ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯
クレア・キップス、訳:梨木香歩(文春文庫)
私の研究の根底には、常に「こころ」はどうして育つのか、という問いがあります。人と人との間に、そしてこの本のように、人とスズメの間に「こころ」というのは立ち現れるものだと思うのです。
絵本という文化財(宝物)を通して相互作用する場に立ち現れる「こころ」を、難しい言葉では「間主観」といったりもしますが、この感覚を持った育ちがきっと人を豊かにすると思います。温かで、嬉しくて、ちょっぴり悲しかったり寂しかったりする、人に平等に開かれる意味の世界、それをまるっと研究したくなる感覚を皆さんに伝えてくれる本だと思います。そして、その世界はそれだけで尊い、人に与えられた平等で自由な感覚であろうと思います。
絵本を使って、発達の謎を解き、教育に役立てたい
人は人のまねをしながら学び、個性を確立する
人には個性があることを疑う人はほとんどいないのではないでしょうか。しかし、人は人になる過程で、「まねる」という能力を使い学ぶのです。徹底的にまねっこする人が個性を確立していくことの不思議さ、これを不思議と実感できること、それこそが研究への入り口に立つということだと思っています。
「私」という皆さんは、父や母や、かっこいい!と思う人のまねっこをして、いつの間にか言葉を理解し、抽象的な概念を理解し、表現するようになっています。また、人の表情やしぐさから他者の気持ちまで推し量るように育っていきます。
障害をともに乗り越える親の姿を目の当たりに
この謎を当たり前だと捉えている人は世の中にたくさんいます。しかし、この当たり前の過程を謎として問題意識を持ち、その答えを導くための方略を練り、問題意識に立ち向かう人は一握りなのです。
私は、障害のある子どもの育ちの困難さと、その困難を一緒に乗り越えようとする保護者の姿を、学生時代に目の当たりにしました。そして彼らと共に生きるという、まさにそのただ中で、人が育つという「発達」の謎を少しでも解き明かしたいという動機を持ったのです。
絵本が教える、人と人との交流交感のあり方
そして、彼らの生活に少し役立つことを提供できたらいいなという願い(問題意識)を持つようになりました。絵本は、人が長い年月をかけて育てた人間文化の宝物です。その宝物を利用して人が人との間に生み出す交流や交感の在り方を解き明かすこと、それが、この研究が目指す問題意識です。
住み続けられるまちづくりを中心に生涯学習の観点を強調する質の高い教育は、一見するとあまり関係がないSDGsの目標にみえます。しかし、誰をも排除することなく、誰でもが豊かに暮らせる街と住まう人々の行為、そこから生み出される人々の幸福感は、直結するものでしょう。
関係性を観点に発達を考える私の研究が最も貢献できるSDGsの目標は、そういう意味で4.「質の高い教育をみんなに」と11.「住み続けられるまちづくりを」だろうと思います。この2つの目標の観点を結び、関係発達としての本研究を、地域に役立つものとしたいという願いがあります。
◆先生が心がけていることは?
排除しないという意味では、インクルージョンという意識を持つこと。
「絵本の読み合い遊びが育てる子どもの関係発達-その実証的研究-」
赤木和重
神戸大学 発達科学部 人間形成学科/人間発達環境学研究科 人間発達専攻
自閉症児のコミュニケーションの発達について研究しています。とにかく面白い観点で、面白い発達研究を生み出しているその姿勢をリスペクトしています。
茂呂雄二
東京成徳大学 応用心理学部 臨床心理学科
学習活動の社会的文化的基盤に関する理論的研究をしています。国内外の人々を広く結び、「パフォーマンス心理学」という新たな心理学の分野を開拓しています。
齋藤有
聖徳大学 児童学部 児童学科
幼児期の絵本の読み聞かせに母親の養育態度が与える影響を研究しています。絵本を媒介とした研究を一緒に支えてくれる若手研究者です。私が子ども視点で発達を考える中で、大人側からの発達の示唆をしてくれる貴重な年下の研究者でもあります。
◆専門演習の授業で学生に伝えること
「人間にとって遊びとは何か」というテーマで、遊びこそが活動と動機が一致する純粋な学びの行為なので、子どもと一緒にまずは遊んでみましょうと伝えます。子どもと無心に遊ぶ体験とその世界の実現こそが、インクルージョンという世界にもっとも近いでしょう。遊びは誰も排除しない世界であるからと、よく話しています。
◆Facebook:https://www.facebook.com/YOMIAIasobi
◆Facebook特別支援交流広場: https://www.facebook.com/SNEcommunitycircle
◆くりむちぇくかふぇ(Youtube)
◆主な業種
(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(2) マスコミ(放送、新聞、出版、広告)
(3) 福祉・介護
◆主な職種
(1) 小学校教員
(2) 総務
(3) 幼稚園教員、保育士等
(4) 福祉・介護関連業務・関連専門職
◆学んだことはどう生きる?
基本は、教員になる学生がほとんどですが、中には音楽活動を行うパフォーマー、プロレスラーになった学生もいます。教育とあまり関係がないように思うのですが、彼らは、なぜだか教育学部で学んだこと、教育実習に行って子どもと出会ったことが今の活動に役に立っていると言います。障害児心理学、臨床発達心理学をベースに研究する私の研究室の学生は、関係性という発達の柱を応用して、各分野で生かしているように感じます。
宇都宮大学は、2020年度、群馬大学と協力して共同教育学部を開設しました。私の所属する学部は、文字通り教授することのスペシャリストを養成するという目標があります。
もちろん教える者がいれば教わる者もいるのが当たり前です。すなわち教授・学習が分かちがたい宇宙をなしているその世界を探求する、スペシャリストです。幼児・児童・生徒と子どもの発達水準が異なれば、伝える行為も学ぶ行為も異なります。人間として豊かに生きるために何を教授し、何を伝えてゆくのが良いのか。普遍的なものと変えてゆくべきものを文化歴史的に探究する学問であり、昔も今も探求のためのエッセンスはそう変わらないと思います。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 児童文学あるいは文化人類学 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 北米。ブライアントパークの公共図書館には、図書館ライオンの絵本に出てくるようなライオンの彫刻が寝そべっていて、ドーンと迎えてくれます。即興・遊びを題材にしたパフォーマンス心理学の研究者がいるので、学びつつ、時々ライオンの写真を撮り溜めたいです。 |
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Q3.一番聴いている音楽アーティストは? キース・ジャレット、スガシカオ、バーンアウトシンドローム、矢野顕子、ヨーヨーマ。それぞれが一番で、順位をつけられません。 |
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Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は? 最近見た映画では、『わたしは、ダニエル・ブレイク』です。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 人形劇団の方たちと、即興劇のワークショップを企画すること。 |