんど法律や判例がありませんでした。

ところがその後、急ピッチで生命倫理関連分野の法制化が進みます。興味深いのは、技術の進展が著しい分野なので、生命倫理法は5年から7年に1回改正すること、そのたびに全国会議を開くことが法律に定められているのです。

フランス全土で271のタウンミーティング

2020年、生命倫理法は4回目の改正の途中で、2018年に全国会議が開催され、フランス全土で271のタウンミーティングが開かれました。ウェブ上でも議論が行われ、他人の発言にいいね!をつけることもできます。専門家やNPOなどにも広く意見聴取を行い、全国会議の結果は倫理諮問委員会というところが報告書にまとめ、ウェブ上で公表しています。

国や国民の議論はすべて可視化

また、この委員会や、いろいろな政府機関や議会がそれぞれ報告書を出して、これらをもとに立法作業が行われているのです。ですので、国民の間にどんな議論があったのか、専門家はどう考えているのかといったことが可視化され、どう立法につながったのかがわかります。

今回は同性カップルや独身者が生殖補助医療(不妊治療)を使って良いかどうかが一番大きな議論なのですが、国民の声がどんな風に立法に反映されるのか、とてもワクワクしながらその経過を見守っています。

本件研究との関連で昨年9月にフランス調査に行ったときに 撮ったフランス国民議会(下院)
本件研究との関連で昨年9月にフランス調査に行ったときに 撮ったフランス国民議会(下院)
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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私の研究が進めば、インフォームド・コンセントや人生会議など、人が納得して医療を受けたり、自分の生き方を貫いたりできるように、法制度を整備することにつながります。また、夫婦別姓のために事実婚しかできなかったり、婚姻ができない同性カップルなど、現在の日本で法的な家族の枠組みから除外されている人々にも、子どもを育てたり、家族の医療に同意したり、家族の最期に立ち会ったりする権利を与えることにもつながります。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「フランスにおける生命倫理の法制化についての研究」

詳しくはこちら 

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先生の授業では
◆講義の特色

学部生には、憲法(人権)の授業の中の「自己決定権」という部分で、インフォームド・コンセントや安楽死、生殖補助医療(不妊治療)や同性カップルの権利について、手厚く扱っています。法科大学院では、憲法のほか、「現代法の諸問題」(千葉大学法科大学院との連携科目)という特色のある授業、あるいは年度によっては「医事法」を担当する中で、生命倫理の問題を講義しています。

◆講義の中では

ごく何気ない話題、例えば「彼女(彼氏)いる?」という質問は異性愛を前提としていて、「お父さん、何の仕事?」という質問は、両親の存在や、ジェンダーバイアスを前提としています。そういう無意識のバイアスを意識化することが大切だ、ということを話します。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
東京ゼミ合宿、国会議事堂見学と衆議院法制局・憲法審査会訪問
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東京ゼミ合宿で、弾劾裁判所見学
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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2)法律・会計・司法書士・特許等事務所等

◆主な職種

(1)公務員 

(2)法務、知的財産・特許、その他司法業務専門職

◆学んだことはどう生きる?

ゼミ卒業生の多くは公務員になりますが、憲法やジェンダー論、生命倫理について学んだことが役に立っているようです。また、法科大学院の卒業生の多くは弁護士になりますが、医療事故や離婚訴訟、成年後見、遺言状の執行など、多様な事件を扱います。その際、憲法や生命倫理における学びは、当事者に寄り添う上で役に立つことと思います。

中高生におすすめ

もしも宇宙に行くのなら 人間の未来のための思考実験

橳島次郎(岩波書店)

「人類が宇宙に行く」ということを想定してはいますが、実は人間とは何か、あるいは人間性とは何かを問いかける本です。人体の改造はどこまで認められるか、ロボットとどう付き合うべきか、宇宙空間における生殖や遺体の処理はどうするかなど、生命倫理の専門家による様々な思考実験は、大変興味深いです。


丕緒の⿃ 十二国記5

小野不由美(新潮文庫)

十二国記はどれも素晴らしいお話ですが、ここではあえて短編集を。国とは、法とはどうあるべきか、深い内容を含んでいます。


銀河英雄伝説

田中芳樹(創元SF文庫

2020年に地上波でアニメ版が放送されたので、知っている人も多いと思います。最悪の独裁政権と最悪の民主政権、それらにあらがう人々が描かれています。同盟の腐敗ぶりは現実の社会と重なるところも多いですが、唯一羨ましいのは、年金制度がしっかりしているところですね。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やっぱり憲法です。一生かけても研究し尽くせないと思うので、二度目の人生でも憲法をやりたいです。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

聴くのはクラシックがメインですが、作曲家ではモーリス・ラヴェル。『ヴァイオリンソナタ 第2楽章』はゾクゾクするほど格好良いです。演奏者ではマルタ・アルゲリッチ、神尾真由子、オーケストラ・アンサンブル金沢を聴いています。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『チョコレートドーナツ』。子どもにとっての幸せを確保する法や制度とは何かを考えさせられます。

Q4.大学時代の部活・サークルは?

器楽サークルとボランティアサークル

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

クラシックコンサートや音楽祭の会場スタッフ(チケットもぎりや物販など)やケータリング(海外オケ団員さんのお茶くみ)のアルバイトをしました。


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