食生活学

発展途上国での栄養教育

ブータンの子どももジャンクフードが好き!食文化を踏まえた栄養教育を


高増雅子先生

日本女子大学 家政学部 名誉教授

出会いの一冊

海を渡った栄養士たち~青年海外協力隊栄養士40年の活動記録~

青年海外協力隊栄養士ネットワーク(青年海外協力協会(JOCA))

JOCAの栄養士隊員の活動の様子や、その後の活動を30名の栄養士がまとめた活動記録です。どの報告も、日本と言葉も異なる任地で、栄養士隊員として活動を行った体験を記録しています。
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こんな研究で世界を変えよう!

ブータンの子どももジャンクフードが好き!食文化を踏まえた栄養教育を

異なる食文化を持つ人々への支援

私は、現在ブータンの子どもたちを対象に、栄養教育の支援活動を行っています。今まで、JICAや文部科学省の家庭科による途上国支援活動を行ってきました。ガーナ、グアテマラ、ベトナム、ラオスと、様々な発展途上国と呼ばれる国の子どもたちと接してきました。

それぞれの国により、生活習慣も違いますし、食べている食べ物、その食べ方、調理の仕方もそれぞれ異なります。違う食文化を持つ人々への支援活動には、難しいものがあります。

まずは給食の提供からはじまる

それぞれの国の子どもたちが抱える問題は、たくさんあります。一番は、勉強する機会がない、親が学校に行かせない等、学校に子どもたちが通って勉強することが難しい地域がたくさんあることです。そういう地域で、学校で給食を出すことで、学校に行ける子どもたちが増えることもあります。

次の段階は、子どもたちの食べるもの、提供している給食の内容を考えることです。開発途上国の人々の寿命は、先進国に比べるとまだまだ短いものがあります。子どもたちを見ると、日本の同じ年の子どもたちと比較しても、身長が低かったり、ちょっと痩せていたりと、十分な栄養素がバランス良く摂取できていないことがわかります。

家庭や市場での食の実態を調査

日本の給食をそのまま持って行っても、食文化がまるっきり違うので、「美味しくない」と受け入れてもらえません。子どもたちがいつもどんな食事をしているか、家庭での食事調査をしたり、市場に行って人々がどのような食材を買っているのか、街の食堂に行ってどのようなものを食べているのかを調査するころから始まります。また、調査や研究に協力してもらうカウンターパートを現地で探すことも、調査活動には大切なこととなります。

たんぱく質やビタミンが足りない

現在、調査をしているブータンでは、たくさんの唐辛子を食べます。唐辛子とともにチーズも多く摂取し、米のご飯もたくさん食べます。一見、バランスが良さそうに見えますが、成長に必要なたんぱく質が不足しているのと、唐辛子だけでは足りないミネラルやビタミンがあり、もう少しいろいろな野菜を摂取する必要があります。また、子どもたちはジャンクフードが大好き。学校に通うカバンの中に、スナック菓子が入っていることもあります。

子どもたちに向けて、自分の体の成長のために、今何を選んで食べたら良いのか、自分たちの周りにある食材、料理から上手に選択できるようになるため、様々な教材を使って一緒に学べるよう、現在、研究を進めているところです。

ブータンの農村地域の小学校で、お弁当の話やスナック菓子についての授業を行った様子
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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途上国において、子どもたちに学校教育を通じて、どのような食べ物を選択すれば望ましい栄養状態になるのか、自ら考えることができる栄養教育を行います。

そのためには、言葉の問題や食習慣、食文化などを理解した上で、子どもたちに理解しやすい教材を作り、それを使ったプログラム開発を行うことが必要になります。子どもたちの食選択能力が向上することにより、ゆっくりではありますが、国民全体の栄養改善につながり、ひいては健康寿命を延ばすことに貢献できるのではと考えています。

◆先生が心がけていることは?

材料を無駄なく料理をして、残さず食べています。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「家政学的知見に基づいた生活支援教材の開発-ブータンでの協働を事例として-」
詳しくはこちら

ブータンの首都ティンプーにある大規模な小学校で行った食育の模擬授業。 現地の先生に授業の仕方や教材をみて頂き、今後の授業の参考にしていただきました。
注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の授業では
◆初回の講義では

まずは、実際に授業で使っている教材を並べて、興味を持った教材を学生に触ってもらいます。紙芝居やベープサイド、指人形、エプロンシアター、かるた、実物大の食品模型等、様々な教材があることにびっくりする学生、自分が小学生だったらと疑似体験をする学生と、反応は様々です。教材はいっぱいあり、いろいろなものが教材になることをまず知ってもらってから、教育論や指導方法等についての授業を進めていきます。


ゼミ合宿では、フードステムを学ぶということで、生産から加工、消費までを体験学習しました。
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な職種

小中学校、高等学校、専修学校・各種学校等の教員

◆学んだことはどう生きる?

卒業後いったん一般の食品会社に就職しましたが、教育実習での児童との関わりが忘れられず、教員試験を受け直し、栄養教諭になった卒業生がいます。ドキドキしながら、自分が作った指導案や教材に、児童が笑顔で反応してくれているのは、忘れがたい経験だと思います。教育実習後、教員になる決心を固める学生は多いのではと思います。


授業実践には、やはり教材作りが大切だと思います。児童や生徒の発達状態を考えながら、教材を作ることは、初めのうちは大変難しいことと思います。しかし、うまく児童に受け入れられた教材の事例を多く見て体験してもらうことにより、教材作りのスキルも随分向上していくように思います。

先生の学部・学科は?

私が担当しているのは、栄養教諭養成課程・家庭科教員養成課程です。現在、教職を希望する学生は、以前と比較すると少なくなりました。しかし、教員になりたいと考えて授業を取っている学生は、実際に栄養教諭・家庭科教員になり、教壇に立って活躍してくれています。

教科書に沿って、いかに児童・生徒にわかりやすい授業を行うか、いろいろ試行錯誤をしながら、授業研究を行っています。実際にOGの先生方のお話をうかがうとともに、教材研究の方もがんばって行っています。

中高生におすすめ

続・発想法 KJ法の展開と応用

川喜田二郎 (中公新書)

私が学生だった頃に、発想を柔軟に、一つの事柄にとらわれないためにと教わった方法の一つです。KJ法とは、一か所に集められた多くの情報に対して、グルーピング、ラベリング、図解化、文章化という手順を踏むことで、本質的問題の特定や新たな問題解決策の発見、革新的アイデアの創出などを実現させることができる、創造的問題解決技法や創造性開発技法の一つの方法です。考案者である川喜田二郎氏のイニシャルから、KJ法と名付けられています。

実際に、ラオスでの北部山間部の地域で、学校給食関係者を集めてのワークショップを行う時にも使わせていただきました。言葉や考え方、習慣が異なる少数民族の方が多い中で、参加者のお互いの考え方ややり方を、書いてあるカードで知ることができました。それとともに、どのような方向にまとめることができるのか、みんなで書かれたカードを見ることで、お互いを理解し、共通の考えを探し出すのに、とても役に立ちました。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

国際栄養を学びたいです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ブータン。人びとがとても温かく、まじめで勤勉な人が多いです。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

ユーミン。特に、『春よ、来い』。


ブータンの学校での伝統工芸の授業の様子

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