それでもボクはやってない(映画)
周防正行(監督)
この映画は、電車内で痴漢をしたと疑われた男性が、逮捕され起訴されて刑事裁判を戦う過程を描いたものです。皆さんは、授業で「疑わしきは罰せず」、「黙秘権の保障」、「公平な裁判所」など、刑事裁判の原則を学んできたことと思います。
被疑者が否認しても、その言い分を真摯に聞くことなく、暴力的な取調べを行ったり、優しい言葉をかけたりして、なんとか罪を認めさせようとする警察官、被疑者に有利な証拠は集めず、被害者の供述のみを根拠に起訴する検察官、被疑者が否認を貫く限り身体拘束が続き自白を迫られる人質司法、裁判官の当たり外れに左右される訴訟指揮、そして判決は…。
わが国の刑事司法の現状は、果たして原則通りに運用されているのか、改めて考えてほしいと思います。
検察官に有利な刑事訴訟法改正、公正に法運用はされるのか
検察官に大きな権限
わが国の検察官は、起訴するか否かの判断に際し、非常に大きな権限(訴追裁量権)を有しています。証拠が十分に揃い、有罪立証ができる場合であっても、起訴しないこと(起訴猶予といいます)もできるのです。
この訴追裁量権が適切に行使されているとはいえない事例(例えば、通常なら起訴猶予になるような軽微な犯罪なのに、被告人が特定の思想を有しているがゆえにあえて起訴された事例)が実際に発生しています。
これまで私は、(1)どういう場合に許されない差別的起訴になるのか、また(2)自らの起訴が差別的起訴であるというためには、被告人はどのような立証をすべきか、について研究を行ってきました。
「協議・合意制度」と「刑事免責制度」
2016年刑事訴訟法改正により、(1)他人の犯罪の捜査や立証に協力するのと引き換えに検察官が有利な取扱いを約束するという「協議・合意制度」及び(2)供述を自分に対する証拠としないことを条件にして、自分が関わった犯罪について証言を強制する「刑事免責制度」が新設されました。
起訴の公正性を担保できるか
これらの新制度は、従来にも増して訴追裁量権を拡大するものであり、その権限行使の在り方次第では起訴の公正性が疑われる可能性があるにもかかわらず、起訴の公正性を担保する制度は設けられませんでした。
そこで、これらの新制度の運用にあたって、(1)どのような場合に許されない訴追裁量権の行使となるのか、(2)また検察官の不公正な訴追裁量の行使に対し、その不当性をどのように立証するのかを解明するために、研究を進めています。
本研究とSDGsとのかかわりは、不平等な訴追の防止(10)と訴追裁量権の行使の透明化(16)です。
公正な刑事司法を実現するためには、検察官の訴追裁量が、適切に行使される必要があります。私の研究によって、(1) 刑事司法改革の当初の目的であった訴追裁量権の行使の透明化に資することができます。
また、(2) 社会正義や国民感情に反しない「国民の理解を得られる」訴追とは何かを解明することにより、適切な訴追裁量のあり方を明らかにします。
さらに、(3) 訴追裁量の行使の不当性を争う弁護側に、有効な防禦方法を提供することが可能となると考えています。
「「協議・合意制度」および「刑事免責制度」に関する訴追裁量のコントロール」
◆主な業種
(1)官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2)小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
◆主な職種
(1)一般・営業事務
(2)中学校・高校教員など