講義理解のコツがわかる!ビデオ教材を開発
ノートをとることは外国人留学生には難しい
授業中に先生の話を聞きながら、ノートをとること。実はこれは高度なマルチタスクで日本語を母語としない外国人留学生にとっては難しいことなんです。私が大学院の博士課程でアイカメラを使って外国人留学生の視線を分析したところ、黒板の文字を何度も読み戻り、情報の処理に時間がかかっていることがわかりました(『講義理解過程におけるアカデミック・インターアクションに関する実証的研究 : 留学生の視線行動から考えるグローバル化時代の大学教育』)。そのため、日本の大学に入学後、講義を理解するのに苦労している留学生がいることも調査でわかりました。
でも講義理解のストラテジー(方法)を身に付けるためのWeb動画教材は、世界でもまだ開発されていません。
よって、この研究では、まず「どうやったら講義を効率的に聞き取れるのか」を知るため、日本人学生や留学生に調査を行いました。講義ビデオを見ながら特別な電子ペンでノートをとり、次にそのノートの軌跡を音と同時に再生させて、何を考えていたかを自由に話してもらいました。
内容をまとめる言葉、強調するしぐさに反応
ノートと口述のデータを分析した結果、理解テストの点が高い学生は、講義中に教師が「このように」等、まとめや重要な部分を示す機能を持つ言葉(メタ言語)を発言したとき、また、強調のためのジェスチャー(非言語行動)が表れたときに、多くノートに書き留めていました。
その他にも、教師の声がよく聞けるように教室の前方に座ったり、わからなかったところを質問できるように人とのネットワークを広げる行動をしていて、講義理解には言語以外の要素が大きく関係していることがわかりました。
Webビデオ教材の効果、検証中
この調査結果から、前述の複数のストラテジー(方法)、つまりマルチモーダルな要素を取り入れた40項目のCan-do Statements(講義理解能力のリスト)を作成し、この研究を共同で行っている教員の専門的見地から説明を行うWeb動画教材を完成させ、現在は効果検証を行っているところです。
この教材を世界のどこかにいる日本語学習者が視聴して、将来、日本の大学や大学院入学の手助けとなることを願っています。
2019年現在、31万人以上の外国人留学生が来日し、そのうち約半数が日本の大学や大学院に入学していますが、未だ受け入れ国である日本側がホスト、外国人留学生がゲストとなっているケースも少なくありません。
「郷に入れば郷に従え」ではなく、教育のグローバル化に向けて相互に協力し、学び合える環境づくりが重要だと感じています。そして、世界の国々から日本を選び留学してくれた学生が安心して学生生活を送れるように、受け入れ機関が在籍中の学習をサポートし、卒業時には就職支援をするなど、人材育成の視点で教育を進めていく必要があると考えています。
◆先生が心がけていることは?
日本語教育プログラムの中にSDGsを組み込み、海外の学生と地域のSDGsを実践している方たちとの対話の機会を設けています。
「マルチモーダルな視点による講義理解能力育成のためのWebベース教材の開発」
宮崎里司
早稲田大学 日本語教育研究科 日本語教育学専攻/国際コミュニケーション研究科 国際コミュニケーション研究専攻
第二言語習得研究(外国人力士の日本語教育、外国人看護士・介護福祉士のための日本語教育、夜間中学、市民リテラシー、アイカメラ、脳波など)の研究をしています。先生の研究から、第二言語習得全般、特に研究の方法について学びました。また、書籍だけでなく、実際に現地に行って自分の目で日本語教育の現場を確認し、外国人を取り巻く問題や研究に触れることができ、研究の動機が高まりました。
森田裕介
早稲田大学 人間科学部
教育工学、科学教育など、テクノロジーを活用した学習支援、特にヴァーチャルリアリティ(VR)などの技術の応用や、遠隔学習(映像メディアの活用)などの研究を行なっています。コロナ禍の中、オンライン学習の機会が増えた人も多いと思いますが、これらICTを利活用した学習デザイン、eラーニングなどを基礎から応用まで学ぶことができます。
◆「Web講義+デジタルペンを使って、自分のノートテイキングを振り返り、講義理解能力向上を図る」(早稲田大学e-Teaching Award 2016)
私は岡山大学グローバル人材育成院の日本語教育プログラムの運営に携わっていますが、現在は予備教育特別コースで、留学生の大学院受験準備やアカデミックリスニングの科目を担当しています。
また、グローバル人材育成院には、日本人学生が自分の学部での専門教育をベースとしつつ履修できる特別コースがあります。海外体験を組み込んだプログラムにより、グローバル社会のリーダーとして実践的に活躍できる人材育成に取り組んでいます。
岡山大学グローバル人材育成院 (okayama-u.ac.jp)
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 大学時代の専門は、文学部の人間学コース(倫理学専攻)でしたが、ここでは心理学、哲学的思考やディスカッションにより意見を整理していく力が身につきましたので、18歳に戻っても同様の学部を選ぶと思います。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? アメリカ。リベラルアーツの大学で勤務した経験から、教育システムの面で学ぶ点が多かったと思うから。 |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 大学の日本語教員養成課程の先生からの依頼で、フィリピンから移住なさった方たちに日本語を教えに行っていました。日本語の学習ができて喜ぶ姿を見て「私がやりたいことはこれだ!」と思い、日本語教師の道に進むきっかけとなりました。 |
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Q4.研究以外で楽しいことは? 昔から異文化に興味を持ち、大学時代にはバックパックを背負ってヨーロッパなどを一人旅していたくらいですので、日本語教師となって30年近くなった今でも、海外からの留学生と交流しているときはとても楽しいです。 |
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Q5.会ってみたい有名人は? Facebookを立ち上げたマーク・エリオット・ザッカーバーグ。 |